アダルトチルドレンと家族の役割について

アダルトチルドレンと家族の役割について

アダルトチルドレンとは?

「アダルトチルドレン」は、「アルコール依存症の親のもとで育ち成人した人達」の総称として、アメリカのケースワーカーや依存症を抱える当時者たちのあいだで使われはじめた言葉というのが定説です。

その後、その他の依存症や各種疾患、DVや経済的問題など、親自身が抱えている課題や問題の影響で、親としての機能が低下し家族機能が不全となると、そこで育った子どもたちは同じような課題を抱えることがわかるようになり、アルコール依存症の親のもとで育った人たちだけではなく、「機能不全家族で育って成人した人たち」のことを総称して使われるようになり現在に至っています。

「アダルトチルドレン」は、こうした当事者の経験と臨床経験からうまれた、当事者自身のアイデンティティの一部として使われるようになった呼称なので、医学的な診断名ではありません。

したがって、「アダルトチルドレン」かどうかというには、他者に決定されるものではなく、当事者本人の自己認識によるとされています。

機能不全家族とは?

「機能不全家族」については、もともとのはじまりは、アルコール依存症の親がいる家族のことでした。

親がアルコール依存症の場合、依存症という病気の影響を受けて(症状)、子供を健全に育てる親の養育能力が低下または失われていき、本来、子育てに必要とされる子どもに必要な親の養育能力が家族関係のなかで機能が低下していきます。

このように、依存症という病気の影響を受けて(症状)、養育能力が低下したことで、家族としての健全な関わりが低下している家族のことを「機能不全家族」と言うようになりました。

しかし、その後、親や大人の家族メンバーが依存症以外の疾患や障害を抱えていたり、人間関係の問題や現実的問題を抱えていたりなど、その疾患や障害、問題の影響を受けて、親や大人の家族メンバーから子供に対して、子どもの成長に必要な保護や感情的な交流が極端または殆どない状態になっている家族の総称となり現在に至ります。

依存症以外で、家族が機能不全になる課題や問題には、例えば次のようなものがあります。

  • 親の不仲
  • 親の浮気
  • 親の離婚
  • 親の再婚
  • 親の死亡
  • 親の自死
  • 片親または両親の仕事優先の生活
  • ドメスティックバイオレンス
  • 生活の困窮
  • 借金問題
  • 生活苦を伴う家族の病気(難病、介護)
  • 親の自営業や勤め先の倒産による困窮
  • 望まれない出生
  • 親がカルト宗教にのめり込む
  • その他、深刻な現実的問題・人間関係の問題

こうした課題や問題を抱えて、親が自分自身のことだけで精一杯になり、その状態が続くと、マルトリートメント(子どもへの不適切な関わり)が増えて、その中には、ネグレクトや精神的な虐待、肉体的な虐待、性的な虐待等、子ども虐待になる関わりが含まれていきます(子どもの立場からは、子ども時代の逆境体験、発達トラウマ等)。

それでも、子どもは、本来であれば得られるであろう子どもとして親や周囲の大人との関係で得られるはずの保護や愛情や感情的な交流を得られない状態のなかでも、子どもながらに、機能不全の家族の中で生きていく術を身につけながら成長していきます。

生き抜くために身につけた「家族の役割」

機能不全家族のなかでは、親が親として十分に機能していないので、子どもは常に安心感よりも緊張感と不安が勝る環境の中で日々を過ごしています。

そうした環境の中で、よくあることは、親と子どもの役割が逆転していくことです。

本来、親に養育を受ける側の子どもが、親の面倒をみる役割になり、精神的には子供時代を子どもとして生きるのではなく、親の面倒をみたり家族の生活を維持するために頑張っていく、精神的には大人として生活していくことになります。

こうした生活では「いつもどこかで怯えている」「いつ何が起こるかわからない緊張感」を絶えず抱えた生活になり、本来は親との関わりの中で感じられる安心・安全を感じることが出来ず、常に緊張状態のままで生活していくことになります。

その上、精神的に大人として生活していくので、親の責任に属することも自分の責任のように受け取るようになり、何か課題や問題があると「全て自分の責任」と思うようになっていきます。

こうして、慢性的な緊張状態と全て自分の責任という誤解によるプレッシャーから自分の身を守り他者から責められないように、常にその注意は外側に向いたままで、自分自身のことよりも周囲の大人の機嫌や状況を優先して日々を過ごしてい区ことが当たり前の日常になっていきます。

それでも、そんな状況と状態の生活のなかでも、時に、安心・安全を感じることもあります。

しかし、それは、一時的なもので、家族の問題ですぐに緊張状態に戻るので「安心・安全は長続きしません」。

こうした、「安心・安全は長続きしない」体験の繰り返しのなかで、子どもは、常に世界は安全ではなく安心できないということを学習していきます。

その環境の中で、子どもは、生き抜くために、次のような役割を身につけていきます。

■ 問題を抱えた人

周囲の皆を巻き込んで混乱を生み出す。

嘘をつく、攻撃的、引きつける、殻に閉じこもる。

内面の感情としては、自己否定感、恥、罪悪感、怖れ、絶望感を強く感じる傾向があります。

人間関係では、責任を果たせない、自己中心的、かたくな、人を責める、自分の問題を否認する傾向が強く、それが生きづらさになっていきます。

大人になると、アディクションを抱えたり、孤独や自滅行動が増え、0か100かという生き方になる傾向が強くなります。

「問題を抱えた人」の役割を身につけた人が適切な援助を受けて癒されると、自分を受け入れることが出来るようになり、自分に関することも他者に対することも責任がとれるようになり、人や社会の役に立つことが出来るようになっていきます。そして、自己欺瞞がなくなっていきます。

■ ヒーロー

成績優秀、スポーツ能力が高いなど、エリートと呼ばれる子ども。

目立った成功や正しいことをしたり人の面倒を見たり、何もかも完璧にこなそうとする、その努力には限りがなく、その一方で自分にも他者にも厳しく、他者を裁こうとする態度も強くあります。

内面の感情としては、自己否定感、恥、自分はこれではまだまだダメだ、怖れ、押しつぶされそうなプレッシャーを強く感じる傾向があります。

人間関係では、本当は疲れていて休みたいと思ったり、一息つきたいと思ったり、楽しく遊びたいと思っていても、何かをしてないと自分の価値は認めてもらえないと思っているところがあるので、休むことなくひたすら努力を続けたり、次から次へと新しい目標を設定して頑張ります。

その一方で、休むことができず、自分の問題を否認する傾向が強く、それが生きづらさになっていきます。

大人になると、ワーカーホリック、燃え尽き、自分の非を認めない、完全主義など一方的な厳しさの傾向が強くなり、良い人だけど厳しすぎる人という印象が強くなっていきます。

「ヒーロー」の役割を身につけた人が適切な援助を受けて癒されると、自分にも出来ないことや限界があることを受け入れて他者に協力を頼んだり任せたりすることが出来るようになっていきます。

そして、成果や結果を受け入れて休むことができるようになります。

また、自分に関することに責任を持つことができるようになり、他者のために頑張るだけではなく、自分のために頑張れるようになっていくので、人間関係のバランスがとれるようにもなり、相手の立場に立って話を聴いて理解を示せるよき管理者、よきリーダーになっていきます。

■ ロスト・チャイルド

家庭内の問題に巻き込まれないように、自己表現をあまりしないことで、目立たないようにして、緊張した家族関係で傷つかないように自分を守っています。

周囲は、おとなしくて面倒をかけない子、放っておいても一人で居れる子どもと考え、家でも学校でも、存在をつい忘れられたりします。

内面の感情としては、自己否定感、恥、孤独、自分は大事な存在ではない、悲しみを強く感じる傾向があります。

人間関係では、いつも物静かで、あまり目にとまらない、友達が少ない又は居ない、自分がなくて他人に従う、何かと決断できない、自分の問題を否認する傾向が強く、それが生きづらさになっていきます。

大人になると、殻に閉じこもりがちで、一人ぼっちを好み、人生への意欲がなく、中には自分の性を受け入れず中性的であったり、次々とパートナーを変えたり、一人のままで過ごすなどの傾向が強くなります。

「ロスト・チャイルド」の役割を身につけた人が適切な援助を受けて癒されると、自立して、隠していた自らの才能を発揮できるようになり、創造的で想像力豊かな自己表現ができるようになります。

■ スケープ・ゴート

不登校・反社会的行動、犯罪などのトラブルを起こしたり、攻撃的に振る舞い、自分の存在を主張することで、家庭内の問題から目をそらします。

しかし、実際はとても傷ついていて、自分の事は誰もわかってくれないし、家に居ても居場所がないと感じています。

その感情が全て怒りや破壊的な行動としてあらわれます(アクティングアウト)。

内面の感情としては、自己否定感、恥、傷つき、罪悪感、愛されていない、希望がないという感情を強く感じる傾向があります。

人間関係では、悪い意味で注意を引き、自分の問題を否認する傾向が強く、それが生きづらさになっていきます。

大人になると、学校や職場の問題の当事者として関わっていることが多く、犯罪を起こして投獄されたりする傾向が強くなります。

「スケープ・ゴート」の役割を身につけた人が適切な援助を受けて癒されると、
現実を見る能力が高まり、社会や個人的な責任を受け入れらるようになります。

専門性をもった仕事で活躍したり、困難な状況に対して勇気をもって取り組めるようになり、自分と家族の幸せのためにチャレンジしていくことが出来るようになっていきます。

■ ケアテイカー

本来であれば親が解決すべき問題の責任を肩代わりして、親に代わって自分を犠牲にして問題解決のために頑張ります。

小さい時から親の面倒をみたり、親が起こした問題の後始末をしたり、親の愚痴の聞き役や、相談役になってカウンセラーのような役割を演じます。

一方、弟や妹の保護者役にもなったりします。

自分のことよりも家族のことを優先して、ひたすら周囲の役に立とうとします。

内面的な感情は、自己否定感、恥、傷つき、怒り、罪悪感、自分はこれではだめだという感情を強く感じる傾向があります。

人間関係では、どんな犠牲を払ってでも状況をコントロールしようとするため、行き過ぎて善意の名のもとに他人を操る結果になることがよくあります。

どんな人にでも救いの手を差し伸べるので、過剰な責任感を持ち、独善的になりやすく、辛抱しすぎて自分を見失ったり、自分の問題を否認する傾向が強く、それが生きづらさになっていきます。

大人になると、困っている人がいると放っておけず、いつでも誰かの世話や面倒をみていたりするなど、問題のある状況や問題を抱えている人から離れて一人の時間を持つことが出来ません。

自分から困っている人をみつけては、相手のニーズよりも自分が放っておけないという強い思いから積極的に世話するように関わるので、いろいろなことを引き受けすぎてしまい、世話をしている相手にNOと言えず、恨みつらみが溜まって疲れ切って慢性疾患を抱えたり、燃え尽きてしまう傾向が強くあります。

「ケアテイカー」の役割を身につけた人が適切な援助を受けて癒されると、自分に関する責任と他者に対する責任の区別があることを学び、問題を手放せるようになります。

セルフケアができるようになり、自分自身のニーズを満たし、自分の感情も大切にして、自分を満たし成長させることができるようになります。

■ マスコット・ピエロ

わざとおどけたりふざけたりして、場を和ませる役割を演じます。

争いが起こるのを防ごうと、いつも笑ってもらえるように気を配ります。

また、いらぬ問題が起こらないように、常に問題を抱えた人の機嫌をとるため、自分のニーズや希望を我慢して、言いなりになります。

内面的な感情としては、自己否定感、恥、怖れ、傷つき、がっかり、絶望感などを強く感じる傾向があります。

人間関係では、周囲が嫌な雰囲気になると、とても不安になり、感情的にもろく、未熟な感じがします。

いつも保護が必要で、放っておけない雰囲気があり、常に誰か世話をしてくれる人と一緒にいます。

自分の意見を言わずに溜め込む傾向が強く、それが生きづらさになっていきます。

大人になると、真剣なことでも冗談で紛らわしたり、対等に関わろうとする人に甘えた態度をとります。

大人の関係を築くのが難しく、落ち着きがありません。

また、集中力が続かずに自分のストレスに対処できません。

自分の問題を否認する傾向が強くなります。

「マスコット、ピエロ」の役割を身につけた人が適切な援助を受けて癒されると、自分で自分のケアをすることが出来るようになり、一人の自立した大人として一緒にいると楽しい人になります。

自分自身のことも肯定的に理解できるようになり、自分を大人として尊重してくれる人と良い関係がもてるようになります。

社会で評価されてしまうこともある「家族の役割」

機能不全家族の中で生き抜くために身につけた役割は、大人として社会に出た時、他者から評価されるものもあります。

特に、ヒーロやケアテーカー、マスコット・ピエロは、外からみる限り、責任感が強く献身的であったり、魅力的で放ってはおけない存在として認識されることがよくあります。

なかには強烈なオーラを放っていたり、カリスマ性をもっている人もいます。

しかし、本人は、いくら評価されても、そして社会的に成功しても、心の奥底と身体感覚で「安心・安全の感覚がない」ので、外側の評価と内面の不安、怖れ、罪悪感、恥の感覚(シェイム)とのギャップが、さらに生きづらさを募らせていきます。

このギャップを埋め合わせるために、刺激のあるものにのめり込んでいき、親と同じ依存症の問題を抱える人たちもたくさんいます。

アダルトチルドレンの癒し

アダルトチルドレンの自己認識がある方、自分はアダルトチルドレンではないという方でも、上記のような傾向があり、生きづらさや人間関係のストレスを感じているのであれば、心理カウンセリング・トラウマセラピーが役立ちます。

家族の役割から抜け出して、機能不全家族では学べなかった、新しい人間関係の捉え方や人間関係のスキルを学び、お互い協力しあえる人間関係を築いていくことができるようになっていきます。

特に、子ども時代の家族関係で身につけた役割の背景にある生きづらさや、生きづらさの根っこにあるトラウマは、本人が経済的に安定したり、現実的な生活面の問題がなくなったり、結婚して自分の家族をもった時など、機能不全の家族では実現しなかったことが実現してくると、現実的な問題や人間関係の問題として現れてくることがよくあります。

それは、ようやく安心できる状況になったにもかかわらず、不安と緊張状態に慣れきってしまっているため、求めていたはずの安心・安全な状況や人間関係が手に入っても、機能不全家族では、それを育み維持していく術を学べないので、自分でよかれと思っている対応や対処、関わり方は機能不全家族仕様なので、安心・安全な状況や人間関係には通用せず、自分の思いとは逆の課題や問題となっていくからです。

また、その苦しさは、残念ながら周囲の人には理解されないこともよくあります。

理由は、客観的に周囲にみえるあなたの現実はうまくいっているので、一般的に、そういう人が苦しさや生きづらさを感じているとは思わないので、あなたがいくら話しても、話半分くらいでしか聞いてくれず信じてもらえないことが多いからです。

このわかってもらえないという思いそのものも、目の前の相手との人間関係の問題を生みだしていることもよくあります。

自分の子どもをアダルトチルドレンにしないために親が出来ること

機能不全家族の一番の問題は、親や大人の責任で対処・解決していく家族の問題を、子どもが親の代わりに抱えてしまうことです。

親が自分の問題を抱えきれずに、子どもに自分の問題の責任を転嫁して、子どもの問題にしてしまうこともよくあります。

こうした現実を踏まえて大切な理解があります。

生活上の困難は誰しも経験することなので、家族が機能不全になる要因を抱える可能性は、どの家族も例外なく存在するということです。

どの家族も例外なく可能性があるので、一時的に家族が機能不全になったとしても、親が、親自身の問題や家族の問題の解決をしていくために、信頼できる大人に適切な援助を求めて、協力・助けを得て、問題解決に努めることが必要になります。

なぜ必要なのでしょうか?

それは、一時的に家族の機能不全が生じていても、親が自ら問題解決の責任と役割を果たしていくことで、家族の機能が回復していくからです。

子どもに親の責任や家族の問題の責任を転嫁したり肩代わりさせないことが、親の養育者としての本来の関わりであり、親がそれを意識して子どもと関われていることが、機能している家族だからです。

親は、信頼できる大人に適切な援助を求めて協力・助けを得ることで、子どもとの関わりを大切にするための時間を確保し、子どもが安心したりくつろげる時間を一緒に過ごすことが大切になります。

こうした子どもとの営みは、一時的に不全となっていた家族の機能を回復させ、家族メンバーそれぞれが従前よりも成長し、新しい成熟した家族関係を築いていく大切な時間となります。

また、現実的な問題の要請で、親が限界を超えて休息が必要な時は、他の信頼できる大人の協力を得て、子どもを保護して愛情をもって世話をしてもらうことで、子どもは抱える必要のない家族の問題を抱えずに乗り切っていくことができるようになります。

夫婦関係、恋愛(恋人)関係、親子関係、職場の人間関係など、人間関係全般で悩みや問題を抱えている方で、アダルトチルドレンの自己認識を持っている人はもちろん、そうでなくてもアダルトチルドレンの概念を読んで少しでもあてはまることがある人、そして、実際に子育て中のご両親が何らかの問題を抱えていて子育てが十分でないと感じている時、カウンセリングによって援助を受けることで問題を解決していくことが出来ます。

文責 カウンセラー 池 内 秀 行

2024-03-06一部改訂


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Wrote this article この記事を書いた人

プロカウンセラー池内秀行

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