直接被災していない人の災害時の心得 2011-03-21UP

目次

はじめに

 (注意 この内容は現地で直接被災していない人を対象に書いたものです。しかし、ベースは被災された方用のものです。したがって、ストレス軽減の方法については、被災された方も役立ちます。それぞれの状況に応じて、出来そうなことは試してみてください。なお、現地に専門の援助者が入っている場合は、援助者に話をきいてもらいサポートを受けることをお勧めします)

直接被災していない人も傷つき、打ちのめされます

3月11日(金)14時46分頃、三陸沖で起った地震以降、直接被災していない、私の個人のクライアント、クライアント会社の中で、そして、個人的な国内・海外の友人の中で、様々なレベルで災害の心理的な影響を受けています。

今回の地震は、メディアやインターネット上でも地域や国に関係なく人々に影響を与えていることが伝わってきます。

私も含めて、身近な生活圏の中でも感じとれます。 

大きな災害時の時には、被災した個人だけでなく、その地域全体が、災害のショックで傷つき、マヒします。

そして、被災地にいなくても、親しい人の安否についての心配はもちろん、報道やネット情報、人づてに入ってくる各地の悲惨な情報を受け取ることで次のようなことがおこることがあります。

過去の被災体験がよみがえる。
抱えている様々な個人的な課題と震災情報で体験する感情的な反応が混乱する。
自分が安全な環境にいることについて負い目を感じて罪悪感を感じる。
何もできないことで落ち着かない気持ちや無力感を感じる。

など、かなりの人が多かれ少なかれ、災害から心理的な影響を受けます。

災害に襲われたときの最初の心理的反応・身体的反応

災害に襲われた時、そして、映像を伴う情報を受け取った時、最初に次のような心理的な反応があります。この反応は身体的な反応(緊張・固まる・過覚醒)を伴います。

とてつもない不安感に襲われる。
感情や精神的なマヒ(被災地では、人を犯罪に駆り立てるエネルギーさえ恐怖でマヒします)。
急激にエネルギーが湧いてきて、反射的に活動的になる。

災害の体験は、恐怖・不安・深い悲しみのほか、日常生活の中ではあまり感じることのない心の奥底からの感情と、生物としての生存本能による身体的反応を呼び覚まします。 

しかし、一方で、ショックが大きければ大きいほど、身体的反応として感情を切り離し、目に前の現実に対処しようとすることを優先していきます。

そのため、様々な感情は一時的、または、その人にとっての危機が去るまで、自分の感情に触れることはできない状態になります。。 

人間の身体は、手に負えないほどの不安や恐怖を体験すると、それを自分の体験として処理する際、直面して受けとめられる準備が出来るまで、とりあえず「マヒ」という状態をつくって自分を防衛するように出来ています。これは、どんな人にも共通する本能的な反応です。

そして、感情がマヒした状態でも、自分の身の安全を守るため、避難するため、他者を救出するために、身体は活動的に動き、必要な行動をとっていきます。 

生きのびるために本能的にマヒさせた感情は、身の安全と衣食住が確保され、少しでも先のことを考えることが出来るようになってくると、波が押し寄せては引いていくように、それぞれのペースで感じられるようになっていきます。 

それぞれの置かれている状況やペースで、押し寄せては引いていく、ということを繰り返しながら、体験的に処理されるプロセスに入っていきます。 

この時、最初に蘇ってくるように感じることが多いのは恐怖と不安です。

危機的な状況が起った直後、気丈にしてリーダーシップを発揮している人でも、実はショック体験から自分の感情をマヒさせています。 

そういった人ほど、暫くしてから、大きな感情が押し寄せてきた時、自己認識している自分の状態と押し寄せてくる感情のギャップで混乱します。 

その時は、周囲がありのままの感情を認めること、本人が自分の様々な感情を受けとめていためのサポートとして、他者との関わりが必要になります。

特に大切な理解は、こうした感情を感じることは「人間として精神的に強いとか弱いというのは全く関係なく、人間として自然な体験である。」という事実です。

危機的状況の中で気丈にリーダーシップをとっている人が、周囲からみて、ちょっといつもと違っておかしいなと思うような言動があらわれてきたら、「あの人は大丈夫」と思うのではなく、「大丈夫ですか?辛そうですね。少し休憩しませんか?」といったように声をかけて、気にかけてあげることが大切です。 

また、地域の行政機関や医療機関も、パニック状態に陥ります。 

救助や援助に向かった人たちも、緊張・重圧・ショックにさらされ、日常業務と次元の違うストレス状態を体験しています。

そして、前述したように、今回のような未曽有の災害時においては、直接被災した人たちだけではなく、被災していない人達にも同様の心理的・身体的な影響を与えます。

災害時のストレス反応について

多くの被災者は、次のような状態を経験します。

また、直接被災していない人も、様々な情報に触れて、大きなストレスを受けると、同じような状態を経験することがあります。

いずれの状況でも、この反応は「異常な事態に対する正常な反応」です。 

心理的反応(状況認識や感情等)

感情のマヒ・眠れない・恐怖の揺り戻し・不安・孤独感・疎外感・イライラ・怒り・生き残ったことへの罪悪感など 

身体的反応(生理的反応)

頭痛・手足のだるさ・筋肉痛・胸の痛み・吐き気など 

思考(判断力等)

集中できない・思考力のマヒ・混乱・短期の記憶喪失・無気力・決断力や判断力の低下など 

行動

怒りの爆発・家族間のトラブル・周囲との接触を拒絶する・飲酒問題・子ども返りなど 

ストレス軽減の方法

被災地以外にいる人にとっても、日常生活が「異常な事態」の影響を受けています。その状況の中でのストレス軽減の方法として、次のような方法が助けになります。 

言葉になる範囲でいいので、話したいことがあったらどんな些細なことでも話をする

ベストは、批判や評価することなく、いろいろな話を聴いてくれる人に話すことです。

お互いの体験を共感的にきける人どうしで、お互い話しを聞くのは、とても助けになり、ストレス軽減(ストレスの調整)になります。

話すときは「できごと」「考え」「気持ち」の順にすると話しやすいです。

言葉にならないことは無理に言葉にせず、「言葉にならないんだけど」ということを言葉にしてみましょう。

そして、大切なことは、話し終えたら、「自分たちの日常に戻りましょう」、といった日常に意識を戻す言葉を発して、自分たちが日常で出来ることをやっていくことを確認しましょう。そうすることで、災害の影響を日常に不必要に及ぼす予防になります。

感情が押しよせてきたら、出来るだけゆっくりと受けとめて、落ち着くまで時間を使う

感情を、考えや価値観などを使って抑えないことです。

泣きたいときには泣いてよいので、自分を泣かせてあげましょう。

人間としての自然な感情的な体験を大切にして自分に感じさせてあげてください。

不安や怖れを感じる時は、感じていることを抑えず、「不安を感じる」「怖れを感じる」とただ言葉にするなどして受けとめて、お互い「不安を感じるね」「怖いね」と気持ちや感情があることを確認して、時間をかけて落ち着くのを待ちましょう。

ゆっくり呼吸する

強いストレスを感じている時は、呼吸が浅くなりがちです。

そういう時は、意識的にゆっくりと呼吸することもとても助けになります。 

ゆっくり呼吸する時のポイントは、吐くことに意識を向けることです。

吸うことに意識を向けすぎると過呼吸になることがあるからです。

意識的に、吐く時間を、吸う時間より長く呼吸すると、神経系の興奮が沈静化して、リラックスしてきます。

身体をほぐす

強いストレスを感じていると、自分では気づかないうちに身体が緊張して固くなっていることがあります。 

軽く運動して、身体をほぐすこともストレス軽減に役立ちます。 

この時、無理に身体を緩めようとするよりも、固くなっていることに気づき、固くなっていることも大切にして、動く範囲でゆっくり動かしてあげるのがポイントです。

安全な関係の中でのスキンシップ

親子や家族、友人間でのスキンシップも、緊張をほぐすのにとても役立ちます。

ハグは、お互いの存在をリアルに実感でき、心理的な安心感、そして身体的な安心感を感じることができるスキンシップの一つです。 

但し、相手が嫌がる場合は、相手の不安と緊張感を高めるので無理やりのスキンシップはNGです。

状況と相手、そしてコンディションによってはトラウマにもなるので、必ず、親しい間柄でも、お互いの同意が必要です。

「ハグしても大丈夫?」という確認は意識的に行いましょう。

人によっては言葉でNOが言えない人もいますので、返事がなければ無理をしないのが相手にも自分にも優しい接し方になります。

スキンシップOKの場合でも、タッチする場所やタッチの仕方は、相手に確認しましょう。

相手のニーズを最大限に尊重することが大切です。

口と水着で隠れる場所は、全ての人に共通する大切なところです。そこへのタッチは避けることが、トラブルにならない関わり方になります。

文章に書く、絵を描く

自分の表現でいいので、出来事・考え・気持ちを文章に書いたり、絵を描くのもよいです。

周囲の人は、表現されたものを評価したり、否定しないことが大切です。

自分のための時間を確保する

気がかりや心配、不安などの影響を受けて、自分でも気づかないうちに落ち込んでいたり気分がすぐれなくなることもあります。 

ほんの少しでいいので自分のための時間を見つけたり、自分の気持ちが楽になることをしてください。 

自分を責めない

異常な状態の中では、個人の責任を越えたことが沢山起っています。

そして、人や組織、地域、責任者の責任に属さないことも沢山起っています。

こういう状況の中では、様々な責任が混乱しています。

起った悲惨な出来事や自分の力ではどうしようもなかったことに関して、大きなストレスを感じ、「自分がああしておけばよかった、こうしておけばよかった」という後悔の念がわきおこり、自分を責めてしまうこともよくあります。

責めたくなる気持ちはわかりますが、あなたが悪いのではないので、自分を責める必要はなく、自分を責めても何も解決しません。

つらさを一人で抱えこます、他者の助けを求める

つらさを感じている時は、被災地の人のことを思えば大したことはないと自分に言い聞かせて一人で抱えこまないで、他者の助けを求めてください。

異常事態では、全ての人に助けが必要です。

特に、被災していないあなたの力が必要となり、協力を求められた時に、あなたがストレスでまいっていたら役に立つことができません。 

特に大切なこと

「被災地にいる人」と「被災地にいない人」の状況のギャップ、情報量の違いや、被災者・被災地との関係性の違いからくるリアリティのギャップから、コミュニケーションが食い違い、日常の関係中でいつもと異なるストレスフルな状況が生じることがあります。 

先日、相談がありサポートした事例ですが、本社が関西にあり、東京に支社がある会社での出来事です。 

地震当日、東京支社の人が避難した後、本社から連絡がありました。

東京支社の人は地震の状況を話したのですが、本社の人の地震情報は東北のものとして認識されており、東京も地震の影響がどれほどか情報が不足していたので、うまく伝わらず、仕事の話しがなされたそうです。 

東京支社の人がセッションに訪れ、その時の体験が混乱してどう受けとめたらよいかわからないというものでした。 

これはリアリティの違いからくるものです。

異常事態という状況の影響を受けて起った出来事で、本社の人も支社の人もどちらも悪くありません。 

ご本人には、ここに書いている内容を説明して、本社と支社で起ったことについて理解するサポートを行い、感情的な混乱をサポートすることで落ち着きを取り戻していかれました。

その後すぐに、東京支社でグループワークを行い、災害時のコンサルテーションと、今後の社内での相互サポートについてセッションを行い、今は本社とのコミュニケーションも正常に戻っています。

また、取引先が被災したという会社もあり、その会社の経営者の方には、被災地の状況を聞いたり、メディアで報道を見て、心が痛んだり、不安や恐怖を感じたり、感情的にバランスを崩してしまうのは、その人の個人的なテーマではなく、自然な反応であることを説明して理解していただきました。

そして、経営者も含めて、会社の人達一人一人が、いろいろなことについてお互い話をして共有し、被災地と自分達の状況の違いを自覚して、健全に機能している日常業務はしっかり機能させていくことで、被災した取引先や被災地への支援が出来るということを理解していただきました。

その後、経営者の方の個人セッションで、さらに状況を整理していきました。

個人セッションでも、地震後の体験をきかせてもらうことで、自分が心理的にどんな影響を受けているのかを丁寧に整理するプロセスが増えています。

私自身の個人的な経験もあります。

阪神淡路大震災の時に、私は大阪に住んでいました。

地震当日、電車も止まり、情報もない中、とりあえず日常通りにと思い、大阪市内の職場に行きました。

事務所と自宅が近い弁護士が一人来ていて、私は2番のりでした。 

他の人は交通機関がマヒしていたので、全ての人に電話で安否を確認して、すぐに出来ることを相談して動きはじめました。

その後、被災地から仕事に来ていた人達は、神戸と大阪でリアリティのギャップがある話をしながら、大阪に仕事にくるとちゃんとしていてホッとするという話をしていたのをよく憶えています。 

結局、仕事では、日常業務を機能させることが一番のサポートになっていました。 

カウンセラーとして当時を振り返ると、機能している職場と、被災した仲間の状態をそのまま受け入れて尊重し、お互いを思いやる人間関係が、震災で失った物理的安全と心理的安全を提供していたんだと思います。 

被災地以外の人達は、現地への救援、支援と同じくらい、自分たちの機能している日常を維持することで、被災者の人達を現実的にも心理的にもサポートすることができます。 

機能している日常にウエルカムで迎え入れることや、仕事では相手の状況を考慮して支援的な取引を行い経済的な交流を維持していくことで、これから立ち直っていく人達をエンパワーメントしていくことになるのです。 

被災地から離れている人の被災地との関わり方で大切なこと

被災地から離れている人が、被災地の人たちとの関わり方で大切にしてほしいことがあります。

被災者や被災地へのサポートは、大きく分けると「救援・避難のサポート」と「復興のサポート」があります。

最初は、救援・避難のサポートにはじまり、プロセスに応じて復興のサポートへと移行していきます。

被災地以外の人達がサポートする時、自分の足元をしっかりみて、自分がどちらのサポートに協力していきたいのか、また出来るのかを考えて行動していくことが大切です。

自分の足元を自覚しておくことは、出来ることや行動を起こすタイミングを決める時に助けになります。

特に、被災地から離れた安全な場所で生活している場合、心理的・感情的な部分で巻き込まれてしまうと、健全に機能している日常に影響が出て、自分の足元が危うくなることがあります。 

そうなると、力になりたいという気持ちとは裏腹に、いざサポートが必要な時に動けなかったり、現実的に必要とされる援助が提供できなかったりします。 

つらい気持ちがあっても、その気持ちと健全に機能している日常での気持ち、そこに感情的な線を意識的に引くことが大切です。

つらい気持ちは受け入れながら自分をケアし、一方では、現実的な生活を営み、必要なサポートや援助が出来るタイミングに備えて、心理的に現実的に経済的にもエネルギーを蓄えることが大切です。 

被災地以外の人達の二次被災に類似したダメージを防ぐ

専門的には、災害当初の人命救助、救急医療、避難所運営、復旧作業、心のケアなど、被災地で援助を行なう人々は「二次被災者」とも言われます。

援助者は非常に緊迫した状況の中で仕事をしています。

その中で、人手が足りない、物資が足りない、情報が足りない……こうした悪条件に加え、悲惨な現場に立ち合うことも多く、救助すべきなのにできないなど、自分には手のつけようのない状況にも直面します。 

時間の経過とともに、やり場のない悲しみや絶望感の影響を受けた被災者から、他にもっていきようのない怒りをぶつけられることもあります。

現地の援助者の中には、自身が自宅で被災している場合もありますし、被災地以外から援助に入った人も、被災地で家族や友人、知人が被災している場合もあります。 

こういった大きなストレス下で、人手不足や不測の事態への対応などオーバーワークをせざるを得ない状況の中では、感情的にまいってしまうのは人間として自然なことです。

心身の後遺症を残さないため、セルフケアが不可欠になります。 

そういった現地で頑張っておられる援助者だけではなく、被災地以外の場所に居る人達の中にも、会社の取引先や親族・友人などが被災して、その人達に対して何らかのサポートを提供している人達にも、大きなストレスがかかります。 

思うように連絡が取れなかったり、求められている物資を送れなかったり、思うようなサポートが出来ないなどの条件が加わると、必要な時に必要なことができないなど、自分には手のつけようのない状況にも直面します。 

被災地と自分の状況のあまりのギャップにリアリティがもてず、思いもよらず、被災者との電話やメールなどでコミュニケーションにギャップがおこり、誤解が生じたり、相手からやり場のない怒りをぶつけられたりることもあります。 

会社関係などでは、被災地との窓口の担当者自身の親族や友人・知人が被災している場合もあります。 

被災地以外の会社間の取引や接客業などでは、取引先の担当者やお客様の身近な人が被災していると、色々なお話をきくこともあるでしょう。 

今回のような大きな災害では、被災地にいなくても大きなストレスを受けている人が沢山います。 

そういったストレスの影響で、人間として感情的にまいってしまう人がいても自然なことです。

こういった場合も、ストレスに押しつぶされて、二次被災に類似したダメージを受けて、日常生活に支障をきたさないように、そして人によっては心身の後遺症を残さないため、セルフケアが不可欠です。 

セルフケアの方法 

お互い話しを聞いてくれる相棒を作る

会社内では担当部署でペアを組んだり、家族内では家族どうし(小さな子供いる家庭では、大人は大人どうし、大人が一人の場合は、友人や実家の親や兄弟姉妹、信頼のおける友人など大人どうし)で、災害に関係する出来事や話しを聞いたことを分かち合い、体験したこと・感じたことを言葉にしたり、言葉にできない体験をしていることを確認する時間を意識的につくります。 

ここで大切なのは、具体的な細かい事実は話さなくて良いということです。

具体的な話を聞き出そうとすると、その体験そのものが大きなストレスになり、トラウマ体験になる可能性があるからです。

お互い具体的に尋ねる質問はせず、言葉になる範囲で話をして、話し終えたら、「自分たちの日常に戻りましょう」、といった日常に意識を戻す言葉を発して、自分たちが日常で出来ることをやっていくことを確認しましょう。 

そうすることで、災害の影響を日常に不必要に及ぼさないための予防になります。 

自分の限界を知る

目の前に助けを必要とする人がいても、自分がすべてやろうとするのは無理な状況もあります。

そのことを理解して、一人で抱え込んだり、一人でやろうとせず、周囲と出来事や情報を共有してチームで対応していきましょう。 

ペースを守る

被災地との関係は異常事態が土台となる対応になります。 

仕事では日常業務、家族などでは日常生活とは異なった対応が求められることが多いと思います。 

しかし、健全に機能している日常業務や日常生活を過度に犠牲にしないようにすることが大切です。

特別な対応が必要な業務を明確にして担当者を決めたり、対応の期間を決めて、期間の最終日が来たらその度に状況を整理して対応方法を変えていくなどして、インターバルのように区切りをつけて対応していきましょう。 

そのスケジュールを守ることで、心理的にも現実的にも災害に巻き込まれない予防になります。 

会社の場合

会社の場合は管理職やリーダーが、被災地や被災者と直接窓口になっている担当者も、災害の影響を受けて(被災者の影響ではありませんので誤解のないようにしてください)心理的に大きなストレスを受けることを理解することが重要です。それに加えて、身体的なストレスもいつも以上に感じているものです。

そこに配慮して「今日はどんな状況でしたか?どんな話しを聞いたんですか?聞かせてせてください。」といった言葉をかけるなどして、窓口の人のお話を意識的にきくだけでも、大きな心理的なサポートになります。 それは、身体的ストレスの低減のサポートにもなります。

家族の場合

家族の場合は大人が、被災地や被災者と直接窓口になっている家族(通常は女性が多いようです)も、災害の影響を受けて(被災者の影響ではありませんので誤解のないようにしてください)心理的に大きなストレスを受けることを理解することが重要です。 そして、身体的なストレスもいつも以上に感じているものです。

そこに配慮して「今日もお疲れ様。無理のない範囲でいいから、話きかせて。」といった言葉をかけるなどして、一人だけで抱え込まないように意識的に情報と体験を共有していくことが、大きな心理的なサポートになり、身体的ストレスの低減のサポートにもなります。 

被災地や被災者の直接の窓口になっている人に対して、周囲の人が配慮してほしいこと

窓口になっている人に対してこう考えるべきだと指図したり、災害に関係する相手の感情に口出しをすることは、相手のストレスを増幅してしまうので助けになりません。自分自身に余裕がなくて、つい言ってしまったら、相手に「言い方が悪かった」といって言い方を謝って訂正するとお互いの助けになります。
窓口になっている人の意欲のなさを非難したり、それを人間性の問題にすり替えて自尊心や人間性を否定することも同じように役に立ちません。してしまったら謝って協力出来ることを協力していくことでお互い助けになります。
窓口になっている人の話しを聞かず、会社側や家族側の要件だけを優先することも助けになりません。してしまったら謝って協力出来ることを協力していくことでお互い助けになります。
窓口になっている人が判断に困っている時に、無責任な後押しや判断をすること。してしまったら、「さっきの件、ごめんなさい。もっとちゃんと一緒に考えてみましょう。」など、仕切りなおして、協力することがお互いの助けになります。

子どもへの対応

大人の目線と子供の目線は違います。

大人の目にはそれほど大きくないものも、子供視点からは巨大に見えます。 

大人にとってショックなものは、子供にとってはもっとショックです。

また、災害の正体がわからないことも恐怖を強めます。

さらに、子供は自分で行動できる範囲が限られているので、自力で対処できない分、不安感は強くなります。

同じことは、高齢者や心身の障害をもった人にも言えます。 

被災地にいる子供への対応は、家族や大人がなるべくそばについていてあげることです。

家族から離れた子供がいる場合は「一緒にいるから大丈夫だよと」と声をかけて安心させてあげましょう。

信頼できる避難所のスタッフなどに「一緒にいてくれる人がいるから大丈夫だよ」と声をかけて保護をバトンタッチすることで少しでも不安を和らげる助けになります。 

被災していない被災地以外にいる子供への対応は、子供が映像を伴う報道をみて、不安がったり怖がったりしていたら、被災地と同様、家族や大人がなるべくそばについて「一緒にいるから大丈夫だよと」と声をかけて安心させてあげてください。 特に身体の緊張が緩むまで一緒に居てあげることが大切です。

そして、災害のことを神様や閻魔様からの罰が当たったなどといった神話的な説明をするのではなく、地震と津波という人が予想できない自然災害で起ったという事実を教えてあげてください。 

特に幼い子供は、自分中心の世界観をもっているので、何か悪いことが起ると「自分がいけない子だったから、こんなになった」という考え方をしてしまいがちです。 

そこに神話的な話をすると、吸収力の良いスポンジが水を吸収するように、子供の世界観に事実と異なる害になる影響を与えてしまうことがあるからです。 

災害の影響を受けた子供は赤ちゃんがえりしたような反応を示します。

夜泣きや、おねしょ、甘える、だだをこねるなど、親や大人にとっては大変な反応が出てきます。

しかし、これも一時的な「異常な事態に対する正常な反応」です。 

親や大人は、進んで自分自身が大人や援助者にサポートを求め、出来る限り、子供の行動を叱ったり責めたりすことを回避していくセルフケアが必要です。 

また、子供の年齢に応じて、被災地では生活立て直しのための役割を分担させることも大切です。 

被災地以外では、救援物資の準備など子供にも何らかのお手伝いをさせてあげることも大切です。

いずれの場合も、子供が責任ある行動をとったら、心からその行動そのものを認めてあげてください。

褒めるのではなく、出来ていることを出来ていることとして認めてあげることが、子供の自主性と自尊心を育みます。

こうした大人の関わりの積み重ねが、被災した子供の心の傷からの回復を早め、被災地以外の子供にとっては、得体のしれない恐怖や不安への健全な対処方法を学ぶ機会になります。

心理的回復のプロセス

最後に、災害時の心理的回復のプロセスのモデルの一つを紹介します(『災害と心のケア』ハンドブック(デビット・ロモ(著))から引用) 

1、英雄期(災害直後)

災害が起った当初は、なによりも命がかかっています。自分や家族・近隣の人々の命や財産を守るために、誰もが必死になり、勇気ある行動をとります。

2、ハネムーン期(1週間~6ケ月間)

次に問題になるのが衣食住です。衣食住が確保されていないなか、劇的な災害の体験をくぐり抜けて生きのびた人達が不自由に耐えながら生活のために助け合い、外部からの援助も始まり、衣食住が確保されていくなか、被災地は連帯のムードにつつまれていきます。

3、幻滅期(2ケ月~1、2年間)

人は衣食住が満たされていないときは、心の問題に目を向けるゆとりがありません。

行政による組織的な支援や対策がはじまり、衣食住が満たされはじめてくると、これからどうする?という課題が目の前に押し寄せる時期になって、自分が受けたダメージに気づけるようになります。

この時期に、これまでのサバイバル状態の中で耐えてきた忍耐が限界に達して、人々はやり場のない不安と怒りにかれられたり、親しい人をなくした悲しみもあふれてきます。

避難生活の疲れも出てきます。

住民同士の被害の程度の違いも目について、感情的な反目が生じ、喧嘩がおこったり、ハネムーン期の連帯や共感が失われます。

そして、個人的な問題の解決にも追われるようになり、個人の心理的な問題も出てきます。 

この時期は、地域の力だけでやっていくのは困難です。個人の心の問題や現実的な問題に対応するためにも、行政も含めて、外部からの大きな支援を必要とします。 

4、再建期(数年間)

幻滅期を越えると、再建期がやってきます。

被災地にようやく日常が戻り始め、住民は生活の立て直しへの自信を取り戻します。 

最後に

被災地や被災者を援助するために、直接の災害当事者ではなく被災地以外にいる人達にとって大切なことは、不必要な災害の影響を受けないように状況の違いを意識的に区別して、自分たちの機能している日常をしっかり維持することです。

そうすることに負い目や罪悪感を感じる必要は全くありません。 

なぜなら、健全に機能している日常を維持し、それを被災地に援助に入っている人のみならず、被災者の人達に分かち合うことが、災害によって喪失した物理的安全と心理的安全を提供することになり、エンパワーメントすることになるからです。 

健全に機能している場と、被災地を区別することで、その温度差が明確になればなるほど、提供できるものがより明確になっていきます。 

そして、健全に機能しているからこそ、被災地に必要な物資や人材、エネルギー、経済活動など、全てのものを継続的に供給することが出来るからです。 

一時的な緊急支援も大切です。 

同じように復興に向けて行われる継続的な支援も同じように大切です。 

健全に機能している場が、災害の影響を不必要に受けてエネルギーを奪われ、その機能が損なわれてしまえば、継続的な支援が難しくなります。 

前記の心理的な回復のプロセスを参考に、大きな視点と継続的な視点も含めて、それぞれが出来ることを考えて行動し、お互い協力できることは協力しながら被災者と被災地を直接的・間接的に支援していくことが大切です。 

読んでくださった方の参考になれば幸いです。 

2011年03月11日作成,2020年02月25日一部改訂

(文責 プロカウンセラー池内秀行)

【参考図書・引用図書】
『災害と心のケア』ハンドブック(デビット・ロモ(著))
心に傷をうけた人の心のケア―PTSD(心的外傷後ストレス症候群)を起こさないために クラウディア ハーバート (著)
災害の襲うとき―カタストロフィの精神医学 ビヴァリー ラファエル (著)
災害とトラウマ こころのケアセンター (編集)
二次的外傷性ストレス―臨床家、研究者、教育者のためのセルフケアの問題 B.ハドノール スタム (編集)


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