
こんにちは。カウンセラーの池内秀行です
心と身体は結びついている
心と身体は結びついています
身体的に疲れていたり不調であると、気分も落ち込みがちになることは、多くの人が経験したことがあると思います
また、怪我や痛み、抜歯後などに気分の落ち込みを経験した人もいるでしょう
このように、身体の状態が心の状態に影響を与えることは、経験則だけでなく、さまざまな研究によっても明らかになってきています
特に脳の研究が進んだことで、神経回路と精神状態の関係も明らかになりつつあり、心の働きを考える際には、身体との結びつきを無視できなくなっています
身体とこころの相互作用
身体の健康状態が心に影響を与えるため、自己効力感・自己肯定感・自尊心の感じ方も、身体の状態によって変化します
これは、単なる感じ方の違いだけでなく、自分自身や物事の認識の仕方そのものにも影響を与えます
自己概念は、自分自身について知っていることや信じていることに大きく影響されます
そのため、心理的な側面だけでなく、身体的な体験を含む多様な経験を通じて形成されます
こうした背景から、自己効力感・自己肯定感・自尊心といった感覚は、自分と他者の違いを認識し、他者や環境との関係の中で「自分の存在を実感する」ことで育まれていきます
ここでいう「自分の存在を実感する」とは、物理的な身体が外界と区別され、他の存在から独立して存在しているという認識と、その感覚を指します
「自分の存在を実感する」際に認識される身体とは、自分の身体に意識を向け、身体感覚を通じて意識される「自分の身体」であるという感覚です
そして、「自分の身体」という認識を持ったうえで身体感覚に意識を向けることで、その感覚をより深く実感できるようになります。こうしたプロセスを通じて、「自分の身体」だけでなく、自分の気持ちや考えなどの主観的な体験も、次第に認識できるようになっていきます
ここでいう、意識を向けることで認識できる身体感覚は、大きく分けて「外受容感覚」「自己受容感覚」「内受容感覚」の3つに分類されます
外受容感覚
外受容感覚とは、外部環境を捉える感覚です
目・耳・皮膚・鼻・舌などの感覚器を通して、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった五感で環境からの情報を知覚します
内受容感覚
内受容感覚とは、「お腹がいっぱい」「お腹がすいた」「胃が痛い」「トイレに行きたい」といった、身体内部(主に内臓)の状態を知覚する感覚です
これらの感覚は、内臓から自律神経を通じて脳に信号が伝わるため、「内臓感覚」とも呼ばれます
自己受容感覚(固有感覚・運動感覚)
自己受容感覚とは、身体を動かすことで感じられる、筋肉・骨格・関節からの運動感覚や、前庭器官によって得られる平衡感覚を指します
これらの感覚は、身体と環境との相互作用を通じて知覚されます
自己意識と身体性
自己意識
さまざまな研究から、自己意識(自分自身の存在、状態、感情、思考、行動などを客観的に認識し、意識する能力のことで、「自分が自分である」ということを理解し、自分の内面や外界との関係について考える力)は、外受容感覚(五感)と内受容感覚から得られる情報が統合される過程と深く関係していると考えられています
ここでいう「感情」は、大きく「emotion(情動)」と「feeling(感じ・気持ち)」の二つに分けられます
emotion(情動)
「emotion(情動)」とは、外部刺激によって無意識に生じる、生理的反応を伴った感情です
外部環境や人間関係などからストレスを受けると、私たちは心拍数の増加や体温の変動といった、意識的に制御できない身体内部の反応を経験します
これらの生理的変化は、自律神経系によって調整されており、その中枢には視床下部があります
視床下部は、感情処理に関与する扁桃体などの脳領域と連携し、自律神経系や内分泌系に働きかけることで、「逃げるための準備」など情動に応じた身体反応を引き起こします
このように、情動は神経生理的なメカニズムを通じて、心と身体の両面に影響を及ぼすのです
feeling(感じ・気持ち)
「feeling(感じ・気持ち)」とは、外部からの刺激によって引き起こされた生理的反応(たとえば心拍数の増加や胃の不快感など)を、自分自身が意識的に自覚し、その体験に意味づけを行うことで生まれる主観的な感情です
この感覚は、「なんとなく不安」「うれしいと感じる」といった、言葉で説明する前の個人的な体験としてあらわれます
情動(emotion)が無意識的・身体的な反応であるのに対し、feelingはその反応を意識の中で捉えなおし、「自分は今こう感じている」と認識する過程にあたります
身体性(embodiment)
外受容感覚・内受容感覚・自己受容感覚という三つの身体感覚が、身体の内部で統合されることで、私たちは環境に適応するための能力や知性を創発し、発達させていくと考えられています
このように、身体の感覚と環境との相互作用を通じて知的活動や自己認識が形成されるという考え方を、「身体性(embodiment)」と言います
自己効力感・自己肯定感・自尊心を育んでくれる感情「feeling(感じ・気持ち)」
自己効力感・自己肯定感・自尊心といった感覚は、他者との関係の中で育まれます
自分が何かを「できた」という体験や、無条件に肯定される経験を重ねることで、それらは少しずつ形づくられていきます
その過程で大切なのが、「feeling(感じ・気持ち)」です
たとえば、喜びや楽しさといったemotion(情動)が生じ、それを主観的に「うれしい」「楽しい」と感じることができるとき、良いfeelingとして記憶され、自己肯定感の土台となります
また、怒りや恐れといったemotionを感じたときでも、その体験に対して主体的に対処できたと感じたり、他者の協力によって安心感ややさしさを得られたりすれば、それもまた肯定的なfeelingとして蓄積され、自己効力感や自尊心の形成に寄与します
重要なのは、こうした感覚が「思考だけ」で得られるものではなく、「身体感覚」と結びついた実感のある体験によって育まれるということです
そのためには、日々の生活の中で五感を意識的に使い、内臓感覚にも注意を向けながら、自分にとって心地よい身体感覚を見つけていくことが役立ちます
そうした良いfeelingの体験を、無理のない範囲で少しずつ積み重ねていくことが大切です
ストレス社会における問題と身体性
現代のようなストレスの多い社会では、慢性的なストレスによって身体感覚に気づけなくなっている人が少なくありません
特に内臓感覚は、日常生活で意識的に注意を向ける機会が少ないため、意識的に練習していくことで徐々に感じられるようになり、内的な気づきをもたらし、ストレスの軽減にもつながります
私のカウンセリングでは、こうした身体感覚に焦点を当てるソマティック・アプローチも取り入れています
多忙な日常で身体に注意を向ける余裕がない方、慢性的なストレスや疲労感、慢性疼痛を抱える方、自分の気持ちを抑えて人間関係を維持してきた方などは、最初は身体感覚に意識を向けることに困難や不快感を覚えることもあります
それでも、無理のないペースでプロセスを大切にしながら取り組んでいくと、徐々に自分自身の微細な身体の変化や感情に気づけるようになります
そして、自分の気持ちを言葉にして表現できるようになり、自分への理解と自己受容が深まっていきます
このように、身体感覚は、自分を大切にして生きるためにも、創造性を発揮するためにも、欠かせない感覚なのです
身体感覚を意識したセルフケア
ここでは、身体感覚を意識することに焦点を当てたセルフケアの方法をご紹介します
一般的にリラックス法やストレス軽減法として知られている方法も多く含まれますが、本質的な違いは、「身体感覚を味わいながら行う」という点にあります
起きてからお風呂につかる
目覚めて間もない時間帯は、体温がまだ低く、自律神経のうち副交感神経が優位な状態にあります
そこで、朝にお風呂に入ることで交感神経が活性化し、体温が上昇しやすくなります
シャワーでもかまいませんが、身体がじんわりと温まる感覚をゆっくり味わうには、湯船に浸かることをおすすめします
湯船の中では、お腹や胸にそっと手を当てて、身体の内側に意識を向けてみましょう
どこか心地よい感覚があれば、それを丁寧に感じ取り、味わってみてください
また、好みの香りの入浴剤を使うことで、嗅覚を通じたリラックス効果も得られます
朝のペパーミント・ハーブティー
朝の時間が慌ただしかったり、肌への影響が気になるなどの理由でお風呂やシャワーが難しい場合には、ペパーミントのハーブティーがおすすめです
ミントには、胃腸の蠕動運動を促す働きがあるとされており、朝の内臓の働きをやさしくサポートしてくれます
温かいペパーミントティーをゆっくり飲みながら、胃や腸の動きや温もりに意識を向けてみましょう
お腹の内部には多くの迷走神経が張り巡らされており、温かさを感じることで副交感神経が優位になり、リラックスした状態へと導かれます
身体の内側に意識を向け、安心感やゆったりとした感覚を丁寧に味わうことで、心地よい「feeling(感じ・気持ち)」を感じることそのものがセルフケアになります
インナーマッスルを程よく刺激する
仕事や家事の合間、休憩中などのちょっとした時間に、椅子に座ったままできる簡単なエクササイズをご紹介します
左右交互に行います
まず、右膝に右手を当てて、膝と手でお互いに軽く押し合いましょう
力加減は「少し効いている」と感じる程度で、約5秒間キープします
次に、左膝と左手でも同じように行います
強く力を入れすぎると筋肉が過度に緊張してしまうため、「程よい力加減」が大切なポイントです
動作の後は、下腹部や肩甲骨のあたりに意識を向けてみてください
緊張がほどけ、身体がゆるんでいく感覚が得られると思います
その緩んでいく身体感覚を丁寧に味わうことが、セルフケアになります
腹式呼吸
腹式呼吸とは、横隔膜を上下に動かして行う呼吸法です
横隔膜は、自律神経に支配されている一方で、自分の意思でも動かせる「随意筋」で構成されており、自律神経系に影響を与える数少ない“意識的にコントロールできる”筋肉です
普段の呼吸は無意識に行われていますが、腹式呼吸ではこの横隔膜を意識的に動かすことで、自律神経のバランスを整える働きがあります
特に、副交感神経が優位になることで、身体が自然とリラックス状態へとむかいます
腹式呼吸のポイントは、「息を意識的にゆっくりと吐き切ること」です
吐き切ったあとは、無理に吸おうとせず、身体の自然な動きに任せて呼吸を続けましょう
深い呼吸を無理にしようとする必要はありません
たとえ浅い呼吸でも、その時の自分の呼吸に気づきながら、ゆっくり繰り返すことで、呼吸は次第に深まり、心身が落ち着いていきます
ただし、身体に強い緊張があるときは、すぐに緩まないこともあります
そんなときは「今、自分の身体は緊張しているんだな」と気づき、その感覚にやさしく寄り添うような意識を持つことが大切です
緊張している身体を否定せず、そのまま受け止めてあげることで、少しずつ緩みが生まれていき、それがセルフケアになります
自分の好きな音楽を聴く
自分の好きな音楽を聴くことは、心身に安らぎや活力をもたらすセルフケアの一つです
音楽をただ聞き流すのではなく、その時間を使って「今、自分の身体はどのように反応しているか」に意識を向けてみましょう
音楽を聴いているときの呼吸の変化、胸の高鳴り、体の緩みやこわばり、湧き上がる気持ちなど、そうした小さな変化に興味を持って観察していきます
気づいた身体感覚や感情を否定せず、ただそのまま味わってください
それは、「今この瞬間の自分」に丁寧に寄り添う、大切なセルフケアの時間になります
味わって食べる
食事は、身体感覚に意識を向ける絶好の機会です
食べるときには、香り、色合い、味、食感といった五感の情報を一つひとつ丁寧に感じ取りながら、ゆっくりと味わってみましょう
「どんな味だろう?」「どんな触感だろう?」という好奇心を持ち、自分の内側にどんな感覚や気持ちが湧いてくるのかに注意を向けてみてください
「美味しい」と感じたときは、その感覚を味わい、「これ、好きだな」と思ったら、その「好き」という気持ちにもしっかり意識を向けてみましょう
そうすることで、食事の時間が「自分の感覚を大切にするセルフケアの時間」へと変わっていきます
手を洗う
思考が巡って落ち着かないときや、仕事と仕事の合間、何かに一区切りついたときなどに、お水で手を洗ってみましょう
冷たい水に触れることで、自然と身体感覚に意識が向き、思考の流れに一時的な区切りがつきやすくなります
洗った直後にひんやりとした手が、じわじわと温かくなっていく感覚に気づけたら、その変化を丁寧に味わってみてください
日常の小さな行動を通じて、自分の身体感覚を感じる時間を持つことが、心を整えるセルフケアになります
肌触りの良いクッションや抱き枕を抱く
手触りのよいクッションや抱き枕があれば、それを抱きしめたり、膝の上に置いたりしてみましょう
その肌触りに意識を向けながら、自分の自然な呼吸のリズムをそっと観察してみてください
触れている部分の温かさや柔らかさ、呼吸とともに変化する身体の感覚など、その時に感じられることを丁寧に味わっていきましょう
やわらかな触感は安心感や落ち着きをもたらし、今ここにある自分の身体感覚にそっと寄り添うことができると、それがセルフケアになります
自分に幸せや心地よい感覚をもたらしてくれるものに気づいていく
毎日でなくても構いません。週に1回、あるいは3日に1回程度でも大丈夫です
日常の中でふと「幸せだな」「心地いいな」と感じる瞬間に出会ったら、その感覚に伴う身体の感覚にも意識を向けてみましょう
「幸せを感じているとき、自分の身体はどんなふうに感じているか」
「心地よいとき、呼吸や胸、手足の感覚はどう変化しているか」
そんな問いかけをしながら、その身体感覚を丁寧に味わってみてください
それがセルフケアになり、その心地よさを感じ取れる“今ここにいる自分”の存在を確認し、その実感を大切にしていると、頑張ろうしなくても、自然と次の行動へと移っていけるようになっていきます
見ていて心地よい物や景色を見つけたら、しばらくそれを眺める
日常の中で、ふと目に入った物や風景に「心地よい」と感じることがあったら、そのまましばらく眺めてみましょう
視覚から得られるその心地よさに気づいたら、同時に、それに伴って現れる身体の感覚にも意識を向けてみてください
目の奥の緩み、肩の力が抜ける感じ、呼吸の深まりなど、さまざまな反応に気づけるかもしれません
十分にその感覚を味わったら、自分の中で一区切りをつけて、次の行動に移りましょう
小さな「眺める時間」が、心と身体を整える静かなセルフケアのひとときになります
カウンセリングを受ける
これまでにご紹介したように、ソマティクアプローチのカウンセリングは、セルフケアの一環としてとても有効です
身体感覚に意識を向けるのは、実は自分一人だけではなかなか難しいものです
そんなとき、カウンセラーのサポートを受けながら少しずつ身体感覚に気づけるようになっていくと、やがては自分一人でもその感覚に意識を向けられるようになります
また、すでに身体感覚に気づく力がある方であっても、ひとりではなかなか触れられない感覚もあります
その感覚には、これまで無意識のうちに避けていた、大切なメッセージが含まれていることが少なくありません
そうした身体の声を丁寧に聴いていくと、自分の内面に深い変化が生まれ、人生の新たな一歩が開かれることもあります
自分ひとりで抱えずに、必要なときはカウンセラーの力を借りて、自分自身の身体と心の声に寄り添ってみてください
私はカウンセラーとして、クライエントのそうした気づきと変化のプロセスに立ち会うたびに、その可能性の深さを実感しています
最後に
自己効力感・自己肯定感・自尊心は、自分自身と他者を尊重し、互いの権利を大切にする関わりを日々積み重ねていく中で、少しずつ育まれていくものです
そのプロセスには、思うように進まないことや、苦労や困難もつきものです
ときには遠回りしたり、立ち止まったりすることもあるでしょう
だからこそ、続けていく努力も大切です
一方で、それと同じくらい大切なのが、「今、ここにいる自分」を感じることです
日々の生活、そして人生という長い時間のなかで、ただ「頑張る」だけではなく、自分の身体感覚に意識を向け、自分の存在を確かめられるようなセルフケアを生活の中に取り入れて大切にしていきましょう
自分をいたわり、感じ、受け入れる時間が、より深く豊かな人生へといざなってくれることでしょう
文責 カウンセラー池内秀行
2024.03.15初出,2025.05.08一部改訂・タイトル変更
参考図書
Neil R.Carlson他 日本語監訳・中村克樹(2022)「カールソン神経科学テキスト-脳と行動-」丸善出版
Liqun Luo 監訳・柚崎道介他(2017)「スタンフォード神経生物学」メディカル・サイエンス・インターナショナル
Eric R.Kandel他 日本語監修・金沢一郎他(2014)「カンデル神経科学」メディカル・サイエンス・インターナショナル
明和政子(2019)「ホモ・サピエンスの未来を考える」『発達』157vol.40,93-102,ミネルヴァ書房
中島義明他(2006)「心理学辞典」有斐閣
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Wrote this article この記事を書いた人
プロカウンセラー池内秀行
個人やカップル、家族や友人同士での心理カウンセリング・セラピーを提供しています。個人の生活や人間関係や家族関係、恋愛・夫婦関係などカップルの関係性の改善、仕事の悩みや問題の解決、感情的な悩み、自分自身のこと、ストレスによる身体症状、生きづらさ、トラウマの癒しなど、日頃のちょっとしたことから深刻なことまで、ご相談内容に応じたオーダーメイドのカウンセリングを提供しています。初めての方も安心してお越しいただける環境を心掛けています。お気軽にご連絡ください。