アメリカのアディクション回復治療について

この記事は、2007年9月「第18回ASK主催アメリカ研修」に参加した経験の個人的な振り返りです。

ベティーフォードセンター(1)全体

ベティ・フォード・センターは、カリフォルニア州ランチョ・ミラージュにあるアイゼンハワー・メディカルセンター内にあります。

このセンターは、アメリカ第38代大統領であるジェラルド・フォードのファーストレディであるベティ・フォードさんが中心になって1982年設立され、アルコール・薬物依存症の治療プログラムを提供しています。

ベティ・フォードさん自身がアディクションから回復した経験をもつ当事者で、日本でも「依存症から回復した大統領夫人」というご本人の回復プロセスを書いた書籍の翻訳本が大和書房から出版されています。センターの設立の物語りも書かれています。

研修の内容は2日間のプログラムで行われました。

継続ケア、回復におけるスピリチュアリティ、アデクションと脳、家族のダイナミクス、子供の援助、AAの12のステップなど、大切なポイントがコンパクトにまとめられた内容でした。

センターのプログラムの共通基盤は、人としての関係性をもとに、心身を一体としてとらえたスピリチュアリティを大切にしたアプローチでした。

センターでは、本人だけではなく、家族もサポートの対象になっています。

センターのプログラムでは、家族と子どものケアを治療の重要な要素としています。

家族向けのプログラムと子どもを対象にした子どもプログラムも実施しています。

治療は、継続ケアを念頭に置いたアディクションの心理的な基礎部分に焦点を当てた入院治療です。

看護・医学・栄養学・スピリチュアル・身体面の活動・心理・家族など様々な専門家が多面的なケアを行うチーム医療で行われていました。

回復におけるスピリチュアルな側面にも焦点をあてるサポートをするために、訓練されたスピリチュアルカウンセラーのチームもあります。

スピリチュアルなサポートは、プログラム全体の中でも大切な位置を占めています。 

研修の内容で、一環して強調されていたのが「アルコール依存症は病気」であること。 

日本でもそうですが、「本人の意志が弱いから」「本人の性格の問題」といった、本人の弱さで病気になるという認識が一般的にあります。 

しかし、実際は本人の意志が弱いから依存症になるのではなく、依存症は脳科学的にも説明がされる立派な病気であり、本人の意志では飲酒をコントロール出来なくなる病気なのです。 

依存症になる原因は、本人の意志や性格の問題ではないということです。 

「依存症」という病気は、進行すると「家族関係」「人間関係」「身体的な健康」「精神的な健康」「社会的な関係」などを失っていく、人生の全ての面の繋がりに影響を与える病気です。

繋がりに影響を与えることから、関係性の病とも言われています。 

このことから、「人間の全体性に影響を与える病としてスピリチュアルな病」とも説明されます。

したがって、病気の治療だけではなく、その影響を受けてバランスが崩れた人生全体を回復していく作業、すなわち「飲んでいる人生」とは違う、「飲まない人生」を生きる、という生き方そのものを変えていくことが回復であると考えられている病です。

こうした捉え方から、「完治する病」ではなく「回復可能な病」と言われています。

実際、これについては研修2日目に、ドクターがお話してくれました。

「現在、薬物での治療も可能になってきているが、この病気は生き方そのものを変えないと再発する病なので、センターのようなアプローチの治療は必要である。」というお話でした。 

私には、ドクターのはっきりとした口調が印象的で、こういう認識が様々な専門家が集まっているセンターのチーム医療を成功させている一つのポイントだと感じました。

アルコール依存症は「孤独の病」とも言われています。

辛さや寂しさを紛らわすために手っ取り早くそれを紛らわす手段の一つとして飲酒します。

お酒の酔いで紛らわしていくうち飲酒量が増えていき、のめり込んでいくというのが基本パターンとして理解されています。 

この理解だと、飲酒の最初の目的は自己治癒になるという捉え方ができます。 

しかし、その手段は、内臓の健康を害する他、脳内の科学反応を変えてしまうので、健康的な自分を失い、自己治癒ではなく、アディクションという問題を作り出してしまうという構造になっています。 

この基本構造から、回復後は「自分を孤独にしない」というのが大切になってきます。 

特に治療前に飲酒が原因で様々な繋がりが切れた人にとっては、自助グループであるAA(アルコホーリクス・アノニマス)に参加して、同じ体験をした人どうしが語り受けとめあいながら(シェアリング)自分の人生を振り返り、自分で変えられるところは変えていく努力や、償えることは償っていくこと、同じ仲間を支えていく活動はとても助けになるとされています。 

実際、AAは世界規模で存在し、その実績は確たるものがあります。 

その中で使われる12のステップは、アルコール依存症だけではなく、その他の様々なアディクションの自助グループでも使用されています。 

しかし、一方では、その内容が宗教的であるとして批判的な人や、宗教体験で傷つき体験のある人達は受け入れがたい場合もあり、国境を越えると文化的な文脈で批判もあるようです。 

それでも、12のステップの目的は、布教ではなく回復なので、宗教的と批判される精神的でデリケートな部分は臨機応変に工夫して運用されているようです。 

アディクションを予防する視点からは、孤独であったり、辛さや寂しさを癒すとき、健康的な手段を選んで自己治癒していくことが大切になります。 

そして、自分ひとりで手に負えない時は、健全なアドバイスやサポートをしてくれる人や専門家に相談したり助けを求めるということが常日頃から大切になります。 

知識面で、興味深かったのは、アルコールをドラッグ(薬物)の一種として位置づけることです。 

それは、大半の人たちがマリファナ→アルコール→コカイン→アルコール→覚せい剤・・・といったサイクルにハマルので、全体をみるアプローチが必要という視点に立っているからです。 

現時点でのデーターでは、アメリカの約80%の人がアルコールや薬物、その他の何かのアディクションのテーマを持っているそうです。 

また、現実問題として、治療を必要としている人の大半は治療につながれないそうです。 

治療につながれない背景には、アメリカは日本と制度が違い、違法ドラック以外は殆どの薬がドラッグストアーで手に入り、国境を越えてメキシコに入ると、アメリカで手に入らない薬も手に入るという環境も影響していると考えられているそうです。 

センターでの治療後は、ドラッグをやめたあとのバランスのとれた生き方をしていくことが大切になります。 

センターでのプログラムでは、通常、治療につながる頃には健康面でも問題を抱えていることが多く、身体の健康を取り戻すことにも取り組むようになっています。 

施設内にはトレーニングセンターやプールもあり、プログラムの中には水泳やストレッチ、グループでのゲームなど身体的なトレーニングも含まれています。 

このプログラムも身体の健康を取り戻すという意味だけではなく、健康的な生き方の一側面として大切であるというスピリチュアルな回復の一つとして位置づけられています。

スピリチュアリティの説明や位置づけには、私の理解と同じ内容でとても共感する内容でした。

ベティーフォードセンター(2)スピリチュアルケア

ベティ・フォード・センターでのスピリチュアルケアにおけるスピリチュアリティの概念や捉え方については共感することが沢山ありました。

特に、宗教によるスピリチュアリティと信仰ではないスピリチュアリティを区別する基準が明快でした。

その両方のバランスを大切にしている点は、移民による多民族国家であるアメリカでは、多様な宗教が混在することが、スピリチュアルケアにも深く影響を与えていることを感じさせられました。

ベティ・フォード・センターの研修資料によると、宗教は生き方を教示し、正しい生き方のガイドラインを示して人間と人間を結びつけるものである。一方、スピリチュアリティは生命の本質や人生に意味を与えるもので人間を人間たらしめるもの。と説明されています。

宗教には、「このようにしなさい」という行為規範が含まれていて、個人の意思や考えよりも、その教えや行為規範に従うことが優先的に求められます。

したがって、宗教には組織的な人の考えや思想が入り込む余地があります。

アルコール依存症者ご本人が自分の力によって回復していくための助けになるスピリチュアリティと各宗教が教示する行為規範とを区別していかないと、その行為規範が治療と回復のプロセスそのものと矛盾する場合も出てきます。

そのため、この矛盾を生じさせないために、宗教スピリチュアリティと信仰ではないスピリチュアリティを区別することで、治療プログラムを受けているご本人が混乱することを予防することになる、というのが私の理解です。

この区別は、別の海外の癒しのワークショップに参加していた時期に、外国人の参加者と話していると、時々話題にのぼる内容と同じでした。久しぶりに同じような話に触れて懐かしい感じがしました。

宗教によるスピリチュアリティについては、自分のワークショップでスピリチュアリティをテーマとして説明するときに、受講生の方の中にクリスチャンの方や仏教関係の方など宗教関係者の方がいらっしゃると、宗教の存在意義や目的を説明をさせてもらうと違いを納得してもらえるという経験をしているので、国境を越えて共通する部分は多いことを自分なりに実感しました。

センターでは、治療と回復におけるスピリチュアリティの定義として、「個人にとって意味ある大切な関係性」「個人を超えたより大きなパワーとのつながり」回復のための礎」の3つを挙げています。

この3つ、とても馴染みのある内容だなと思って説明を聞いていたのですが、それもそのはずです。

実はセンターの売店の書籍コーナーには、日本の書店の精神世界コーナーに並んでいる、ジャンポルスキー、ドンミゲルルイスなどの書籍がずらっと並んでいるではありませんか。

結局、そういった著書も同じコンセプトがあり、それを通して、すでに馴染んでいる内容でもあったのです。

ちなみに、ジャンポルスキーさんは、自らアルコール依存症の回復者であることを書籍にも書かれています。

センターの研修で明確に実感できたのは、アデクションの治療と回復におけるスピリチュアルケアは健全な人間としての生き方を取り戻すプロセスを多面的にサポートするということです。

それは人間関係や社会との関わり、身体の健康回復、感情の安定、精神性の回復等、人生のあらゆる領域でアディクションの影響を受けた不健康な考え方と生き方を、本人が回復のプロセスを通して自らの意思で変えていくことを目的としているサポートであると私は理解しました。 

一方、一般的なスピリチュアルな癒しや生き方も、その真髄はそれまでの制限されたあらゆる領域の考え方と生き方を振り返り、自分の幸せを制限している考え方や生き方を自ら主体的に変えていくことで、より幸せに生きていくことです。 

スピリチュアルな癒しや生き方をサポートするカウンセリングも、同じように、人間関係や社会との関わり、身体の健康回復、感情の安定、精神性の回復等、人生のあらゆる領域で苦しさやどうにも納得いかないことのルーツを理解して癒したり、必要なことや人生の糧になることを学習していくプロセスです。 

そのプロセスの中で、新しい自分を育みながら、それまでの自分を不健康にする生き方や考え方、自分の抱えている問題や課題を複雑にしたり深刻にしていく考え方や生き方を、本人が自らの意思で変えていくプロセスもサポートしています。 

このプロセスの中では、セラピーが役に立つテーマもあればコーチングやコンサルテーションが役に立つテーマもあれば、他の専門家の援助を受けたり、新しい知識やスキルを身に付ける学習が役に立つテーマなど様々なテーマが出てきます。 

私の臨床と比べると、ケアやサポートという点では共通することも多いと感じました。 

アディクションの治療と回復の場合は、入り口の問題が明確なだけに、一度、治療や回復につながると治療と回復と生き方を変えていくプロセスは大変な困難を伴うけれども、成し遂げれば、本当に大きな喜びを伴う人生の変化を体験できるのであろうと思います。 

その変化は、結果として同じテーマを持っている人たちや本人の周囲の人たちにとっても大きな希望と大きな贈り物になると思います。 

一方、社会システムや日々の人間関係の中で感じるストレスや問題については、自分のテーマが何かを明確に自覚することが難しいところがあります。

自分の抱えている問題や課題が何かを明確にしていくための作業に時間を使っていくケースが一般的です。 

早く結果を求めていたり、忙しい日々を送っていると、問題や課題の核心に触れるまで自分と向き合っていくのは忍耐と時間と費用を必要とします。

したがって、アディクションの治療と回復のプログラムとは違った、取り組む上での違いがあるのも事実です。 

しかし、楽しく、また時に忍耐強く、自分自身に焦点を当てていく作業を続ける人は、ある時点で自分の生き方の変化に気づき、その変化は現実的な形で人生に現われてきます。 

その変化が幸せなものであれば、やはり結果として本人の周囲の人たちにとっても大きな希望と大きな贈り物になります。このことは、成功哲学などの自己啓発のカテゴリーの中では、生き方を変えることを、習慣を変えると表現したりもします。 

個人差はありますが、本当に人生変わったよなと実感できるようになるまでのプロセスは日常生活での実践を必要とします。 

変化が感じられて落ち着くまでは、やはり社会との関わりや人間関係がありますので、山あり谷ありでテーマによってそれ相応の時間が必要です。 

ちなみに、私は、日本のスピリチュアルな癒しの中にカテゴライズされるチャネリングや霊視等は、ここで言うスピリチュアルな癒しと区別しています。 

チャネリングや霊視等は本人に代わって色々とメッセージを受け取って伝えますが、センターのスピリチュアルケアと私が言うスピリチュアルな癒しや生き方は、自分で自分の心の声を聴いたり、自分自身で自分の力を超えたより大きな力とのつながりを感じることで、そこから得た気づきや体験を、生き方を変えていくために役立つ一つの資源として捉えています。 

チャネリングや霊視等も、そのメッセージを受け取って、実際に自分を振り返って生き方を変えていく努力をして行くのであれば、その一連のプロセス全体はスピリチュアルな癒しになると思います。 

しかし、メッセージを受け取って安心したり気づいたりするのも助けになりますが、それは私の理解するスピリチュアルな癒しという視点では癒しの始まりなのであって、そのメッセージについて自分で思慮せずそのまま従ったり(カウンセリングやセラピーは理論や技法によって異なりますが、この思慮のプロセスそのものもサポートします)、それっきりになるのであれば、折角の大切な変化の機会を自分で見逃してしまっているのではないかと思います。 

誠実なチャネリングや霊視等をされている方々は、結局、優秀なカウンセラーやセラピストと同じように、本人の自己決定権や悩む力を大切にして、色々とやり方は違えど、本人が自らの意志で生き方を変えていけるようにサポートしているのではないかと思います。 

さて、センターの治療と回復の資源には、AAのプログラムが大切なものとして位置づけられています。 

スピリチュアリティについてもAAの12ステップの内容との互換性とそこからの影響についても詳しく説明がなされてとても勉強になりました。 

その内容は、実践の中で試行錯誤されながら積み上げられてきた叡智を感じずにはいられませんでした。

ベティーフォードセンター(3)子供プログラム

ベティ・フォード・センターには、子どもプログラムがあります。

治療プログラムの3週目に、依存症本人の家族にも参加してもらう家族プログラムがあります。

子どもプログラムは、その家族プログラムの一つです。

依存症は、本人だけではなく、その周辺の人たち、特に家族が巻き込まれる病気です。

アルコールや合法ドラッグは、日常生活の中に文化として浸透しているものなので、依存症の専門的な知識がないと、本人が依存症なのかどうか、その見分けがつきにくいのが現実です。 

飲みすぎによる失態や不健康な生活は、文化的に許容されている側面もあり、その後始末や本人の面倒は家族がみているのが一般的です。

そして、症状が深刻になり、何か事件や事故が起こった時に、はじめて治療につながっていくのですが、その段階では、既に家族も疲弊して傷ついています。

家族は、それでも本人の治療のために併走したり努力します。その努力につかうエネルギーとは別に、生計を立てて日常生活もしていく必要もあるわけですから、本人とは別にケアしていくことが大切になります。

<依存症の影響を受けている家族について参考になる映画>
「男が女を愛する時」
「28DAYS」
「ペイフォワード」

疲弊した依存症者の家族の傾向として、自分に焦点があたらなくなっている(自分を失っている状態)ことがあります。

家族プログラムでは、依存症の基本的な知識を学び、「本人自身」と「依存症」を区別してもらいます。その上で、グループワークを通して、家族が依存症からどんな影響を受けているかを話し合いながら、家族それぞれが自分自身に焦点をあてていく作業を行っていくとのことでした。

ポイントは、常に「依存症という病気」と「本人」と「家族」を区別すること。

そして、病気を自分たちから切り離して対処していけるようになっていくということです。 

特に、子どもは、親がどんな状態になっても親を愛しているものです。子どもながらに一生懸命に親を助けようとします。

しかし、依存症の親は子どもを健康的に愛する力を、依存症という病気に奪われてしまっているので、子どもと健全に関わることができません。

その状態が続くと、子どもは自分の価値を感じられなくなり、自分の存在そのものを否定するくらい深く傷ついていきます。

その傷つき体験の積み重ねの中で、親に対する怒りが蓄積していきます。その怒りは、成長とともに親に対する憎しみや恨みへと変わっていきます。

子どもプログラムは、子供がそうなる手前で、親と依存症を区別し、かつ、子どもが依存症をもつ親子関係の中でも、依存症に巻き込まれずに健康的に生きていけるように、癒しとエンパワーメントと依存症の影響から逃れるためのライフスキルを身につけてもらい、子ども自身の希望を見出していくためのプログラムです。

講師のJERRY・MOEさんは、子どもプログラムの第一人者で、お話の内容もさることながらその情熱が伝わってきて、胸が熱くなってきました。

簡単なワークのデモンストレーションもありました。

ワークの内容は、JERRYさんが依存症になり、子ども役の私が依存症とどう関わるかといった、鬼ごっこみたいなゲームでした。

JERRYさんの実際のプログラムの体験のお話では、子どもは本当に凄い反応と感情の解放が起こるということでした。毎回、JERRYさんはサンドバック状態になるそうです。 

この話を聞いて、問題に巻き込まれている小さな子どもたちのことを思うと身が引き裂かれそうな感じがしました。

子どもプログラム。日本のこのところの子どもに関係する悲惨なニュースを思うと、依存症もさることながら、限定せずに、子どもの健康的な成長をサポートするために、社会のどこかで取り入れられないものかと思いました。

思うにこのプログラムは、親本人と依存症を区別しているところ(ナラティブセラピーでいう問題の外在化)がポイントです。

日本の文化では、一般的に問題そのものではなく、人格そのものの良し悪しに焦点をあてる傾向があります(一方、日本では、罪を憎んで人を憎まず。という大岡裁きが、古くからある問題の外在化です。しかし、大岡裁きによっても悪代官は人間的に許されていません。)。 

本人と問題を区別する部分を感情的にどのように受けとめ理解していくのか。「人の尊厳を大切にしながら如何にかかわるのか」という人間として生きていくうえで大切なテーマも含まれています。多種多様な立場と意見を思うと簡単ではないところもあるなと思いました。 

それでも、大切なことは「子どもには罪はない。子どもは悪くない。」ということです。

大人の努力で回避できる、子どもへの不必要で理不尽な行為をいかに無くしていくのか。

もし起こってしまった時のサポートをどうするのか。 

大人の問題と区別した時、どんな選択肢が見えてくるのか。 

色々なところで、色々な立場の人が、色々な意見を出し合い議論をしていくことが大切だと思いました。

ベティーフォードセンター(4)セラピー

最後に、ベティーフォードセンターの研修で想定外だったのは、セラピーにおけるイメージ誘導の利用でした。

通常の意識状態よりも、変性意識状態の方が癒しの効果が深いということで、イメージ誘導を取り入れることがあるそうです。

詳しい導入状況は質問する時間がなくて確認できなかったので、実際の現場での導入状況がわからなかったのが残念です。

私としては、ワークショップや個人セッションで導入することがあるので、とても馴染みのある内容でした。

私の勝手な思い込みだったのかもしれませんが、私は医療の治療関係者から教えてもらったことがあるのですが、日本では治療関係でイメージ誘導は、患者への負担が大きいので取り入れるのは難しいという話を聞いていたので、まさか治療センターの研修の中にイメージ誘導の研修が入っているとは思っていなかったので驚きでした。

しかし、振り返ると、センターの中には、とても素敵な瞑想ルームがあり、プログラムの中に瞑想も入っているということだったので、別に驚くこともないかと思いなおしました。

私としては、センターの研修で、治療的なワークと癒しと自己成長を目的としたワークの異同が実感としてわかったような感じがして、とても得るものが多かった2日間でした。

その他で大切と思ったのは、プログラムは男女別々になっていることです。

説明でも強調されていて、特に女性は女性だけのグループでしか話せない女性特有のテーマも出てくるので、男女別々のグループのプログラムを確立していることによる効果は大きいという説明でした。

これは、回復初期から、女性としての自尊心や自己肯定感を取り戻したり育むことが出来るまでの段階までは、とても有効なんだろうなと思いました。

また、私の経験では、男性も男性だけのグループでしか話せない男性特有のテーマもあるので、男女ともども、とても有効なのだろうと思います。

パシフィックコースト・メディカルセンター(1)Mind/Body Connection

2日間のベティ・フォード・センターでの研修を終えて、翌日は次の研修先である、パシフィックコースト・メディカルセンターのあるラグナビーチへ移動しました。

ベティ・フォード・センターのあるランチョ・ミラージュは砂漠地帯でしたが、パシフィックコースト・メディカルセンターのあるラグナビーチは文字通り海岸線にある街です。

砂漠地帯から海側に近づけば近づくほど風が冷たく肌寒くなっていきます。

湿度が上昇してくるので風が冷たくなるそうです。

ラグナビーチは、山が海のすぐそこまでせまっている、どこか日本の入り組んだ港町を思い出すような海岸線にある街でした。

山の頂上付近まで山肌一面には、いかにも高級住宅という家が建っていて優雅な風景でした。 

聞くと、やはりハリウッドスターやお金持ちが多く住むリゾート地でもあり、芸術家達のコミュニティもあるそうです。

街そのものは、こじんまりとしていて、落ち着いた雰囲気のギャラリーやカフェが並んでいました。海は、北極からの海流の関係で、夏場でも海の水は冷たいそうです。 

パシフィックコースト・メディカルセンターは、ラグナビーチから車で海岸線を南下して約20分程のところにあります。 

Pacific Coast Medical Centerは、保険会社が経営している病院です。 

パシフィックコースト・メディカルセンターでの研修は1日。 

ここでの目玉は依存症者へのインターベーション(介入)でした。 

インターベーションは、アルコールや薬物に依存している人に、インターベーションの専門家のサポートを受けて、本人を心から大切に思っている家族や友人が、愛情のこもった態度で、本人が出来るだけ受け入れやすい方法を用いて、本人が飲酒や服薬によって実際にどうなってしまっているかという現実を知らせて、本人の意思で病院で診断・治療してもらうことを目標に行われるものです。 

アルコール・薬物の依存症は「死ぬ」病気です(ここでもベティ・フォードと同じく、放っておくと「死ぬ」ということを強く言っていたように感じました。) 

治療のスタートは、以前は「底つき」といって、健康面でボロボロになって本人が自分だけではどうしようもなくなるまでそのままにして、本人が助けを求めて来たときに治療を始めるというのが一般的だったそうです。 

これは、アルコール依存症が精神的な弱さからなるものであるという、伝統的な見解のなごりというお話でした。 

しかし、現在は病気であることが認識されています。 

本人の意志では飲酒をコントロール出来ないのは病気の症状なのです。 

「底つき前」、「本人が死ぬ前」にインターベーションによって治療につなげる方法がアメリカでは普及しているそうです。 

アメリカのEAP(EmployeeAssistanceProgramの略称で企業で働く従業員の方々に対する援助プログラム)は、このインターベーションがその始まりです。 

初期の頃のインターベーションは、本人の権威的な自尊心を打ち砕くような直面的な方法がとられていたそうです。 

その後、臨床の経験から改良が重ねられて、現在は「愛」を大切にした愛情のこもった方法が取り入れられています。 

インターベーションについて、お勧めの書籍は、以前も紹介した、ベティ・フォードさん自身がアディクションから回復した経験を記している「依存症から回復した大統領夫人」というご本人の回復プロセスを書いた書籍です。 

この書籍の最初の方は、インターベーションの経験について書かれています。 

研修の最初はドクターのお話で、テーマは「Mind/Body Connectio」 

特に身体の痛みを和らげる鎮痛剤の常用による薬物依存のメカニズムを中心にした内容でした。 

興味深かったのは、「痛みのシステム」の説明と、「急性の痛み」と「慢性的な痛み」は生理学的構造が違うという話でした。 

痛みを感じるのは、知覚システムと脳のコラボレーションです。 

知覚のシステムは身体的な刺激を記録することは出来るが、その刺激が痛みかどうか決めるのは脳です。人間の身体は学習によって痛みを覚えていくということでした。 

したがって、神経経路をプログラムしなおすことで(学習しなおす)、学習された痛みを解放することも可能ということでした。 

この場合、生物的な反応とその意味付けを区別することが大切ということでした。 

「急性の痛み」は健康的な痛み。 

これに対して慢性の痛みは生理学的には異常な痛み。 

慢性の痛みは薬だけでは解決しないので、生物学的ワーク(医療)と情緒的なワーク(セラピー)の両方が大切であるということでした。 

この辺りのお話は、身体指向アプローチの心理療法の効果の医学的側面の根拠になるのかなと思いながら聞いていました。 

余談ですが、「思考を変えると人生が変わる」という成功哲学の基本があります。 

カウンセラーの立場としては、思考は感情と身体感覚とも密接な関係があるので、自分では思うように変えられない思考パターンは、感情や身体感覚も含めて丁寧にセラピーアプローチでワークして、思考の土台になっている深い部分の観念を癒し、健康的な観念を再学習していくことが大切なポイントになります。 

実際の臨床経験から、自己成長・自己実現を目的として個人セッションを受けている方の中でこのレベルでワーク出来るまでになると、頑張らなくても自然と思考も柔軟になって生き方そのものが楽になっていきます。 

この深いレベルでの観念の変化は、自分一人では思うように変えられなかった理由などが、自分の中で「わかった!」「そういうことだったのか!」などの身体感覚を伴う気づきとともにスッキリハッキリするので、古い言葉で言えば「腑に落ちる」という体験でもあります。

パシフィックコースト・メディカルセンター(2)インターベーション(介入)

ドクターの研修の後は、いよいよカウンセラーによるインターベーション(介入)の研修です。

インターベーションのコンセプトは、「助けを求めて来るまで待つのは遅い」です。 

アルコール依存症は、「底つき」まで待つと、死亡する確率が高まるからです。

インターベーションはケースによって種類があるそうです。 

特にアメリカではバイオレンス(暴力)や虐待のテーマがからむケースが多いそうです。

そういうケースの場合は、司法や警察とチームで行うインターベーションもあるそうです。

今回は、そういうケースではなく、ファミリーインターベーションといって、家族が行うインターベーションについてレクチャーと実習がありました。

インターベーションには何種類か方法があるそうです。

パシフィックコースト・メディカルセンターでは、バードンジョンソンメソッド(名称はノートのメモの字が読みにくくて自信ありません)を取り入れているそうです。

このメソッドは「LOVE」を沢山与えるメソッドということでした。

強調されていたのは、ファミリーインターベーションによって治療に繋がった場合、「底つき」や「事故」を起したり「事件」を起こして治療に繋がるよりも、回復率が高く、約90%の回復率ということでした。

その理由として家族が味方についているという本人の気持ちがその回復率に影響しているというお話でした。

アルコール依存症は「孤独の病」と言われています。

家族が味方についているというのは大きな安心感にもなるし、治療・回復のモチベーションになるのは自然なことなのかなと思いました。

ファミリーインターベーションを実際に行うのは家族です。 

ファミリーインターベーションにおける、カウンセラーの役割はコーチです。 

インターベーションの準備段階で、依存症についての教育セッションを行い、依存症についての基礎知識や理解を深めていきます。 

依存症本人の家族も、「依存症」によって疲弊して傷ついています。 

家族の疲弊と傷つきのケアも大切にしながら準備を行い、実質的にはファミリーセラピーと同じ効果も意識して準備していくそうです。 

このインターベーション、日本ではあまり普及していないそうです。 

その理由としては、制度の問題や文化的背景の違いなど色々と諸事情あるようです。 

センターのカウンセラーのレクチャーは、介入の注意点や具体的な方法論や問題点とその克服の方法など、現場経験の豊富さを感じさせるかなり実践的な内容でした。 

そして、昼食後、カウンセラーの人たちによる実際のインターベーションのロールプレイを見せていただきました。 

総勢7名によるロールプレイ。圧巻でした。 

終了後の質疑応答では、実際に現場にいる参加者の方たちから現実的な質問も飛び交い、とても勉強になる内容でした。 

印象的な言葉は「インターベーションそのものを回復の場としてとらえている」。 

治療と回復に対する情熱が、人を人間として尊重し、その情熱は命を大切に思っていることから来ているんだなと、ひしひしと伝わってくる言葉でした。 

個人的な感想としては、今までも外国人の人たちとのワークでも感じてきたことですが、ここでもやはり家族に関する感情は国境も人種もなく共通なんだなということを改めて実感しました。 

そして「愛」についても。 

ちなみに、インターベーションの費用は、カリフォルニアの場合、安くて1000ドル、高い場合は5000ドルというのが相場ということでした。 

インターベーションの実習の後は、部屋を移動して、アートセラピーの実習を行いました。 

ここでのカウンセラーのレクチャーで、「マインド」「ボディー」「スピリット」の全体性を意識したケアと回復に取り組んでいるというお話がありました。 

マインドの部分では、サバイバルしていくための知識の大切さの説明が印象的でした。 

正確な知識は、健康的に生きるために絶対に必要という視点は、私も常日頃大切にしていることなので、おもわず大きく頷いてしまいました。 

健康的に生きていくために大切なものは何かという視点として、「世の中で必要とされているものを取り除いた時に出てくるものが大切」というのは、なるほどと思いました。

印象的な言葉もありました。「自分を探求することもサバイバルである」。 

アートセラピーの実習とレクチャーが終わった後は、病室を見学させていただきました。 

医療施設で使用している病棟を見学させてもらえるのは異例中の異例ということで、長年、研修先として訪ねているそうですが、何故か今回は特別に見せてくれたそうです。 

病室からは、美しい海岸線が見えて環境は抜群でした。 

ここでも素敵なメディテーションルームが設置されていました。 

ベティ・フォード・センターもパシフィックコースト・メディカルセンターも印象的で学びになったのは、「マインド」「ボディー」「スピリット」そして「信仰ではないスピリチュアリティ」を大切にしたホリスティックで、そして人間性と人間の尊厳を大切にした医療が実践されていることでした。 

両センターで働いている専門職の人達に共通していて、とても大切なことだと思ったのは、燃えつきないためのセルフケアを意識的に行っているということでした。 

自分の健康的な状態が良い援助を生み出す。 

当たり前なのですが、セルフケアは意識しないとなかなか続けていくのは難しいものです。

それゆえ、セルフケアがシステムとして取り入れられていることと、現場の人たちがその重要性を認識していることはプロフェッショナルとして当然なことなのですが、その当たり前のことを意識的に行っている意識の高さと継続的に実践し続けることは大変なことを知っているので、この点でもすごく尊敬できるなと思いました。 

15時すぎくらいまでのアッという間の研修でしたが、内容の密度は2日分くらいあったような感じがしました。 

クレア・ファウンデーション(1)スピリチュアリティと超越

さて、最後の研修先であるクレア・ファウンデーションです。

クレア・ファウンデーションは、サンタモニカにあります。

クレア・ファウンデーションの前身は、1960年代にサンタモニカやヴェニスの海岸地区に住む有志グループによって、同地区に集まってくるアルコール依存症やホームレスの人たちを受け入れて回復に協力する地域サービスとして、チラシを配布したり食物を配る活動です。

1970年、そのグループは、小さな店舗と宿泊施設を借りて、彼らへの教育、社会資源や施設の紹介を始めて、アルコールの解毒のための施設も開設しました。

現在は、サンタモニカ、ヴェニス、カルバーシティ、ロサンゼルスの各地区に10種類以上のプログラムを持っていて、アルコール依存症や薬物乱用からの回復を望むすべての人々にサービスを提供しています。(参考 アスク配布資料)

クレアは、街中に普通にある建物で、教えてもらわないと見過ごしてしまうようなたたずまいでした。事務所と解毒施設の建物の中は、白が基調の清潔な内装でした。 

クレアでの研修は、講義と施設の見学。 

最初の講義は、クレアのセラピストさんのお話でテーマは「スピリチュアリティと超越」。 

私にとっては、トランスパーソナル心理学系の久しぶりの馴染みのあるテーマでした。 

ベティ・フォード・センターと同様、ここでこのようなテーマの講義が聴けるとは・・・、ワクワク感と違和感の混じったサプライズな体験でした。 

アルコール依存症・薬物依存症の治療で何でこんなテーマ?と不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。 

私は日本の医療の現状を詳しくは知らないので、比較することは出来ませんが、今回、訪れた三ヶ所とも、依存症は「霊的な病気」すなわち「スピリチュアルな病気」という認識は一貫していました。したがって、こういうスピリチュアルなテーマの内容が入ってくるのは自然なことなのかもしれません。 

ちなみに、ここでも確認しておきますが、ここでいう「霊的」というのは先祖や何かの霊の影響ということではありません。 

私の理解では、健康的なスピリチュアリティの回復そのものが、依存症からの回復と言っても過言ではないくらい、最終的な到達点は「スピリチュアリティの回復=人間としての健康的な生き方」というメッセージが何度も私には伝わってきました。 

「スピリチュアリティと超越」。 

医学的な見地も含めた内容で、その内容に唸ってしまいました。 

訪れた2007年9月21日(金)は、ユダヤ教では、新年の終わりの日で贖罪の日。1年間の自分の罪と汚れを落とす日にあたるというお話も印象的でした。

さて、「スピリチュアリティ」と「超越体験」の関係について理解するというのが、この講義の目的でした(私の理解であることをご了承ください)。 

内容ですが、「超越体験」とは、医学的には、気分を満足させてくれるセロトニンと、興奮を引き起こすドーパミンの両方のコンビネーションがとれた時の気分の良い体験。という説明でした。 

ここで何故「超越体験」なのか? 

人間は痛みや苦しみを感じると、それから逃れて、気分を良くしようとします。 

人間は、気分を良くしてくれるものとしてお酒や薬物を使います。 

すなわち、気分を良くするために、お酒や薬を使うというのは「超越体験」を求めて使うという理解ができます。 

しかし、お酒や薬は生化学的に依存症という病気をつくりだします。 

したがって、病気をつくりださない健康的な方法で「超越体験」を求めていくことが大切であるということなのです。 

ちなみに、痛みもあるところまでいくと良い気持ちになるというお話もされていました。 

この内容は、偶然にも前日のパシフィックコースト・メディカルセンターのドクターのお話と共通していました。 

「超越体験」は、充実感とワクワク感があって気分良く自分はOKと感じられる満足体験です。 

そして、回復のための12のステップのプロセスは、健康的にこの「超越体験」に導いてくれるというのです。 

12のステップの内容は、東部ヨーロッパのプロテスタントの影響が大きく、ステップ4から10まではプロテスタントの倫理と共通するそうです。そして、仲直りすることと贖罪することで「超越体験」に導かれるというお話でした。 

すなわち、「許し」の本質は「超越体験」ということです。 

これが本質とすれば、「許し」は「充実感とワクワク感があって気分良く自分はOKと感じられる満足体験」をともなうということになります。 

スピリチュアル系の癒しで使われる表現としての「至福体験」も、ここでいう超越体験と同じだと思いました。そこには様々な許しのプロセスがあるのだと思います。 

ポイントは「仲直り」と「償い」。 

「仲直り」が現実的に難しい場合は、やはりスピリチュアルな繋がりを認識したり受け入れることで、内的な自分の世界の中で仲直りすることが、それをサポートするのだという内容として理解しました。 

「償い」も、直接相手に出来ない場合、それ以外の関係の中で、相手に直接償えないことを、相手を尊重しながら意識的に与えていくことで、それをサポートするのだという内容として理解しました。 

個人的には、かなり自分の許しの実体験とマッチしていて腑に落ちる内容でした。 

そして、カウンセラーとしての仕事上の経験にもマッチしていました。 

印象的だったのは、「恥を与えることは超越体験には至らない」ということでした。 

本人に恥を与えるような関わり方やフィードバックは「超越体験」に至るサポートにはならないということであり、深いレベルの癒しには繋がらないということになります。 

要は「本人にOKフィーリングを与えることが大切」なのだということでした。 

それが「超越体験」につながっていくのです。 

この内容も、個人的な自分の許しの実体験と、カウンセラーとしての仕事上の経験にマッチしていて腑に落ちる内容でした。 

お話をきかせてもらいながら、自分がカウンセラーとして、クライアントの話を傾聴しているだけで癒しが起こった瞬間のことなども思い出していました。

また、過去、別の「超越」をテーマにした癒しのワークショップを受けていた時の体験も思い出していました。今、振り返れば、やはりあのアプローチでは「超越体験」は起きないで自然だよなと妙に納得しました。今回、話しをきくまで、言葉にならずに自分の中でむしゃくしゃしていたものが、霧が晴れたようにスッキリしました。 

12のステップは著作権の関係で、ここには表記できませんので、下記をご覧ください。 

AA12ステップ http://www.cam.hi-ho.ne.jp/aa-jso/fsteps.htm

クレア・ファウンデーション(2)否認

次は、かなりご年配のドクターの講義でした。

こちらもビックリしたのですが、その方は、製薬会社の旧三共株式会社の初代会長の高峰譲吉さんのお孫さんで、クレアの近くで現在も現役の医師として開業されている、Dr ジョー・タカミネさんでした。

この時間は講義というより、かなり深みのあるディスカッションでした。

経験から語られる依存症の深刻さと根深さ。 

それを否認している社会に対する、真摯で厳しい見解と態度が伝わってきて、思わず凛となってしまいました。 

「ゆるやかにケアして、社会を目覚めさせていく。」 

「依存症を否認、無視している人を目覚めさせていくことが大切。」 

「一度に沢山の人でなくてもよい。それは一人でもよい、一人からはじまる。」 

という内容の話を聞いて、心の底から共感するとともに、その静かな情熱の影に、長く実践の中で体験してきた様々な思いが伝わってくるようで、思わず涙が出てしまいました。 

ここでは、キーワードをあげておきます。 

「何を感じ、何を考え、今から何をするのか(行動)が大切」 
「心の態度」「行動の態度」「心の態度と行動を変える」 
「最大のアディクションは否認」
「何をしているかより、何をするのかが大切」 
「喋ってはいけないことには2種類ある。「守秘」と「否認」」

【「守秘」と「否認」について。私の理解】 

「守秘」は健康的な秘密であり、人間が健全に生きていくために必要なプライバシーをつくりだすものです。 

「否認」は自己欺瞞(自分が問題を抱えているということに気づいていないという問題)です。否認がさらなる問題をつくりだしていきます。 

ちなみに、自己欺瞞は自分の問題を他者の問題にすり替えたり押し付けてしまうことがよくあり、その結果、自分の関わる人間関係でその問題が繰り返し起こってきます。 

アルコホリックかどうかは、飲んだ後、何が起こるかで決まる。 

アルコホリック3つの行動の特徴 
1 脅迫観念と飲酒の渇望(ゆっくり形成される)。
2 次第に飲酒に対するコントロールを喪失していく。 
3 飲酒によって問題を起こすにもかかわらず継続して乱用していく。

大切なことはなにか?いろいろ深く考えさせられる素晴らし講義でした。

クレア・ファウンデーション(3)施設

ドクターの講義が終わった後は、昼食を食べて施設の見学でした。

研修を受けたミーティングルームと事務所は建物の2階にあります。その同じ建物の1階に受付と解毒施設がありました。

受付では、がっちりとした体格のスタッフの人が笑顔で出迎えてくれました。 

受付けは、大きなテレビが設置されていて、なんとなく病院の待合室という感じでした。 

テレビは気を紛らわすためにとても大切なツールであるという説明が印象的でした。 

お一人、顔を真っ赤にして荷物を持った人が椅子に横たわっていて、ドキッとしました。 

想像通り、やはり入所希望者ということでした。 

次に受付を抜けて解毒施設に。 

解毒施設とは「体内のアルコールを抜く」施設です。 

入所者が何人かいらっしゃって、かなり緊張しながらの見学でした。 

解毒施設の見学が終わった後は、解毒が終わった後のプログラム期間中寝泊りする施設を見学させていただきました。 

施設の建物は事務所と解毒施設がある隣の敷地にあります。 

古い2階建ての建物で公団住宅を思い出すような感じでした。 

入所者の方たちが昼食を終えた後の食堂を見学させてもらったり、実際に居住している部屋も見せていただきました。 

施設はとても清潔に保たれています。いつも皆で清掃しているそうです。 

ベティ・フォド・センターやパシフィックコースト・メディカル・センターとの大きな違いは、一般社会と隔離されていないという点でした。 

これは、クレアのプログラムが「一人のアルコホーリクがもう一人のアルコホーリクを助ける」というソーシャルモデルによるからです。

クレア・ファウンデーション(4)ソーシャルモデル運営と回復

見学の後は、クレアの代表責任者の方の講義でした。

この講義もすごい情熱が伝わってきました。

ソーシャルモデルでは、アルコホーリクは同じ仲間の話は聞く傾向にあるという点に強みがあるそうです。

アルコール依存症は「孤独の病」という点からも大切なポイントだと思いました。 

クレアの施設は、サンタモニカの富裕層が住んでいる地域の街中にある集合住宅です。 

そして、敷地からの出入りは自由。 

歩いている人に声をかけたりお話することも出来るいたって通常の住環境の中にある施設です。

通常は、施設の建物は賃貸であったり、無償で使用させてもらったりということが多いそうです。しかし、クレアは建物を所有しています。現在のベット数は213床、約2700人の人が出入りしているそうです。 

クレアが提供している回復プログラムは11種類あります。 

自発的に訪れる人の入所型、通所型の他に、最近は裁判所からの紹介による人も増えているそうです。 

ちなみに、アメリカの大半の州では、飲酒運転をした場合、飲酒運転再犯防止システムがあり裁判所の命令で、アルコール問題についての教育を受けるシステムがあり、飲酒運転を専門に扱う簡易裁判所もあります。 

この飲酒運転再犯防止システムは、飲酒運転の背景にはアルコール依存などの飲酒問題があるという認識のもと、飲酒運転再犯防止対策を「処罰・制裁」と「教育・治療」の2つの側面で構成することで、検挙者にアルコール問題についての教育を施し、必要がある人は治療につなげる介入システムです。(参考 アスクHP「カリフォルニア州の飲酒運転再犯防止システム< 概 要 >) 

クレアのプログラムのアプローチは「愛をもって愛をつちかう」を基本にしていますが、ケースによっては止む無く強制的なアプローチも利用することがあるというお話でした。 

この強制的アプローチがどんなものかは質問しそこねたので、私にはわかりません。 

また、ベティ・フォードでも採用されていますが、クレアでもここ4年程の間に、男性と女性は別々の問題があるので、男女別々のプログラムを採用しているということでした。 

また男性・女性の傾向として、男性は個人カウンセリングが役立ち、女性はグループダイナミクスを好むというお話がありました。 

さらに、うまいこと言うなと思った説明がありました。 

それは「エゴ」とは「かっこつけ」という説明でした。 

そうだよなと、今までの人生の色々な場面の自分を思い出しながら、思わず自分のことで笑ってしまいました。 

また、プロのセラピストではないが、アルコール依存症の人を助けられる人は、同じアルコール依存症の回復者の中で、自分を癒している人でありソーバー(飲まないでいる人)になって自分の人生が大きく変わった人であるという話がありました。 

これは、その人のコアになる問題は、そこに触れたことのある人には話す傾向があるからという説明でした。

プロの援助者はテクニックで触れるが、回復者は触れたことがある経験で援助していくということでした。実際、メディカルモデルの回復率は約10%で、ピア(仲間)サポートによる回復率は約80%というお話でした。 

その他印象的だった内容は、 

回復とは長期の内省
自分で行動による結果に直面する方がよい結果をもたらす
初期の回復のプロセスでは正確な情報を与え、アドバイスして学んでいってもらう
教える方は、本人が今居る場所から目的地にどう向かうかを援助していく 
新しい行動が大切
本人がアルコールや薬物を止めたいと思わせることが出来る人が良いカウンセラーでありセラピストである
回復は最初は大変だけどシンプルなプロセスであり、回復は可能である
何があろうと最初の一杯には手を出さないようにする
本人の準備が出来るまでソーバー(お酒を飲まない)にもソブラエティ(お酒を飲まずにお酒に囚われない生き方をする)にもなれない

また援助者のことやビジネスとして印象的だったのは、 

回復はビジネスである。
良いサービスを提供するためにクライアントからも意見を聞く。
自分のスタッフが良い仕事をしているかどうかはクライアントからしか聞けない。
スタッフと入所者は区別することが大切(利害関係や立場上話せない内容があるから)、スタッフは別のところで回復のプログラムを受けてもらっている。
スタッフの教育にも力を入れており、週1回は何らかの教育を提供していて、色々な内容のカウンセリング教育を行っている。また隔週でケースをつかったスーパービジョンも行っている。

この他にも様々な質問に対して適切に回答してくださりながら様々な関連項目の内容にも触れてくださり、とても勉強になりました。 

そして、なにより心から応援したくなる凄まじいエネルギーと情熱が伝わってきた1日研修でした。参加者の大半の方々が一番熱くて印象に残ったという話をされていました。 

全体を通して

今回のアメリカ研修での大きな収穫は「問題」と「本人」は別々なんだという一貫した認識と態度でした。

頭ではわかっていても、実際に実感レベルでこの区別が明確に出来ないと、相手を人間として尊重することが難しくなり、それはかえって相手を窮地に追い込んでいく。

しかし、実際は「問題」と「本人」を区別し続けて関わっていくことは難しい。 

何故なら、「本人」が一番苦しんでいるから。

「本人」は、周囲がどういおうと自分で自分を否定するサイクルから抜けられず、最悪の状態に自ら追い込んで、自分を苦しめている。 

それによって、自分で自分のことを人間として尊重することが難しくなっているからです。 

本人がその状態だと、周囲がいくら本人を尊重しても受け取ってもらえず、本人が自虐的になればなるほど、周囲も疲れて疲弊していくと、本人を尊重するのが難しくなっていく。なので、チームでサポートしていくことが必要とされる。

「問題」と「本人」は別なんだという認識を持ち続け相手を尊重しながら関わっていこうと思えば、必ず援助者側の学習とセルフケアは欠かせない。 

3ヶ所とも、それを実践し続けていることが伝わってきて、沢山のエネルギーをもらったような感じがします。 

人間は人間によって傷つき問題を抱えて不健康な生き方をするようになる。 

しかし、人間が癒され問題から解放されて健康的な生き方をするようになっていくのも、また人間が人間を援助することによって実現していく。 

「最大のアディクションは否認である。」 

これは、人間が人間を傷つけることで得られる優越感やパワーに耽溺していることが、アディクションという問題のルーツにあるということを本質的に表現しているのかもしれません。 

「回復はビジネスである。」という話を聞いていて、この施設の運営に携わっている人たちは「社会的企業家」の精神を持っている人たちなんだろうなと感じました。 

実際、建物を所有したり、資金を得る手法は、ビジネスとしても成立していないと難しいものです。 

今回の研修で体験的に腑に落ちたことが沢山あり、とても有意義な研修でした。

2007年10月01日作成,2020年02月16日一部改訂

(文責 池内秀行)


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