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ロジャーズの傾聴の3条件

ロジャーズの傾聴の3条件は「傾聴の技法」ではない。

ロジャーズの傾聴の3条件は、カウンセラーとクライアントの二人の関係の中における、カウンセラー側のクラインアントに対する態度や関わり方を考察したものです。

一般的に「傾聴の技法」と思われている人が多いようですが、それは誤解です。

ロジャーズは論文「セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件」の中で、傾聴の3条件といわれている条件について次のように説明しています。

・・・だからセラピー関係というものは、一部は他の関係のなかにもしばしばみられる建設的な性質を高めたものと考えられるし、他の関係ではせいぜい瞬間的でしかなかった性質が、時間的に拡大されたものである、とみることができるであろう。
 特別な、知的・専門的な知識ー心理学的な、精神医学的な、医学的な、あるいは宗教的なーがセラピストに要求される、ということも述べられていない。第3、第4、第5条件はとくにセラピストに適用されるものであるが、それは経験的な性質のものであり、知的な情報ではない。それが学習によって獲得されるものであるとすれば、私の考えでは経験的な訓練によって獲得されるものである。

H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳:「ロジャーズ選集(上)」(誠信書房),280頁,2001

ロジャーズの傾聴の3条件とは?

ロジャーズの傾聴の3条件とは、ロジャーズの論文「セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件」の中に示されている6条件の内、セラピストに適用されるものとして示された、第3条件、第4条件、第5条件のことを言います。

論文に示されている6条件は以下の通りです。論文ではロジャーズおよび同僚の臨床経験と適切な研究などに考察を加えて、「建設的なパーソナリティ変化を始動するのに必要であると思われ、また総合してみるとそのプロセスを始動するのに十分であると思われる、いくつかの条件」【H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳:「ロジャーズ選集(上)」(誠信書房),266-267頁,2001】として引き出されたものです。

(1)2人の人が心理的な接触をもっていること。
(2)第1の人(クライエントと呼ぶことにする)は、不一致(incongruence)の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にあること。
(3)第2の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係のなかで一致しており(congruent)、統合して(integrated)いること。
(4)セラピストは、クライエントに対して無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)を経験していること。
(5)セラピストは、クライエントの内的照合枠(internal frame of reference)を共感的に理解(empathic understanding)しており、この経験をクライエントに伝えようと努めていること。
(6)セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮が、最低限クライエントに伝わっていること。

この6条件を理解しようとする時、大切なことがあります。

それは、以下に引用するように、ロジャーズは、「技法や理論として提示しているのではなく」、自らの経験則も踏まえて、どんな関係、どんな状況でも、「建設的なパーソナリティの変化が起こる時には、どんな条件が揃っているのかを提案している」のであり、その違いを認識して、論文全体の一部として理解しようとすることです。

これら六つの条件はクライエント・センタード・セラピーの基本条件であるとか、他のタイプのサイコセラピーには他の基本的条件が必要である、ということは述べられていない。たしかに私は自分自身の経験から大きな影響を受けているのだが、この経験が私を、「クライエント・センタード」と名付けられる観点に導いたののである。それにもかかわらず私がこのような理論を記述する目的は、建設的なパーソナリティー変化が起こるいかなる状況にも適用される条件を提案するということなのである。

H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳:「ロジャーズ選集(上)」(誠信書房),279頁,2001

上記引用部分を含めた論文全体から、ロジャーズは、自らの提案をスタート地点として、自ら人間として、人間である他者と、人間同士の関わりを通して、それぞれが自らの経験を通して「建設的なパーソナリティ変化が起こる」関わりを発展させて欲しいという思いがあったのではないかと思います。

そして、この論文の中で、ロジャーズは、カウンセリングの逐語録や観察、ロジャーズの経験から、うまくいっているカウンセリングでは、クライアント側からみて、カウンセラー側に、第3条件、第4条件、第5条件の3つの条件がそろっていると考察しています。

特別な、知的・専門的な知識−心理学的な、精神医学的な、医学的な、あるいは宗教的な−がセラピストに要求される、ということも述べられていない。第3、第4、第5条件はとくにセラピストに適用されるものであるが、それは経験的な性質のものであり、知的な情報ではない。

H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳:「ロジャーズ選集(上)」(誠信書房),280頁,2001

論文で示されている傾聴の3条件

傾聴の3条件と言われている、ロジャーズの論文で示されている3条件は、第3条件「自己一致」、第4条件「無条件の肯定的配慮」、第5条件「共感的理解」です。

第3条件「自己一致」

(3)第2の人(セラピストと呼ぶことにする)は、その関係のなかで一致しており(congruent)、統合して(integrated)いること。

これは、カウンセラー自身が、人間としての自分自身が感じていること、考え、価値観、体験に気づいている、ということです。

そして、自分自身で、それを否定したり歪めて、自分を隠したり、必要以上によく見せたりせずに、そのままの人間としての自分を受け入れて、一人の人間としてクライアントの前で存在している、ということです。

第4条件「無条件の肯定的配慮」

(4)セラピストは、クライエントに対して無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)を経験していること。

これは、クライアントがどうあっても、クライアントへの関心が変わらない、という人間としてのクライアントの存在を受容しようとする心の姿勢のことです。

この姿勢は、一人ひとり皆が、異なった考え方・感じ方をすること、違う価値観をもっていること等を心から認めており、相手と自分を等しくかけがえのない独自の存在として尊重する心の姿勢と、実際の現実的な姿勢、態度、言動まで含むものです。

第5条件「共感的理解」

(5)セラピストは、クライエントの内的照合枠(internal frame of reference)を共感的に理解(empathic understanding)しており、この経験をクライエントに伝えようと努めていること。

これは、相手の主観的な見方、感じ方、考え方、受けとめ方を、その人の立場に立って、相手の身になって、みたり、感じたり、考えたりしようとする姿勢、態度、言動のことです。

共感は、相手と一体となったり融合して同じように体験する同情や巻き込まれた体験とは異なります。

カウンセラー自身の主体はいつもカウンセラーに存在し、そしてクライアントの主体はいつもクライアントに存在しています。

この3条件は、カウンセリング、セラピーにおいて、カウンセラー側の姿勢、態度として大切なこととして理解されています。

傾聴の3条件が揃っているかどうかはどのようにわかるのか?

それでは、カウンセリングにおいて、カウンセラーにロジャズーが示した3条件が揃っているかどうかは、どのようにしてわかるのでしょうか?

それは、実際のカウンセリングがうまくいっている事実、もしくは、クライアントが助けになっているという実感によってわかるものです。

カウンセラー側が、クライエントに確認することなく、自己評価で「自分はこの3つが出来ている」と思っていても、クライエント側がそう経験していないと、揃っているとは言えません。

セラピーに必要な6条件以外に、省略されている重要なこと

ロジャーズの論文には、6条件以外に、この条件に含めなかった「省略されている重要なこと」も記されています。

「省略されている重要なこと」【H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳:「ロジャーズ選集(上)」(誠信書房),278-284頁,2001】

  • この条件は、治療ではなくパソナリティ変化の理論であること。
  • この条件と心理学的知識、精神医学的知識、医学的知識、あるいは宗教的な知識などは関係ないこと
  • カウンセラーやセラピストといった資格とは関係ないこと
  • クライアント・センタード・セラピーの理論ではないこと
  • サイコセラピー(カウンセリング)は、日常生活のなかに起こる他のすべての人間関係と種類の違う特別な人間関係ではないこと。
  • 治療技法を書いているわけではなく、パーソナリティの変化について書かれたものであって方法・技法とは関係ないこと。

以上から、ロジャーズの論文「セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件」は、パーソナリティ変化について考察されたものであって、カウンセリングの傾聴そのものについて考察されたものではありません。

6条件は、全ての人間関係に当てはまる

したがって、カウンセリング以外の、家族や身近な親しい関係の中でも、6条件がそろった会話が成立すれば、パーソナリティの変化はおこっていくということです。

また、傾聴の3条件は、自分も相手も双方を尊重した関わりの基本と言えます。

では、カウンセリングと家族や身近な親しい人たちとの会話の違いは何でしょう。

それは、家族や身近な親しい人たちとの会話では一時的に3条件がそろうことはあっても継続して、この3条件を満たした関わりは現実的に難しいという点です。

カウンセリングは、カウンセラーとクライアントの関係の中で、カウンセラーが常にこの3条件を大切にしながら、クライアントのこころの移り変わりや人間関係の変化を援助していく会話と説明することもできます。

・・・だからセラピー関係というものは、一部は他の関係のなかにもしばしばみられる建設的な性質を高めたものと考えられるし、他の関係ではせいぜい瞬間的でしかなかった性質が、時間的に拡大されたものである、とみることができるであろう。

H.カーシェンバウム他編,伊藤博他監訳:「ロジャーズ選集(上)」(誠信書房),280頁,2001

クライエント側で体験されていること(フェルトセンス)

一方、ジェンドリンの研究によって、うまくいっているカウンセリングについて、カウンセラー側ではなく、クライアント側に焦点をあてて研究し考察した結果、ジェンドリンによって発見されてネーミングされたのが「フェルトセンス」です。

「フェルトセンス」とは、クライアントが言葉ですぐに言い現すことができない、自分の身体感覚として感じられているモヤモヤした感じなど、身体で感じられる感覚のことです。

ジェンドリンの発見は、このフェルトセンス(身体で感じられる感覚)がカウンセリングのプロセスとともに変化しているということです。

ジェンドリンが、フェルトセンス(身体で感じられている感覚)を感じとる方法として教示したのがフォーカシングです。

そしてカウンセラーがどんなカウンセリングの理論や技法を使っていても、そこにクライアントのフェルトセンスが変化していく体験過程を促すサポートをしていくカウンセリングをフォーカシング指向心理療法といいます。

傾聴の3条件とフェルトセンス

私の体験的理解で、ロジャーズの考察した3条件をフェルトセンスで理解しようとすれば、次のような説明になります。

カウンセラーは、クライエントとの関係の中で、自分自身のフェルトセンスに気づいていて、自分のフェルトセンスを尊重しており、それに自ら寄り添い続けながら、クライアントと共にそこに存在しているので、クライエントのフェルトセンスにも気づけており、自分のフェルトセンスと同じようにクライエントのフェルトセンスも尊重しながら関わっていくプロセスの中で、その相互作用で起こってくる変化の過程も尊重しているということがインタラクティブにクライエント側にも体験的に伝わる立ち居振る舞いが出来ている関わりのプロセス。

カウンセラーとして3条件を磨く方法

カウンセラーとしてのロジャーズの3条件を磨く方法は、いろいろあると思いますが、一番役立つのは、傾聴のトレーニングやスーパービジョン、コンサルテーションの他に、「自分自身が一人のクライエントとして」、通常のカウンセリングを、正規の料金を支払って継続して受けることです。

問題や課題がなくても、自らクライエントとして、本来のカウンセリングを継続して体験していくことで、カウンセラーのどのような関わりが、3条件にあたるのか、体験的にわかるようになっていきます。

自らの体験を通してわかったことは、何ものにも変えがたい、自分自身の財産になっていきます。

それは援助職としてだけではなく、一人の人間としての財産であり、全ての人間関係に役立つものです。

以上

(2014-06-14作成,2014-08-01追記改訂,201410-06追記改訂,2015-10-13改訂,2020-02-20改訂)

文責 池内秀行

【参考図書】
ロジャーズ選集(上)
セラピープロセスの小さな一歩(フォーカシングからの人間理解)
フォーカシング指向心理療法〈上〉体験過程を促す聴き方

セッション体験談(女性) セッション体験談(男性)

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