
こんにちは。カウンセラーの池内秀行です
性格は変わらない?
「性格は変わらない」という話を聞くことがあります
私も、カウンセラーになる前は、自分の悩みや苦労することについて、自分の性格に問題があったり、相手の性格が問題だと思っても、それは変えようにも変えようがなく、一生つき合っていくしかないものだと思っていた時期がありました
しかし、カウンセラーになるプロセスを経て、カウンセラーとして仕事をするようになると、変わらないと言われる性格や人格は、変わっていくものであると心から思うようになりました
性格が問題になるとき
性格が問題にされる場面は、現実的に仲良くできなかったり、分かり合えなかったり、協力できないとき、やめてほしいことをいくら頼んでもやめてくれないとき、仕事の関係などで業務上の問題が生じたときなど、何か困りごとや問題が生じているときです
また、本人が自分の性格によって苦痛を感じたり、日常生活に支障をきたしていると認識しているときにも、問題になります
心理学における性格とは?
心理学でいう「性格」には「人格(personality)」や「性格(character)」がありますが、日本語では訳者により用語の使い分けに統一がありません
また気質や個性も含め、文脈に応じて「性格」という言葉で語られることが多いのが現状です
心理学用語としてのそれぞれの意味
キャラクター(character):先天的な行動スタイル
生まれながら持続的で一貫している行動スタイルを示す言葉として用いられます
パーソナリティ(personality):社会的経験で形成される傾向
生まれながらではなく、生まれてから社会的に形成される役割的傾向を指し、物理的・社会的環境との関わりにおける思考・感情・行動の基盤を示す言葉として用いられます
気質(temperament):情動反応の特徴、生理学的基盤
個人の情動反応(感情)の特徴で、外界刺激への感受性や反応の強さに関する個人差を説明する言葉とて用いられます
自律神経系や内分泌系と関連し、パーソナリティの基盤をなす特性です
例えば、「おっとりしている」「かっとなりやすい」など、環境の変化ではあまり変わらない部分とされています
個性(individuality):他者との差異を強調
個性は、他者との差異を強調するために用いられます
一般的に使われる「性格」という言葉の意味
専門用語とは別に、性格、人格、パーソナリティ、キャラクター、気質、個性などの言葉は日常的に人それぞれの意味合いで自由に使われています
厳密に区別することは難しく、多くの人が広い意味で「性格」という言葉を用いているため、文脈を理解し、どの意味で使われているかを把握することが大切です
クライエントのお話を聴いていると、「性格は変わらない」「性格が悪い」といった話が出てくることがあります
そのようなときに詳しくお話をうかがうと、人格、パーソナリティ、キャラクター、気質、個性といった概念を指している場合も多く、「性格」という言葉が広い意味で使われていることを実感します
性格は変えられる。変わっていく。
性格、人格、パーソナリティ、キャラクター、気質、個性のいずれかが少しずつ変わり、周囲の人がその変化に気づき、変化が一定期間続くと、「最近変わったよね」「性格が変わったよね」と認識されます
変化とは、小さな一歩の積み重ねによって生まれる連続体です
そして、その変化は、当事者の言動や態度が無理のない自然な形で持続して初めて、周囲に伝わっていきます
当事者がいくら「自分は変わった」と感じていても、努力している最中は、その様子が周囲にも伝わっていることが多いため、「変わったね」とは言われず、「頑張ってるね」と声をかけられることが多いものです
人間関係で大切なのは、相手との関係を大切にしようとする姿勢です
このような努力も一つの変化であり、その積み重ねが重要なのです
自分一人の努力だけで性格は変わるのか?
自分の考え方や行動を変えようと努力することで、自らを成長させることは可能です
しかし、その努力が性格そのもの、つまりパーソナリティの変化にまで及んでいるのかどうかは、正直なところ判断が難しいところです
自分一人で努力し、自立的に変わろうとする人はたくさんいます
ただし、感情のコントロールや、生理的な防衛反応のパターンを自覚し、変えていくことは、自分一人では非常に困難です
仮に努力の結果、ある程度マネジメントできるようになったとしても、他者の協力がないと変えることができない部分も存在します
そうした部分は「生きづらさ」として残ることが多くあります
とくに、生き延びるために身につけた強力な生理的防衛反応は、調整するために他者との関わりが不可欠であることは、それぞれの経験則で容易に想像できるのではないでしょうか
そのため、こうした生理的防衛反応は、一人で取り組むには限界があり、変化しきれずに残ることが自然です
一方で、「自分一人の努力で性格が変わり、生きづらさもなくなった」と話す人も確かに存在します
そうした人々の話を聴いていると、必ずと言っていいほど、その人の努力を見守り、支え、協力してくれる他者の存在があることに気づきます
ところが、本人がその支援の価値に気づいていなかったり、当然のこととして受け取っている場合もあります
そのような認識が、実はその人の性格上の課題と捉えられることもあるのです
こうした「周囲の関わりの価値」については、カール・ロジャーズの論文『セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件』に示されています
そこでは、性格が建設的に変わっていくために必要な条件が提示されています
私の経験則では、カウンセラーとは別に、努力する本人を見守り、支え、協力してくれる人たちが必ず存在します
その人たちは意識的でないにせよ、利害関係の有無に関わらず、人間としての良心から関わっているように思えます
そして、その関わりが、ロジャーズが述べた「変化のための条件」をすべて満たしている場合があります
また、複数の人たちの関与を合計すると、ロジャーズの条件がすべて揃っているというケースもあります
したがって、「自分一人の努力」と見える場合でも、必ずどこかに他者との健全で十分な関わりが存在しています
その両方が車の両輪となって、性格が建設的に変化していくと理解するのが自然です
ロジャーズの論文「セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件」の中に示されている6条件
【H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳(2001)「ロジャーズ選集(上)」誠信書房】
1 2人の人が心理的な接触をもっていること。 2 第1の人(クライエントと呼ぶことにする)は、不一致(incongruence)の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にあること。 3 第2の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係のなかで一致しており(congruent)、統合して(integrated)いること。 4 セラピストは、クライエントに対して無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)を経験していること。 5 セラピストは、クライエントの内的照合枠(internal frame of reference)を共感的に理解(empathic understanding)しており、この経験をクライエントに伝えようと努めていること。 6 セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最低限クライエントに伝わっていること。 6条件以外に、この条件に含めなかった「省略されている重要なこと」
・この条件は、治療ではなくパソナリティ変化の理論であること
・この条件と心理学的知識、精神医学的知識、医学的知識、あるいは宗教的な知識などは関係ないこと
・カウンセラーやセラピストといった資格とは関係ないこと
・クライアント・センタード・セラピーの理論ではないこと
・サイコセラピー(カウンセリング)は、日常生活のなかに起こる他のすべての人間関係と種類の違う特別な人間関係ではないこと
・治療技法を書いているわけではなく、パーソナリティの変化について書かれたものであって方法・技法とは関係ないこと
性格が変わったことを認められない、受け入れられない
たとえ周囲の人々から見て明らかに性格が変わったと認識されるほどの変化があったとしても、それを素直に認めたり受け入れたりできない人たちが存在します。
そうした人たちは、多くの場合、変化する前の性格によってその人の言動や態度から生じた現実的な悩みや問題が未解決であったり、必要な償いや賠償が十分に行われていない当事者や関係者です
現実的な問題や心の傷が解決・癒されていない状態では、たとえ表面的に性格が変わったように見えても、「本当に変わった」と認めたり受け入れたりすることができないのは、自然な感情であり、理解できることです
このような立場にある人たちは、無理にその変化を認めたり許したりする必要はありません
まずは現実的な問題がしっかりと解決されることが先決です
そして、その後、自分の気持ちが落ち着き、受け入れてもいいと感じられるようになったときに、初めてその変化を受け入れたり、許したりすればよいのです
もし、他者から「許すべきだ」と勧められたとしても、無理をして受け入れたり許したりする必要はまったくありません。何よりも、自分自身の心のプロセスを大切にすることが重要です
性格ではないが誤解されやすいこと
性格ではありませんが、誤解されやすいこともあります
発達障害
発達障害は性格ではなく、脳機能の発達による特性です
薬や周囲の理解・協力、自分に合った対処法によって、特性と上手く付き合えるようになっていきます
また、発達障害についての情報が広く知られるようになった現在、カウンセリングの現場では、自分で調べた結果「自分は発達障害だ」と認識している人が増えています
しかし実際には、発達障害ではなく、トラウマ反応や環境要因による防衛的ストレス反応、あるいはその他の反応や症状である場合も少なくありません
トラウマ反応
性格だと言われていることでも、実際はトラウマ反応である場合もあります
トラウマ反応には、解離やフラッシュバックなどがあり、本人だけでなく関わりのある人も、ある特定の状況や刺激によって、予測できないほど強い反応や、逆に極端に弱い反応を示すことがあります
そうした反応がトラウマによるものだと認識されず、性格の問題だと誤解されることも少なくありません
トラウマ反応は、トラウマを癒していくことで次第に解消されていきます
すると、「性格の問題」だと思っていた人たちは、「性格が変わったね」と認識するようになります
環境要因による防衛的ストレス反応
安心・安全を感じられない過酷な環境、人として尊重されない関係、権利が守られない搾取的な関係、あるいは、ハラスメントやDVなど、パワーが一方的に不健全に使われる人間関係においては、自分の心身や権利を守るため、「闘う」「逃げる」「固まる」「迎合」といった防衛的ストレス反応が起きやすくなります
パワーポジションにいる人が、自身の影響力に無自覚であったり、それを過小評価している場合、相手の防衛反応を「性格の問題」として誤解し、決めつけてしまうことがあります
しかし、防衛的なストレス反応は、そのような環境や人間関係の中でのみ見られることが多く、安全で安心できる環境や、信頼できる人間関係の中では現れないこともあります
そのため、「性格の問題」と見なしていた相手が、別の場面ではまるで別人のように見えることもあります
一方で、過酷な環境や搾取的な関係、ハラスメント、DVなどの人間関係が長く続くと、その影響で防衛的ストレス反応による言動が慢性化することがあります
その結果、他者との心理的距離が極端に広がったり、逆に無防備に近づきすぎたりと、人間関係や感情の調整が難しくなることがあり、それが「性格」と誤解されることもあります
こうした場合には、まずは過酷な環境から離れて自分を癒すこと、そして防衛的ストレス反応によって形成された自分のパターンを見直し、変えていくことが大切です
もし離れることが難しい事情がある場合でも、安心できる別の環境を見つけて自分を癒しながら、自分を大切にするスキルを身につけることで、自分のパターンを変えていくことはできます
搾取する相手や、ハラスメント・DVを行う相手との関係についても、関係を終わらせて自分を癒すことで、防衛的ストレス反応によって形成されたパターンを変えていくことができます
また、どうしてもその相手と離れることができない場合でも、自分を癒しながら自分自身を大切にすること、そして相手との関係を変えていく取り組みを続けることで、少しずつ自分のパターンを変えていくことができます
ネガティブな性格に変わることについて
性格が変わるという点においては、ポジティブだった人がネガティブな性格に変わってしまうことも、実際に起こり得ることです
このようなネガティブな性格の変化は、建設的な変化とは逆に、他者との関係でマイナスの影響を受けたり、困難な環境にさらされることによって引き起こされます
したがって、人生の中で経験するさまざまなストレス、トラウマ、失敗、裏切り、人間関係の問題などが影響して、人の性格がネガティブな方向に変わることは、珍しいことではありません
こうした変化は、その人自身にとっては「防御反応」や「自己防衛」として現れてきます
たとえば、過去に何度も傷ついた経験がある人は、悲観的になったり他人に対して疑い深くなったりすることで、自分を守ろうとすしていることがよくあります
しかし、こうした「防衛反応」や「自己防衛」は、周囲との関係性にも影響を及ぼしやすく、人間関係の悪化や孤立を招くこともあります
こうした時、他者から、性格がネガティブと評価されたり、付き合いがある人との関係では性格がネガティブに変わったと評価されてしまうことがよくあります
そして、自分自身でも自己否定感や不信感を強めるループに陥ると、さらに、その影響で人間関係の悪化や孤立が深まっていきます
心当たりがある人たちは、ネガティブになってしまった自分を責めるのではなく、「なぜそうなったのか」「どんな背景があるのか」を見つめ直し、自分自身の内面と向き合うことが回復の第一歩になります
また、周囲の人たちがその変化を理解しようとする姿勢も、回復の助けになります
変化には必ず理由があることを認め、非難ではなく共感と対話を通じて向き合うことが大切です
健全で十分な関わりの価値
環境や人間関係の質は性格変化に大きく影響し、ポジティブな変化には時間がかかる一方で、ネガティブな変化は瞬時に起こることが多いです
ポジティブな変化を想像しにくい人がいても、健全な関わりの価値は変わりません
生き方のクセ
日常生活で使われる「性格」という言葉には、さまざまな意味がありますが、それらはそれぞれ変わっていくものです
また、「性格」ではないものとして、発達障害やトラウマ反応、環境要因による防衛的ストレス反応も存在します
それぞれの人が、自分にできるベストを尽くして努力し、悩みや問題を克服しようと日々取り組んでいますし、実際に克服した人たちもいます
それでも、人間が生物として生き残るための防衛的ストレス反応や、過酷な環境や厳しい人間関係の中でサバイブするために身につけた考え方や言動のパターンは、取り組みの中で他に役立つ方法を身につけたことで使わなくなったとしても、危機の際の生存手段として自分の中に保存されています
したがって、コンディションによっては、必要のないときに「サバイブモード」がひょっこり顔を出すこともあります
こうした名残は「生き方のクセ」のようなものです
自分のクセとして自覚しておくことで、自らの人生に不必要な問題を引き起こさずに済むようになります
最後に
性格は変えることができます
ただし、そのプロセスは人それぞれであり、必要な取り組みや時間も異なります
カウンセリングを通じて、「性格」を「生き方のクセ」として意識的に捉え直し、それと向き合うことで、自分のリソースとして活用し、QOL(生活の質)を高めることが可能です
プロカウンセラー 池内秀行
2024,03,26初出.2024.03.30一部改訂,2025.05.04一部改訂とタイトル変更,2025.05.09一部改訂とタイトル変更
参考図書
無藤隆 他(2018)「心理学(新版)」有斐閣
中島義明 他(2006)「心理学辞典」有斐閣
Susan Nolen-Hoeksema他 監訳者・内田一成(2021)「ヒルガードの心理学」金剛出版
H,カーシェンバウム他・監訳 伊藤博他(2007)「ロジャーズ選集(上)」誠信書房
各種カウンセリングご案内
Wrote this articleこの記事を書いた人
プロカウンセラー池内秀行
個人・カップル・家族・友人同士など、幅広い人間関係やライフステージの悩みに対応する心理カウンセリング・セラピーを提供しています。人間関係の悩み、家庭内の悩み、恋愛・夫婦関係の改善、職場での悩み、自己理解や自己肯定感の向上、不安・抑うつ・トラウマの癒し、生きづらさの解消など、多様なテーマに寄り添います。クライアント一人ひとりの背景や課題に応じたオーダーメイドのカウンセリングを大切にし、安心してお話できる環境を整えています。初めての方でも不安なくご利用いただける丁寧なサポートを心がけています。オンラインカウンセリングで海外在住の方にも対応Zoomなどを用いたオンラインカウンセリングにも対応しており、海外在住の方、日本語での心理サポートを必要としている方にも多くご利用いただいています。時差や言語の壁に悩むことなく、安心してご相談いただけます。東京から全国・全世界へ対応可能です。お気軽にお問い合わせください。