「自信がなくても前に進める」|自己肯定感を育むための現実的アプローチ

「自信がなくても前に進める」|自己肯定感を育むための現実的アプローチ

こんにちは。カウンセラーの池内秀行です。

目次Outline

自己肯定感ブームのはじまり

「自己肯定感」が注目されるようになった背景には、2013年に内閣府が実施した「日本と外国の若者の意識調査」があります。この調査で、日本の若者は諸外国に比べて自分への満足度が著しく低いという結果が出ました。

その後、2016年に教育再生実行会議で文部科学省から「日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について」の報告がなされ、2017年には「我が国の子どもの意識に関するタスクフォース」による分析が行われました。同年、第十次提言で「自己肯定感を高める教育の実現」が目指され、政策提言が社会全体に広がっていきます。

こうした国の政策提言を受けて、民間でもそれに基づいた提言やサービスが生まれた結果、教育分野に限らず、ビジネス、人間関係、自己啓発など多くの領域で「自己肯定感」が重要なキーワードとして扱われるようになったと考えられます。

自己肯定感とは?

「自己肯定感」について、一般的には「自分は価値ある存在だと思えること」や「自分に自信がある状態」と説明されます。

研究分野では定義が多様で、心理学、教育学、特別支援教育などの文脈によっても異なります。

共通するのは「自己肯定感とは、自分を肯定的にとらえる感覚」であるという点です。

具体的には:

  • 自分の行動の結果が良くても悪くても、自分を受け入れられる
  • 他人の評価とは別に、自分に対して「イエス」と言える

といった内容が挙げられます。

自己肯定感と自尊心の関係について考える

自尊心とは?

自己肯定感と深く関わる概念に「自尊心」があります。

自己肯定感が注目される以前には、「自尊心の高さ」が個人の健全な心の状態を示すものとして重視されてきました。

自尊心とは、自分自身を価値ある存在として受け入れられる感覚です。

「自分はこれでいい」「自分には価値がある」と感じられる自己評価とも言えます。

しかし、この感覚は他者の評価の影響を受けて、揺らぐこともあります。

例えば、誰かから否定的な評価を受けたとき、次のような気持ちが生まれることがあります。

  • 「自分はダメだ」
  • 「自分より相手の方が優れている」
  • 「自分には価値がないのではないか」

このように、他者の否定的な評価の影響を受けて自己評価が揺れ動く度合いを見て、「自尊心が高い」「低い」と言われることがあります。

自己肯定感とは?

一方、自己肯定感とは、他者の評価に過度に左右されることなく、『自分はこれでよい』と自分を受け入れ、前向きに捉えられる感覚です。

ここで重要なのは、他者の意見や評価を全く無視するのではなく、それらを一度受け止めたうえで、自分の中で意味づけや整理を行い、自分なりの理解や納得に至るという点です。

自己肯定感がある人は、たとえ否定的な評価を受けたとしても、自分自身が否定されたのではなく、自分の言動や考え方が否定されたのだと区別して受け止め、反省することができます。そして、次のように前向きに考える傾向があるとされています。

  • 「自分の言動が迷惑をかけたのは事実なので謝罪し、今後このようなことがないように改善して頑張っていこう」
  • 「今回はうまくいかなかったけれど、次に活かせばいい」

つまり、他者の評価を鵜呑みにして、自分の存在そのものを否定するような自己否定に陥るのではなく、自分の言動や考え方について反省や振り返りを通じて、前向きに自分を再構築する力こそが、自己肯定感と呼ばれるものです。

一時的に「自分はダメかもしれない」と感じたとしても、そこから立ち直ることができる。

このプロセスがあるかどうかによって、「自己肯定感が高い」「低い」と言われることがあります。

自尊心と自己肯定感の違い

まとめると、自尊心とは、「自分自身をどのような人間だと認識しているか」という、現在の自己認識に焦点を当てた概念です。

一方で自己肯定感は、その自己認識が揺らいだときに、自分自身と向き合いながら、どのように心を立て直していくかという内面的な調整力に焦点を当てた概念です。

自尊心が「現在の自分をどう捉えているか」だとすれば、

自己肯定感は「他者の声や状況によって揺れたときに、自分をどのように取り戻すか」と表現することができます。

自尊心・自己肯定感は「高い」「低い」という表現でいいの?

一般的に、自尊心や自己肯定感については「高い・低い」という言葉で表現されます。

心理学の研究や調査では、数値や尺度を用いて比較する必要があるため、それにならって、こうした表現が用いられるのも自然なことかもしれません。

しかし、私たちの日常生活において、自尊心や自己肯定感は「生まれつき備わっているもの」ではなく、周囲との人間関係やさまざまな体験を通じて、少しずつ育まれていくものです。

そのため私は、「高い」「低い」といった固定的な言い方ではなく、「どれくらい育まれてきたか」や「今どんな状態にあるか」といったプロセスに注目する表現のほうが、より本質的で、私たち一人ひとりの経験に寄り添った見方になるのではないかと考えています。

自尊心は心身の健康にも関わる

自尊心は、私たちの心と体の健康にとって重要な役割を果たしています。

心理学や医療の分野では、健全な自尊心がストレスの軽減や病気の症状緩和に寄与することがあるとする研究もあります。

一方で、「自分が嫌い」「自分には価値がない」と感じる状態は、心身の健康に影響を及ぼす可能性があり、本来持っている力を十分に発揮しにくくなると指摘する研究も存在します。

自尊心はどのように育まれるのか

それでは、自尊心はどのように育まれていくのでしょうか。

多くの研究では、幼少期に親や養育者とのあいだで築かれる「アタッチメント(愛着関係)」が、その土台として重要であるとされています。

とはいえ、子ども時代の家庭環境や人間関係は人それぞれ異なります。

かつてはアタッチメントがすべてであると考えられていた時期もありましたが、現在では、親や養育者に限らず、成長の過程で出会うさまざまな人との関係や体験を通じて、自尊心は育まれていくと理解されています。

家庭以外にも、学校や地域、職場などで信頼できる大人や仲間と出会い、肯定的な関わりを得ることができれば、自尊心は育まれていくのです。

「基本的自尊心」と「社会的自尊心」

自尊心は、大きく2つのタイプに分けて考えることができます。

基本的自尊心

基本的自尊心とは、「どんな自分でも大切な存在だ」と感じられる感覚のことです。

この感覚は、生まれた後、周囲との関わりの中で、喜びや悲しみといったさまざまな感情体験を受け止めてもらう経験を通して、少しずつ育まれていきます。

たとえば、つらいときに寄り添ってくれる人がいた、自分の話を真剣に聞いてもらえた、一緒に喜びを分かち合った、楽しい時間を共有した、大変なときでも優しく世話をしてくれた──そうした経験が、「このままの自分で大丈夫だ」と思える心の土台を築いていくのです。

社会的自尊心

社会的自尊心は、社会の中で定められた「価値基準」(例:成績が良い、成果を出す、人の役に立つ)を満たすことで、他者から評価されることで、「自分は認められている、自分は能力があるんだ」など自己評価によって感じられる感覚のことです。

そして、ある程度、他者から承認されると、自分だけで人と自分を比較し、「自分の方が優れている」と感じることで、社会的自尊心が高まることがあります。

高すぎる自尊心は自覚なく問題を生み出している?

社会的自尊心だけが過度に高い場合は注意が必要

自尊心が高いことは一般に良いこととされがちですが、社会的自尊心だけが過度に高い場合には注意が必要です。

社会的な評価や他者との比較だけで自分の価値を決めてしまうことが習慣になってしまうと、以下のような行動につながることがあります:

  • 自己中心的になる
  • 常に自分の優位性を示そうとする(マウンティング)
  • 批判に過剰に反応して攻撃的になる
  • 自覚できない特権意識で他者をしいたげる

このような傾向は、人間関係のトラブルにつながる可能性もあり、トラブルそのものを相手の全責任にしてしまい自分の責任を自覚できないこともあります。

バランスが大切

とはいえ、社会的自尊心が高くても、基本的自尊心がしっかり育っている人は、人間関係のトラブルに陥るリスクを抑えられる可能性があります。

なぜなら、基本的自尊心と社会的自尊心の違いが理解できるので、自分をディスカウントしたり否定することなく、他者を尊重することもできるからです。

そして、自分に非があった場合は、優劣や力関係で解決しようとするのではなく、人として素直に謝り、関係を修復したり改善する努力もできるからです。

ここで大切なのは、どちらの自尊心も健全な人間関係の中で、様々な経験を通して、時間をかけて育まれていくものであり、決して自分一人の努力だけで育てられるものではないという点です。

「見た目の自信」と「本当の自尊心」の違いとは?

人によっては、外から見ると自信に満ちているようでも、内面では不安を抱えていたり、自信が揺らぎやすかったりすることがあります。

自尊心という視点から見ると、仮説として次のような影響を考えることができます。:

周囲からは優秀に見えるのに、自信が持てない人

 →基本的自尊心・社会的自尊心の両方が十分に育っていない可能性があります。

常に自信に満ちて見えるが、失敗を過度に恐れたり、批判に弱かったりする人

 →社会的自尊心は高くても、基本的自尊心が十分に育っていない可能性があります。

他者との比較やアピールが過剰な人、威圧的な態度をとる人

 →社会的自尊心は高いが、基本的自尊心が十分育っていないだけでなく、自己愛や承認欲求が強くなっている可能性があります。

他人に安心感を与える人でも、自信を持てず行動に踏み出せない人

 →基本的自尊心は十分に育っていますが、社会的自尊心が育ちきっていない場合があります。

自尊心は変化しうるもの

自尊心は、一度育まれたからといって、常に安定しているわけではありません。

強いストレスやトラウマ的な体験によって、自信を失い、自尊心が一時的に低下することもあります。

しかし近年の研究では、そうしたつらい経験を乗り越える中で、再び自尊心が育まれ、より強く柔軟な自己肯定感が形成される可能性があることも示されています。

自尊心は、他者との関係や日々の体験を通して、変化していくものなのです。

「高い・低い」といった固定的な見方ではなく、「今の自分はどのような状態にあるのか」「どこを整え直すともっと心が楽になるか」と優しく振り返ってみること。

それが、健やかに自分と向き合うための第一歩になります。

自己肯定感を「高める」ことに違和感があるのはなぜ?

「自己肯定感を高めましょう」と聞いたときに、少し違和感を覚えることがあります。

私自身もそう感じることがあり、その理由について考えてみました。

たとえば、「何かを成し遂げたいなら、自己肯定感を高める必要がある」といった文脈で語られるときに、違和感を抱く人は少なくないのではないでしょうか。

というのも、実際には自信がないままでも、何かを成し遂げる人はたくさんいるからです。

自己肯定感と意欲の関係にも違和感

自己肯定感が高い人の特徴として「物事に積極的に取り組む」と言われることがあります。

しかし、意欲はその人の「興味」や「好奇心」による部分も大きく、それをすべて自己肯定感と結びつけるのはやや乱暴に感じられます。

実際、自己肯定感が低いとされる人でも、興味のあることには、不安や恐れを抱えながらも行動する姿を、私はこれまでに何度も見てきました。

自信よりも、「前に進みたい」「変えたい」「変わりたい」という気持ちに注目したい

私がカウンセリングの現場で出会う多くの方々は、自己肯定感が高いとは言えない状態であっても、不安や葛藤を抱えながら、それぞれのペースで「前に進みたい」「何かを変えたい」といった思いをきっかけに、少しずつ出来ることを行動にうつしていきます。

何事も行動にうつした時からものごとが動きはじめます。

カウンセリングを受ける人は、カウンセリングを受けることそのものが行動です。

そういう理解のもと、私は、「自己肯定感を高めること」そのものよりも、「変わりたい」「一歩踏み出したい」という内なる気持ちにこそ注目し、それを尊重しながら行動にうつしていくこともエンパワーメントしていく関わりを大切にしています。

「根拠のない自信を持ちましょう」に対する違和感

「自己肯定感を高めるために、根拠のない自信を持ちましょう」というメッセージに、時に違和感を覚えることがあります、という声もよく聞きます。

たしかに、この言葉には「自信がない」「失敗が怖い」「すぐに落ち込む」といった人たちを励まそうとする意図が込められているのでしょう。

しかし、多くの人にとって、未経験のことに不安を感じるのはごく自然な反応です。

それより、「自信がない」「怖い」といった気持ちを正直に言葉にできること自体が、自己肯定感や基本的自尊心が備わっている証なのではないかと私は思うことがよくあります。

キャッチコピーに惑わされないために

「根拠のない自信を持とう」という言葉は、マーケティングにおいてはキャッチーで人目を引くフレーズとして効果的かもしれません。

しかし、それをそのまま真に受けてしまうと、自己肯定感の本質を誤解するおそれがあります。

さらに、自分を無理に大きく見せようとしたり、「自分はすごい」と思い込もうとする態度が強くなりすぎると、過剰な自己愛や自我の肥大につながる可能性があります。これは、自己肯定感とは異なる別のテーマをつくりだします。

自己肯定感と自己効力感:自分を支える内なる力

自己肯定感は「高める目標」ではなく、育てていくプロセス

これまでのカウンセラーとしての実感として、自己肯定感は、「高めなければならない目標」ではなく、自分の中にすでにある感情や「変わりたい」という思いを丁寧に見つめ、育てていくプロセスだと私は思っています。

「自信がなくても行動できた」「怖いけどやってみた」——

そうした日常の中の小さな実践の積み重ねによって、自己肯定感は育まれていきます。

さらに、このような経験を積み重ねることで、「自分は行動できる」「怖くてもやればできる」という感覚も育っていきます。

この「自分にはできる」と思える感覚を説明する概念があります。

それは、自己効力感(self-efficacy)です。

自己効力感は、自信の有無にかかわらず「行動した経験」によって高まっていくものであり、自尊心や自己肯定感を支える力にもなります。

自己効力感とは何か

「自己効力感(じここうりょくかん)」とは、自分の行動が結果につながると信じられる感覚のことです。

英語では「self-efficacy(セルフ・エフィカシー)」と呼ばれ、心理学者アルバート・バンデューラによって提唱されました。

簡単に言えば、「自分ならうまくやれる」「この状況を乗り越えられる」と思える力です。

ここでいう「うまくやれる」というのは、結果が確実に出ることを保証するものではありません。

そうではなく、「必要な行動を自分はとれる」「挑戦する力がある」と信じる気持ちを指します。

よく似た言葉に「自信」がありますが、自己効力感と自信は少し異なります。

自信は「これまでの実績や評価」に裏打ちされた気持ちであることが多く、自己肯定感や自尊心と深く結びついています。

一方で、自己効力感は、まだ結果が出ていない未来に向けて、「自分は行動できる」という感覚です。

心理学辞典では、自己効力感を次のように説明しています:

「自分が行為の主体であり、自分の行動を自ら統制し、外部からの要請にも適切に対応できていると確信している状態」

つまり、自己効力感とは、「自分の行動には意味があり、必要な時に必要なことができる」と信じられること。

この感覚があると、新しいことに挑戦したり、困難な状況でも踏みとどまったりする力になります。

自己効力感を感じられているときの認識の例

自己効力感が高まっているとき、人は次のような感覚や考え方を持っています。

  • 「自分は、やろうとしていることに必要な行動をとることができる(あるいは、できるようになれる)」と信じている。
  • 「過去の経験から、自分には困難を乗り越える力がある」と感じられる。
  • 「たとえ問題や障害があっても、自分ならなんとか対処できる」と思える。
  • 「自分の行動や選択が、まわりの人や将来に良い影響を与える」と信じている。

こうした認識があることで、不安や迷いがあったとしても、自分で自分を勇気づけながら、一歩一歩前に進んでいくことができます。

また、自己効力感も、生まれつき備わっているものではありません。

日々の経験や人との関わりの中で、少しずつ育まれて胃いくものです。

自己効力感を育てる4つの要素(バンデューラ)

バンデューラによれば、自己効力感は次の4つの要因によって高まるとされています。

1. 制御体験(Mastery Experience)

目標に向かって努力し、自らの力で達成する体験。

トライ&エラーを繰り返しながら成功を収めたプロセスが、自分はできるという信念を育ててくれる。

2. 代理体験(Vicarious Experience)

他者の成功を観察する体験。

自分と似た他者が頑張って成功する姿を見て、「自分にもできるかもしれない」と感じられるようになります。

3. 社会的説得(Social Persuasion)

他者からの励ましや言葉によって「やってみよう」と思える体験。

ポジティブなフィードバックは行動への後押しとなり、信念につながります。

4. 生理的・感情的状態(Physiological & Affective States)

落ち着いた身体状態や前向きな気分も、自己効力感を支える重要な要素です。

ストレスや疲労、ネガティブな気分は「自分には無理かも」と思わせてしまうため、身体と心のコンディションを整えてエネルギーを感じられることも自己効力感を高めてくれます。

自己肯定感と自己効力感の異同

自己肯定感とは、「自分はこのままで価値のある存在だ」と感じられる感覚です。

他人からの評価や成果に大きく揺さぶられることがあっても、「今の自分をそのまま受け入れられる」という、自分の存在そのものを肯定できる心の力です。

この感覚があることで、自分の存在価値を守り、自分らしくいられる状態が保たれます。

一方、自己効力感とは、「自分にはできる」と信じて行動に踏み出す力、行動を継続していく力のことです。

「やってみよう」「きっとできる」「なんとかなる」といった前向きな気持ちが、行動の原動力になります。

たとえるなら、自己肯定感は「自分という存在を支える心の力」であり、自己効力感は「未来に向かって一歩を踏み出すためのエネルギー」と言えると思います。

なお、自己効力感の説明の中には、自己肯定感を高める方法と重なる部分が含まれていることもあります。

実際のところ、この2つの感覚は明確に分けられるものではなく、相互に影響し合い、補い合うかたちで育っていくことが多いからだと思います。

身体と心のつながり:見落とされがちな要素

自己効力感、自己肯定感、自尊心といった心理的な感覚は、一般的には「心の在り方」として語られることが多いものです。

けれども実際には、こうした感覚には身体のコンディションが大きく関係していることが少なくありません。

睡眠、休息、栄養、運動などの基本的な身体のケアは、心の働きや情緒の安定に直接影響を与えます。

身体が過度に緊張していたり、慢性的に疲労していたりすると、物事を前向きに捉える力や、「自分はできる」「自分には価値がある」と感じる感覚にも影響が及びます。

自己理解や成長を支えるためには、「心」だけでなく「身体」との健やかな関係を築くことも重要です。

また、自己効力感・自己肯定感・自尊心はそれぞれ異なる概念でありながら、日々の暮らしや人との関係の中では、互いに重なり合い、影響し合いながら育まれていくものです。

そしてその根底には、身体の声に耳を傾け、自分をまるごと大切にするというホリスティックな姿勢が大切になります。

自尊心・自己肯定感・自己効力感の関係

自尊心は、他者との関係性の中で、「自分には価値がある」と感じられる感覚です。他者からの承認や関係性を通じて、自分という存在を信頼できるようになる感覚とも言えます。

自己肯定感は、他者の評価とは関係なく、「自分をそのまま受け入れられる」という、より内面的で安定的な自己への感覚です。良いときも悪いときも、「今の自分でも大丈夫」と思える力です。

自己効力感は、「自分にはできる」「自分の行動は結果に影響を与えられる」と信じて行動に移す力です。これは行動を起こす際の原動力になり、特定の状況や能力領域において強く発揮されることがあります。

重要なのは、これら3つの感覚が段階的な土台構造になっているわけではないということです。

たとえば、自己肯定感が低く「自分には価値がない」と感じていたとしても、「この仕事だけはできる」「人前で話すのは得意」といったように、特定の文脈では高い自己効力感があることもあります。

逆に、自己肯定感がある程度育っていても、未知の分野や大きな挑戦の前では「自分にはできると思えない」と感じ、自己効力感が低下することもあります。

このように、自尊心・自己肯定感・自己効力感はそれぞれ異なる性質を持ちつつ、重なり合い、文脈によって強くなったり弱くなったりする可変的な感覚です。

それぞれの違いや重なりを理解することで、自分の心の状態をより丁寧に見つめることができるようになります。

カウンセリングで大切にしていること

私のカウンセリングでは、「自己肯定感を高めること」そのものを目指すのではなく、「自己効力感を育むプロセス」を大切にしています。

なぜなら、自己効力感が育まれていく過程の中で、それと共に、自己肯定感や自尊心も育まれていくからです。

このアプローチの良さは、クライエントが「自己肯定感が高いか低いか」という評価にとらわれすぎず、今ここでできることに目を向けて主体的に関わり、自分自身の変化や成長を実感しやすくなる点にあります。

実際、カウンセリングの中で、クライエントが日々の小さな挑戦や前進を振り返って語ってくださる場面には、その一つひとつの言葉のなかに、自己効力感・自己肯定感・自尊心が、それぞれのかたちで着実に育まれている様子があらわれてきます。

そのお話は、その場全体を温かく包み込み、クライエントのこれまでの努力が確かに実を結んでいることをともに感じ、自然とその歩みを労う時間にもなります。

まとめ

この記事を通して、自己肯定感について以下のようなポイントをお伝えしてきました。

自己肯定感の捉え方

  • 自己肯定感は「高める」ものというより、「育まれていく」もの
  • 人間関係や日々の体験の積み重ねによって形成されるという視点
  • 安易な「自己肯定感向上論」や、「根拠のない自信=自己肯定感」とする考えへの注意

視点の転換

  • 「自己肯定感があるかないか」ではなく、どのように育まれていくかに目を向ける
  • 個人の気持ちや主体性に焦点を当てる重要性

関連概念の理解

  • 自尊心(基本的自尊心・社会的自尊心)の違いと意義
  • 自己効力感との違いと、相互に影響し合う関係性

実践的なアプローチ

  • 自分で選び、行動できる感覚を得る体験の大切さ
  • 身体の健康やコンディションを整えることが、心の状態にも影響を与えるという視点
  • 「変わろうとすること」以上に、「変化のプロセスを丁寧にたどること」を大切にする姿勢

最後に

自己肯定感を「高めなければならない」と焦るのではなく、日々の生活の中で自分なりに物事に取り組み、自分自身と丁寧に向き合いながら、健全な人間関係を築いていくこと。

そのような日々の積み重ねが、結果として自己肯定感を確かに育てていくことにつながるのではないでしょうか。

身体と自尊心、自己肯定感、自己効力感の関係については、また別の機会に詳しくお伝えしたいと思います。

文責 池内秀行
2025,05,30バージョンアップ改訂

参考文献

参考文献

  • 内閣府政策統括官(共生社会政策担当) 調査実施機関:株式会社インテージリサーチ(平成26年6月)「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成25年度)」URL:https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html(参照日:2020年10月20日)
  • 日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について 資料4 (文部科学省提出資料) ※第38回教育再生実行会議(平成28年10月28日)の参考資料2
    URL:https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12251721/www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/chousakai/dai1/siryou4.pdf(参照日:2020年10月20日)
  • 教育再生実行会議(平成29年6月1日)「自己肯定感を高め、自らの手で未来をひら 切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、 学校、家庭、地域の教育力の向上 (第十次提言)
    URL:https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12251721/www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai10_1.pdf(参照日:2020年10月20日)
  • 田島賢侍, 奥住秀之「子どもの自尊感情・自己肯定感等についての定義及び尺度に関する文献検討」東京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅱ 64:19-30,2013
  • 無藤隆 他(2018).『心理学(新版)』.有斐閣
  • 中島義明 他(2006).『心理学辞典』.有斐閣
  • アルバート・バンデューラ/本明寛他訳(2020).『激動社会の中の自己効力』.金子書房 

身体と自尊心、自己肯定感、自己効力感の関係については、下記記事でお伝えしています。

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プロカウンセラー池内秀行

個人・カップル・夫婦・家族・友人同士など、幅広い人間関係やライフステージの悩みに対応する心理カウンセリング・セラピーを提供しています。人間関係の悩み、家庭内の問題、恋愛や夫婦関係に関する悩み、職場でのストレス、自己理解や自己肯定感の向上、不安・抑うつ・トラウマの癒し、生きづらさの解消など、多様なテーマに丁寧に対応いたします。クライアント一人ひとりの背景や課題に応じたオーダーメイドのカウンセリングを大切にし、初めての方でも安心してお話しいただける環境を整えています。海外在住の方や法人のご相談にも対応しています。Zoomなどを用いたオンラインカウンセリングにも対応しており、海外在住の方で日本語によるカウンセリングを必要としている方にも多くご利用いただいています。時差や言語の壁に悩むことなく、安心してご相談いただけます。東京を拠点に、全国および海外からのご相談にも対応しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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