自己肯定感、高める必要あるの?

自己肯定感、高める必要あるの?

こんにちは。カウンセラーの池内秀行です。

この内容は、『HONEY #30 ハニー1月号 第6巻第1号 2020年12月7日発売』に掲載された「 新・マインドフルネス|自己肯定感、高めないとダメですか? Stop and think」,p125ー131の取材を受けるために、事前準備の共有資料として2020年10月21日に私が作成した資料の内容について、当時の記事には反映されていない内容や、企画の趣旨からサラッとしか触れていない内容について、今でも役に立つ人がいると思い、資料に加筆し、さらに追加の内容を加えて執筆したものです。

なぜ自己肯定感が話題になっているのか?

現在の自己肯定感ブーム(2020年12月当時)は、社会的背景として、2013年に内閣府が行なった「日本と外国の若者の意識調査」が始まりだと思います。

この意識調査により、日本は諸外国に比して若者の自分への満足度が低いという調査結果が出ました。

そして、2016年には教育再生実行会議でも、文部科学省から「日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について」と題する報告がありました。

その後、2017年に文部科学省から「我が国の子どもの意識に関するタスクフォース」の分析結果が示され、同年、これらをまとめた第十次提言で「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育の向上」が示されました。

こうした国の政策提言があると、民間でも、その内容に基づいた提言やサービスが生み出されていくので、こうした調査結果と提言に基づいて、「自己肯定感」がキーワードとして話題になるようになったのではと思います。

こうして、社会的に「メンタルヘルス」が意識されるようになったこともあり、教育分野だけではなく、様々な分野・領域で、何かを成し遂げたり実現することや人間関係に至るまで、「自己肯定感」をキーワードに、様々なことが語られるようになってきたと言えると思います。

自己肯定感とは?

「自己肯定感」について、目に入ってくるものとしては「自分は価値ある存在である、と思っている」ことや「自分に自信がある」という内容の説明です。

例えば、「様々な物事に取り組む意欲が高い」、「前向きで、自分について好ましく思うような態度や感情を示せる」等があります。

研究分野においては、「自己肯定感」やそれに類する用語について、様々な議論があり、研究者の間では、用語の意味や定義も異なっているのが現状です。

心理、教育、特別支援教育など、その分野と領域に応じて、その実態を踏まえて様々に定義されており、その他の分野も含めると様々です。

その中で、共通している定義と思うのは「自己肯定感とは、自分を肯定的にとらえる感覚」です。

もう少し具体的な説明のとしては、「【自分の言動の結果について】、良い結果、悪い結果、どんな結果であろうと、最初は自分で受け入れることができなくても、プロセスを得て、最終的には、他人の評価とは別に、自分のことをイエスと言える」と言えます。

自己肯定感と自尊心の関係について一考察

自尊心

自己肯定感が注目されるようになる前は、関係する概念として「自尊心」があります。

自尊心は、自分自身を価値ある存在(人間)と捉える感覚です。

「自分はOK。自分はこれで良い」と自己認識、自己評価できることです。

自尊心は、「自分はOK。自分はこれで良い」と思っていても、他者の影響を受けて、「自分はダメ。自分はこれではダメ」、他には「自分はダメ、相手はOK」、「自分はこれではダメ。相手はそれで良い」と、自分を否定して自分自身を価値ある存在と思えなくなる事があります。

このような時に、自尊心が高いとか低いとかの話になっていきます。

自己肯定感

そして、「自分はOK。自分はこれで良い」という自己認識を覆さず、他者の評価を適応的に調整することで、主体性を持ち続けて物事に対峙し、継続して取り組んでいく力や能力について考える時に、「自己肯定感」という概念が出てきて、ここでも自己肯定感が高いとか低いとかの話になっていきます。

また、他者の評価の影響を受けて、「自分はOK。自分はこれで良い」が「自分はダメ。自分はこれではダメ」になっても、その後、プロセスの中で、他者の評価を再評価して適応的に調整することで、「自分はOK。自分はこれで良い」と思えるようになることも、主体性は維持されており、そこに自己肯定感が関係している可能性があります。

自尊心・自己肯定感が 高い? 低い?

一般的に、自尊心や自己肯定感について、「高い・低い」という表現をします。

この表現は、データとして客観的に評価する時、高い低いという表現を使うので、その表現のまま使われています。

実態としては、自尊心も自己肯定感も、生まれながらに持っているものではなく、生まれてからの人間関係や社会的関係の中で様々な体験を通して育まれていくものなので、私は、高い・低いではなく、どれくらい育まれているのかという表現を使うことがあります。

自尊心は心身の健康にとっても大切

自尊心については、心身の健康にとっても重要であり、健全な自尊心は、ストレスの調整、疾患の症状緩和にも関係しているという専門分野の研究もあります。

一方、自分を嫌っている状態が、心身の健康だけでなく、能力を発揮するうえでも好ましくない影響を及ぼすという専門分野での研究もあります。

自尊心が育まれていく過程で大切なこと

それでは、自尊心が育まれていく過程で大切なことは何でしょうか?

子供時代は養育者とのアタッチメントが影響すると理解されています。

しかし、子供時代の養育者との関係は様々です。

子供時代のアタッチメントの影響が全てのように語られていた時期もありますが、実際は様々な関係性の中で経験する様々な体験が影響して育まれていくものです。

養育者とは別の周囲の大人との関係性や、成長するにつれて経験する社会的関係性の中で、自尊心が育まれる関わりがあれば育まれていきます。

「基本的自尊心」と「社会的自尊心」

自尊心は、様々な人たちとの関わりの数だけ、それぞれの価値基準が存在するので、その価値基準の違いに着目すると「基本的自尊心」と「社会的自尊心」に区別することもできます。

基本的自尊心

「基本的自尊心」は、無条件に自分自身の存在そのものを認められること、肯定できることで得られる感覚と認識です。

この感覚と認識は、生まれてから他者との関係の中で、自分が感じている感情的体験、身体的体験を、他者に寄り添い受け入れてもらう関わりの中で育まれていきます。

嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと、辛いことなどを体験した時に感じる感情(エモーション)や、気持ち(フィーリング)、感覚(センス)、そして、人として自然に湧き上がってくる、人を大切に思う気持ちや人を守ろう助けよう協力しようとする良心とそこから生じてくるフィーリングを、自身の主体性を尊重して、受容し、関わってくれる他者の関わりの積み重ねの中で育くまれていくものです。

社会的自尊心

「社会的自尊心」は、社会的価値評価基準に基づいて、その価値評価基準を満たしていること、満たせるようになることで育まれる感覚と認識です。また、その価値評価基準に基づいて自分と他者を比較し、自分が優っていると感じることで育まれていく感覚もあります。

高すぎる自尊心も問題?

自尊心も高すぎると問題になると言われることがあり。

高すぎると問題になる自尊心は、社会的自尊心です。

社会的自尊心の基盤は、その人の存在ではなく、社会が定義した価値に基づく評価なので、それに基づく社会的な優劣の評価が存在します。

したがって、社会的自尊心だけで、独りよがりになると、過度な優越感、自己中心的で自分勝手な言動、自己顕示欲や自我肥大、過度な自己愛の問題になり、様々な関係性の問題が生じてきます。

一方、社会的自尊心が高くても、同時に基本的自尊心も高いと他者の立場に立つことや他者への配慮が期待出来るので、自分が間違えたり、相手に嫌な思いをさせたら、相手の立場に立って、心情的に受け止めて心から謝罪してリカバリーするでしょうから、深刻な問題に発展するリスクは低減されると思います。

自尊心と自己肯定感 高い低い

例えば、

周囲から見ると、優秀なのに、自分には自信がないという人の多くは、もしかしたら基本的自尊心と社会的自尊心の両方が自分を肯定するまで充分に育まれていない可能性があります。

いつも自信に満ちているようでも、実は失敗するのを過度に怖れていて、いつも本来の能力を十分に発揮できない人や他者の批判の影響を過度に受ける人、些細な失敗からの立ち直りが遅い人は、もしかしたら社会的自尊心は自分を肯定するまで充分に育まれていても、基本的自尊心は自分を肯定するまで充分に育まれていない可能性があります。

いつも自信に満ちていて、何かにつけて自分と他者を比較して自分の優秀さをアピールしたり、いつも会話がマウンティングになったり、他者からネガティブなフィードバックがあると直ぐに威圧的になり相手を攻撃して自分を守ろうとしたりする傾向が強い人は、もしかしたら社会的自尊心は自分を肯定するまで充分に育まれていても、基本的自尊心は自分を肯定するまで充分に育まれていない可能性があります。

この場合は、もしかしたら社会的自尊心の他に、自我肥大、過度な自己愛により自己顕示欲が強くなっている可能性があります。

また、人として信頼できるし、一緒にいて安心できる人でも、何か物事について一緒にやろうとしたり、物事を成し遂げたりするとき、過度に自信が持てない人は、もしかしたら基本的自尊心は自分を肯定するまで充分に育まれているけど、社会的自尊心は自分を肯定するまで充分に育まれていない可能性があります。

一方、育まれていた自尊心も、その人にとって辛い体験や酷い体験、それまでの認識が覆るようなトラウマ体験をすることで、自信を失い、自尊心を感じられなくなることもあります。

この場合、トラウマ体験を癒し回復する過程の中で、自尊心が感じられるようになり、さらに、新たな自尊心が育まれていくことが研究でわかってきています。

ちなみに、上記の内容について、試しに「基本的自尊心」と「社会的自尊心」の部分を「自己肯定感」に入れ替えて、「自分を肯定するまで充分に育まれている・自分を肯定するまで充分に育まれていな」を「高い・低い」に入れ替えて体裁を整えてみます。

例えば、

周囲から見ると、優秀なのに、自分には自信がないという人の多くは、もしかしたら自己肯定感が低い可能性があります。

いつも自信に満ちているようでも実は失敗するのを過度に怖れていて、いつも本来の能力を十分に発揮できない人や他者の批判の影響を過度に受ける人、些細な失敗からの立ち直りが遅い人は、もしかしたら自己肯定感が高いようで低い可能性があります。

いつも自信に満ちていて何かにつけて、自分と他者を比較して自分の優秀さをアピールしたり、いつも会話がマウンティングになったり、他者からネガティブなフィードバックがあると直ぐに威圧的になり相手を攻撃して自分を守ろうとしたりする傾向が強い人は、もしかしたら自己肯定感が高いようで低い可能性があります。

この場合は、もしかしたら自己肯定感の他に、自我肥大、過度な自己愛により自己顕示欲が強くなっている可能性があります。

また、人として信頼できるし、一緒にいて安心できる人でも、何か物事について一緒にやろうとしたり、物事を成し遂げたりするとき、過度に自信が持てない人は、もしかしたら自己肯定感が高いようで低い可能性があります。

一方、自己肯定感が高くても、その人にとって辛い体験や酷い体験、それまでの認識が覆るようなトラウマ体験をすることで、自信を失い、自己肯定感が低くなることもあります。

この場合、トラウマ体験を癒し回復する過程の中で、自己肯定感が高くなり、さらに、新たな自己肯定感が育まれていくことが研究でわかってきています。

入れ替えたものを読んでみてどうでしょうか?

このように、現在、語られる自己肯定感の文脈と自尊心の文脈は共通している部分が多いのです。

「自己肯定感を高める」のは少し違う、高める必要があるの?と思う時があるのですが、なぜでしょうか?

私も同じことを思うことがあります。

私の考察としては、何かを成し遂げたいのであれば、自己肯定感が低いとうまくいかないので、自己肯定感を高める必要があるという直接的な文脈のメッセージの時に、違和感を感じる人が多いのではないかと思います。

その理由の一つとては、何かを成し遂げた人の中には、自信がないまま成し遂げる人たちも存在するからです。

他にも違和感を感じる表現としては、自己肯定感が高い人の特徴として「様々な物事に取り組む意欲が高い」というのがあります。

しかし、物事への取り組みの意欲は、その物事に関する興味の持ち方が影響していることも多いので、内容によっては、自己肯定感というより、好奇心や探究心のことなのではないかと思うことがよくあります。

好奇心や探究心も自己肯定感に関係するという理解もあるかもしれませんが、実際のところ、自己肯定感が低いと言われる人でも、何か好きなことや、興味があることには、不安や怖れを感じながらでも積極に行動する人たちも存在するので、私は違和感を感じることの方が多いです。

私の体験としては、自己肯定感が低いと言われる人が、不安や怖れを感じながらでも積極的になる姿を目の前にすることがよくあります。

その場合、ご本人の勇気がそうさせていると感じることが多く、自己肯定感の低さを評価して高めるより、その勇気に着目して望んでいることが実現するようエンパワーメントしたいので、私のカウンセリングでは、ご本人の勇気が後押しする健全な行動が実るように、癒しだけではなく、エンパワーメントも行なっていきます。

「自己肯定感を高めるためには、根拠のない自信を持ちましょう」に違和感を覚えます

「自己肯定感を高めるためには、根拠のない自信を持ちましょう」というメッセージにも違和感を感じるということですが、これもそう思う人は多いのではと想像します。

思うに、根拠のない自信を持ちましょうというのは、「自信がない」、「失敗が怖い」、「心が折れる」などを想定しているメッセージなのではと想像します。

それを前提にさせてもらうと、誰しも未経験のことやあまり経験のないことについては、最初から自信を持っていたり、失敗しても自分で自分を励まして前に進んだりと、最初から自信を持っている人の方が少ないのではないでしょうか。

実際は、多くの人が不安を感じたり、失敗を怖れたり、少しでもうまくいかず周囲から批判されると心折れる体験などするものです。

逆説的ですが、未経験のことやあまり経験のないことについて、「自信がない」「失敗が怖い」等、自分の認識や感じていることを言葉に出来ることそのものが、自己肯定感や基本的自尊心が高いのではないかと思います。

したがって、自己肯定感を高めるためには、根拠のない自信を持ちましょうというメッセージは、自己肯定感を高めるために必要となる物事の肯定的な結果を体験するために、物事を始める時の背中を押すような応援メッセージのようなものとして捉えることが出来ると思います。

どちらかというと、マーケティングのキャッチコピーだと思うので、本来の自己肯定感そのものを高める意味としては使われていないのではと想像します。

しかし、基本的な知識がないと、キャッチコピーをそのまま信用して取り入れる人もいると思うので、この場合、物事がうまくいけば一つの成功体験になり自信を感じることは出来るでしょうが、それが自己肯定感なのかどうかというと話が違ってくるのではと思います。

何より、「根拠のない自信を持つ」ことについて誤解が生じると、自我の肥大をまねいたり、根拠なくゾーンに入るが如く自分は凄いから大丈夫と思えるような人の場合、過度な自己愛が存在する可能性もあり、自己肯定感とは異なるテーマになる可能性があります。

自己効力感について教えてください

自己効力感は、英語ではself-efficacyです。

自己効力感は、心理学者であるバンデューラの社会的学習理論の中で提唱された概念です。

自己効力感は、自分の人生に影響を与える出来事に対して、自分の行為や行動によって望ましい効果や結果を生み出すことが出来るという信念です。

要は、自分がある行動について上手くやれると思えることです。

一方、自分が経験したことがあることは出来るし、経験がないこともやっていけば出来るようになる自信があると思えるのは、自尊心や自己肯定感になります。

心理学辞典では、自己効力感は「自分が行為の主体であることを確信していること、自分で自分の行為をきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応している、できているという確信」と説明されています。

自己効力感は、自分の行為や行動の結果を予測して信じることではなく、プロセスの中で「自分は結果に結び付く役に立つであろう必要な行為や行動をする事ができる、出来るようになる」という自分自身の行為や行動について予測して信じることが出来ることです。

例えば、次のような認識が自己効力感になります。

何かを遂行しようとする時に、自分はそれを遂行するために必要なことや求められていることが出来るし、出来るようになると予測して、その予測を自分で信じられること。

過去の実績に基づいて、自分は必要なこと求められることが出来ると自分で信じられること。

何らかの課題に取り組むときに、困難な状況になっても「自分は対処していける・困難でも続けていける」と予測して、その予測を自分で信じられること。

自分の働きかけが外界に影響を与え、未来の結果に影響を与える事ができると予測して、その予測を自分で信じられること。

自己肯定感と自己効力感の違い

自己肯定感と自己効力感の違いですが、自己肯定感は、自分は価値ある存在であるという、自分自身について前向きで好ましく感じられることなので、しいて言えば自己肯定感は他者の評価に関わらず「やればできる」という自分の評価を支えるものです。

自己効力感は、自分なら達成することができるかもしれない、達成することができるという、自己認識に基づいて行動に移せるという、自分で自分自身の動機づけもできることです。

「やってみよう」「やり遂げる」「何とか出来る」という自分の行動を支える信念です。

読んでいて気づかれる方もいると思うのですが、自己効力感の説明の中には、自己肯定感を高める方法として紹介されている内容も含まれていてます。

実は自己肯定感を高めましょうという内容の中には、高めるために自己効力感のことを説明しているものが存在しています。

これは充分理解できることです。

なぜなら、自尊心、自己肯定感、自己効力感は、概念としてそれぞれ違うものと思うかもしれませんが、実際は、それぞれ重なりあっており、説明したいことや明らかにしたいことによって、視点や切り取り方が変わると、例えば自己肯定感を説明しようとすると、補完的に自尊心や自己効力感の概念説明が含まれてくるのです。

自尊心・自己肯定感・自己効力感の関係

自尊心は、他者との関係性の中で自分の存在を肯定することが出来るようになるまで基本的自尊心が充分に育まれていくもので、さらに、個人的・社会的関係性の中で、出来ることが増えていく中で、自分の行動や能力が結果に影響を与えることが出来るし、他者や外界にも影響を与えられる事が出来るという自己認識がもてるようになっていき(自己効力感)ます。

そして、自分が主体的に関わった物事の肯定的な結果が積み重なっていく中で自己肯定感が育まれ、その体験的プロセスを共感的に理解し受容し肯定してもらう体験の中で基本的自尊心が育まれ、プロセスや結果を評価してもらうことで社会的自尊心が育まれていく。

私はこのような説明も成り立つと考えています。

私のカウンセリングの実践では、自己肯定感を高めることそのものよりも、自己効力感が育まれるプロセスの方を大切にして、主体的に物事に取り組んでいくことや、主体的に日々の生活をすることをエンパワーメントしていくこともよくあります。

理由は、このアプローチの方が、自己肯定感が高い低いに振り回されにくくなり、目の前の現実を意識的に大切に出来るようになり、自己効力感だけではなく、同時にそのプロセスで自己肯定感はもちろん、自尊心も育まれていくからです。

実際、私のカウンセリングのクライエントがカウンセリングを受けながら取り組んだ現実的なプロセスを振り返って、自分の成長と生活の変化について話してくれる時に、自己効力感、自己肯定感、自尊感情が育まれていることを、クライエントも私も実感することがよくあります。

自己効力感の育み方

バンデューラの「激動社会の中の自己効力」によると、下記4つの影響によって、自分の行動や能力についての自己認識である「自己効力感」が育まれていくと説明されています。

制御体験


制御体験は、強力な効力感を育んでくれる最も効果的な方法とされています。

制御体験は、目標や目的がある事に主体的に関わり、それが成功するまでのプロセスの中で体験するもので、成功するために必要なことは何でもできるという確証を与えてくれる体験とされています。

制御体験とは、その人が元々もっている習慣による行動で容易に成功するような体験ではなく、絶えず変化する生活環境の中で、物事を成し遂げるために必要なことを考え、適切な行動を考え、そして実践するために、様々な視点や考え方を獲得し、そこから適切な行動を考え、そして行動し、トライ&エラーを繰り返しながら行動を最適化していく継続的な努力と、そのために必要に応じて自分を律することや、自己調整を行っていくことです。

制御体験は、目標や目的を達成し成功するために、主体性をもって忍耐強い努力を続け、逆境に直面しても立ち上がっていく意志をもって乗り越えていくことなど、最後まで、または状況によっては区切りのつくところまでやり抜く過程で、人は様々なことを学び、能力が高まり、力が育まれていくので、その経験を通して、成功するために必要なことは何でもできると予測し、それを自分で信じることが出来るようになる体験と言えます。

自己効力感が提唱されたのは1990年代なのですが、自己効力感とウェルビーイングの関係にも言及されています。バンデューラが言う「成功」は、その内容と文脈から、利己的なものではなく、現在で言うと、人権を尊重した考え方や手法の実践、人権を尊重する環境づくりなど、人権に配慮した健全な手法や方法で実現していく、健全な目標や目的を実現する成功のことを言っていると思います。

したがって、他者を害する手法や目的、人権を侵害する手法やその環境づくりといった、不健全な手法や方法で実現することや、不健全な目標や目的の成功ではありません。

もし、不健全な手法や方法、不健全な目標や目的が含まれていた場合、それに気づいたときや、他者からその指摘があれば、それを反省し、是正し、害を与えていればそれを回復して必要な償いをし、かつ、人権を尊重した健全な手法や方法、目標や目的に修正して成功する体験になると思います。

社会的モデルによって与えられる代理体験(モデリング)

代理体験は、効力の信念を生み、強めていくための方法とされています。

自分と同じような人々が忍耐強く努力をして成功するのを見て観察することで、それが励みとなり、自分も同じよう忍耐強く努力することが出来るという信念が湧きあがってきて、同じことをしようと、観察し真似することで学習し、新しい考え方や行動を獲得する経験をすることで、自分もできるということを予測し、それを自分で信じることができるようになる体験です。

ここで言う「学習」は心理学でいう「学習」になります。心理学で言う「学習」は、勉強など考え方や知識を習得する知的な学習だけではなく、その人の経験によって比較的永続的に行動が変化することも含みます。

社会的説得(言語的説得)

社会的説得は、成功するときの人々の信念を強める方法とされています。

人から、ある行動を習得する能力があると言われて、その行動を勧められた人は、問題が生じた時に、自分が出来ないことをくよくよ考えたり、自分に疑念を抱いたりしないで、習得のために可能性を高めるような活動を続け、努力し続けることで、自分の能力に対する効力感が高まって、自分の能力を自分で信じることができるようになるとされています。この場合、結果による肯定的な評価以上に、そのプロセスで、自分の能力が高まった点で、成功を評価するようになるとされています。

生理的・感情的状態

人は自分の能力を判断するときに、ある程度、生理的・感情的状態にも頼るので、身体の状態を向上させ、ストレスやネガティブな感情傾向を減少させ、身体の状態を正しく把握することとされています。

これは、自己効力感は肯定的な気分で強まり、落胆した気分で下がるという研究があり、人は傾向として、ストレス反応や緊張を、遂行能力が低下しているときの弱さのサインと捉えたり、体力や持久力を伴う活動では、疲労や痛みや苦痛を生理的な衰弱のサインと判断したり、気分も、個人が能力を判断する時に影響を与えるので、身体的・感情的な反応を正しく把握してマネジメントしていくことが大切とされています。

あまり意識されていない大切なこと

自尊心、自己肯定感、自己効力感、それぞれ共通して、あまり意識されていない大切なことがあります。

それは身体の健康とコンディションが大きく影響を与えると言うことです。

言い古されていますが、休息と睡眠は大切です。

そして、現代風に言うと、身体のケア、身体のセルフケアにより、自分の身体と良い関係を築いていくことは、まだ育まれていない、または、何かの影響で低下している、自尊心・自己肯定感・自己効力感を育み高めるための入り口になります。

何より、身体的健康を意識した生活は、自尊心・自己肯定感・自己効力感を維持し、さらに育んでいくことや、心の健康の実現、ウェルビーイングを実現していくためにも外せない大切なことです。

身体と自尊心、自己肯定感、自己効力感の関係は、また別で書きたいと思います。

2023-10-26執筆,2024-03-02一部改訂

文責 池内秀行

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参考文献

内閣府政策統括官(共生社会政策担当) 調査実施機関:株式会社インテージリサーチ(平成26年6月)「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成25年度)」URL:https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html(参照日:2020年10月20日)

日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について 資料4 (文部科学省提出資料) ※第38回教育再生実行会議(平成28年10月28日)の参考資料2
URL:https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12251721/www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/chousakai/dai1/siryou4.pdf(参照日:2020年10月20日)

教育再生実行会議(平成29年6月1日)「自己肯定感を高め、自らの手で未来をひら 切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、 学校、家庭、地域の教育力の向上 (第十次提言)
URL:https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12251721/www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai10_1.pdf(参照日:2020年10月20日)

田島賢侍, 奥住秀之「子どもの自尊感情・自己肯定感等についての定義及び尺度に関する文献検討」東京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅱ 64:19-30,2013
URL:https://core.ac.uk/download/pdf/15925642.pdf(参照日:2022年7月22日)

無藤隆 他(2018).『心理学(新版)』.有斐閣

中島義明 他(2006).『心理学辞典』.有斐閣

アルバート・バンデューラ/本明寛他訳(2020).『激動社会の中の自己効力』.金子書房 



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プロカウンセラー池内秀行

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