善意が通じない心理|心の境界線を尊重する人付き合いのすすめ

善意が通じない心理|心の境界線を尊重する人付き合いのすすめ

思いやり

相手のことを大切に思って、気をつかったり、配慮した時に、相手がそれに対して「ありがとう」と言ってくれたり、嬉しそうな態度が伝わってくると、お互い気持ちがいいし、嬉しいものです。

お互いを思いやる言葉や、気持ちのこもった行動が自然に行き交う人間関係は、親しみを感じられ、心地よいものです。

日常にこうした人間関係があると、それが生きていくリソース(資源)となって、少々嫌なことがあっても、それに囚われることなく、気分よく過ごすことができるものです。

善意なのに受け取ってもらえない

しかし、善意からの言葉や行動なのに、相手が思わぬ反応を示し、不機嫌そうに見えたり、否定的な言葉を返されたりした経験はないでしょうか?

あきらかに不機嫌な反応だとすぐに何か失礼なことを言ったりしてしまったと分かりますが、相手によっては、「ありがとう」と言ってくれたにもかかわらず、その後、態度が冷たく感じられる相手もいます。

後日、第三者から「あなたの行動について不満を言っていたよ」と聞かされると、直接本人から伝えられるよりも、心に深く残り、戸惑いやショックを感じることもあります。

こういった場合、不満を持っている相手が出会って間もない人や、それほど親しくない人であれば、実際に会ったとき、その様子にどこか違和感を覚えることがあります。

そのようなときには、

「すみません、ちょっと気になっていたんですけど、先日、私、何か変なことを言ってしまいましたか?」や、

「気のせいかもしれませんが、何かありましたか?」など、

相手が返答しやすいような言い回しで、確認することができます。

また、仕事上の関係であれば、

「先日の件、気になっていまして、もし何か至らぬ点がございましたら、どうぞご遠慮なくお知らせください。」

「先日の件でご不快な思いをおかけしていないかと気になっております。何かございましたら、率直にお聞かせいただけますと幸いです。」といった、

ビジネスライクな表現で確認することもできます。

緊張はするかもしれませんが、相手との関係を大切にしたいと考えているのであれば、こうした確認は、誤解を解消したり、関係を見直すきっかけ、さらには関係を深める機会にもなり得ます。

身近な関係ほど難しい

親しい人や、付き合いの長い友人など、関係が近ければ近いほど、相手の気持ちや状況よりも、自分の「よかれと思って」の気持ちを優先してしまうことがあります。

それはもちろん、悪気があるわけではなく、大切に思っているからこそ生まれる善意なのですが、その思いがうまく伝わらなかったときには、思わず残念な気持ちになったり、「どうして分かってくれないの?」と、相手に対して否定的な感情を抱いてしまうこともあるかもしれません。

善意はこちらの思いで、相手の思いではない

日常の中で、悪意のない言動や、善意からの行動が、意図せず相手を傷つけたり、不快な思いをさせてしまうことがあります。

そうなってしまう理由は、一つではありません。

一人ひとりの感じ方や背景に目を向けてみると、たとえば価値観の違いや思い込み、視点のズレ、相手に対する期待など、さまざまな要因が考えられます。

バウンダリー(心の境界線)の問題

一方で、人間関係の心理からは、こうしたすれ違いを「バウンダリー(心の境界線)」の問題として理解することもできます。

「心の境界線」とは、「どこまでが自分で、どこからが相手なのか」という、自他の区別をはっきりさせるための心理的なラインのことです。

この境界線をどう認識し、尊重するかによって、人間関係の心地よさやトラブルの起こり方が変わってきます。

心の境界線にはさまざまな種類がありますが、代表的なものとして、次のようなものが挙げられます:

  • 感情の境界線:相手の気持ちを勝手に決めつけない、感情の責任を全部相手に押し付けないなど
  • 身体の境界線:相手の許可なく触れない、身体的なスペース(距離感)を尊重するなど
  • 責任の境界線:相手の問題を無理に解決しようとしない、行きすぎた一方的な世話を焼かないなど
  • 時間の境界線:相手の都合を考えない一方的なタイミングの連絡をしない、予定を一方的に決めないなど
  • 所有物の境界線:相手の持ち物を勝手に自分の物のように使わない、整理整頓を一方的な価値観や理由で強要しないなど
  • お金の境界線:金銭的な援助を一方的に行わない、一方的に相手の経済状況に踏み込まない、共有の金銭情報を与えない
  • 性的な境界線:相手の同意のない不適切な接触をしない、性的な話題を一方的に持ち出さないなど
  • 思考・価値観の境界線:考え方を一方的に押し付けない、価値観の違いを一方的に否定しない

たとえ善意からの言動であっても、上記のように、自分の境界線や相手の境界線を意識せずに一方的に接してしまえば、思わぬすれ違いや心の摩擦が生じることがあります。

それが、たとえ「よかれと思って」の言葉や行動であったとしても、です。

また、心の境界線は、相手との関係性やそのときの心身の状態、さらには自分自身の気持ちや認識によって、自らの判断で調整していくものです。

心の境界線は固定されたものではなく、「どこまでが自分の領域で、どこからが相手の領域か」を踏まえたうえで、「どこまでがOKか」「どこまで関わるか」「どこから先は踏み込まないか」といった線引きの位置を、自分の意思でその都度、相手との関係性や状況を踏まえて調整していくものです。

このように、お互いを尊重する意思に基づいて、どちらかを犠牲にすることなく、境界や領域を状況に応じて柔軟に調整できることを「心の境界線」と呼びます。したがって、心の境界線には自分も他者も尊重する柔軟性があります。

一方で、境界が固定され、他者との調整が難しい、あるいはまったくできない状態になると、それは「心の境界線」とは言えず、自分の内側を強固に守る壁のようなものになります。そのため、「心の境界線」というより、「心の壁」や「心のダム」、「鋼鉄の扉」などと表現されることもあり、意味合いが異なってきます。

相手が頑なで強固な場合、それを突破しようとせす、強固な状態を尊重して関わっていくことで、相対的にあなたとの関係では柔軟になっていくこともよくあります。

バウンダリー(心の境界線)と社会規範

心の境界線を大切にしながら生きることは重要ですが、一方で、法律や倫理といった社会的な規範に基づく「権利」や「義務」が関わる場面では、自分の心の境界線に従って望みを実現しようとしても、相手との関係において調整が必要となることがあります。

そのようなときには、法的あるいは倫理的な枠組みに沿って対応することが求められ、場合によっては、それが優先されることも少なくありません。

こうした状況では、「心の境界線が意味すること」と、「社会的な規範に基づく判断」との違いがうまく整理できず、戸惑いや混乱してしまうことがあります。

頭では理解できていても、心の中では割り切れず、苦しさや葛藤を抱えてしまうこともあるでしょう。

特に、友人や夫婦、親子、親族などの親しい関係では、私的な場面において文化的な背景や関係性に基づく心情が優先されることが多く、心の境界線が曖昧になったり、そもそも意識がない場合もあります。関係性の中で一方の思いや価値観が強く反映されやすい状況では、個々の心の境界が意識されていたとしても、尊重されないことが多くなりがちです。

また、そのような関係では、社会的な規範に基づいた判断も日常的に曖昧になりやすく、個人の権利が軽視されたり、自己犠牲が当然とされるような状態に陥っていることもあります。

そのような背景があると、経済的あるいは社会的な事柄や問題について、社会規範に基づいた判断や対応が求められた際に、心情的に受け入れがたく、納得もできず、強い葛藤を感じることがあります。

そんなときは、無理に一人で抱え込まず、信頼できる第三者や専門家のサポートを得ながら、気持ちや状況を整理していくことが大切です。

心の境界や人間関係にまつわる現実的な事柄や悩みは、決して「自分だけの問題」ではありません。

多くの人が混乱し、行き詰まりを感じるテーマだからこそ、客観的な視点をもたらしてくれる誰かと共に考えることが、前に進むための大きな助けになるからです。

知らずに心の境界線を越えてしまうことも

心の境界線を理解することは、人間関係を築くうえでとても大切です。

しかし実際には、相手の心の境界がどこにあるのかを最初から正確に把握するのは、誰にとっても簡単なことではありません。

心の境界線とは、お互いを尊重しながら関わるなかで、相手が何を大切にしているのかを経験を通して“わかっていき”、そして理解していくものだからです。

そして、関係のなかでその境界線を尊重する関わりを重ねていくことで、安心できる、信頼のある関係性が育まれていきます。

そのため、ときには「相手のためを思ってしたこと」が、意図せずその人の大切な領域に踏み込んでしまうこともあります。

踏み込むつもりなどなかったのに、知らず知らずのうちに心の境界線を越えてしまう──それは、誰にでも起こりうることです。

そうしたとき、多くの場合、相手は自分の心や立場、大切にしている事柄や価値を守ろうとして、防衛的な反応を示します。

そして今度は、こちらも「どうしてそんな反応をされるのだろう」と戸惑い、自分を守るような反応を返してしまうことがあります。

こうしたお互いの“防衛反応の連鎖”は、気づかないうちに関係に緊張をもたらし、やがて距離感や不信感を生むきっかけになってしまうのです。

すれ違いや誤解を解いていくヒント

もし、あなたの善意が相手にうまく受け取ってもらえなかったと感じたとき――

まず大切なのは、相手の反応に対して、「もしかすると、自分が一線を越えるようなことを言ったり、してしまったのかもしれない」と一度立ち止まり、そのうえで実際に相手に確かめてみることです。

なぜなら、相手の心の境界線や何を大切にしているかは、本人に教えてもらわなければわからないことだからです。

そのためにはまず、自分が自覚のないまま不快な思いをさせてしまっていた可能性を前提に、謝罪の言葉を伝えることが大切です。

たとえば、次のように声をかけることができます:

「知らないうちに、不快な思いをさせてしまっていたらごめんなさい」

「そんなつもりはまったくなかったのですが、一方的だったかもしれません。ごめんなさい」

このように伝えることで、相手が話すための“間”が生まれます。

この“間”で一息つけると、相手も自分の思いや感じたことを言葉にしてくれるかもしれません。

もし相手が話してくれたなら、どう感じたのか・何を大切にしていたのかを教えてもらう姿勢で聞くことが大切です。

たとえ自分は善意のつもりであったとしても、相手が違和感を覚えたのであれば、その背景には理由があるかもしれません。

そしてそれは、やはり本人に聞いてみないとわからないのです。

ときには、相手の不機嫌な様子が続くと、「そんなに怒ることないのに」と思ってしまうこともあるかもしれません。

しかし、相手もまた、自分にとって大切な何かを守ろうとして、反応しているのかもしれません。

したがって、相手の気持ちや考えを直接たずねて教えてもらうことは、誤解を解き、関係をよりよくしていくための大切な一歩になります。

心の境界線を確認する|お互いの違いを受け入れ相互理解を深める機会

人と人には、お互い当然「違い」があります。

育った環境、過去の経験、価値観や感情の処理の仕方も、それぞれ異なります。

だからこそ、心の境界線も人によって違って当然なのです。

こうした違いによって、ときには誤解やすれ違いが生じることもありますが、お互いの価値観や心の境界について話し合い、理解を深める貴重なチャンスにもなります。

正直な気持ちを伝えるには勇気がいりますが、「あのとき、こう感じていた」と率直に話すことで、相手も本音を返してくれるかもしれません。

そのようなプロセスを通じて、「ちょうどいい距離感」や「安心・安全な関係性」が育まれていくのです。

まとめ|境界を意識することは、健康的な関係を育んでいく第一歩

善意がうまく伝わらないことは、誰にでもあります。

でも、そのすれ違いをきっかけに、相手を知り、自分のことも知ってもらい、より健康的な関係へと進むこともできます。

まずは、相手との境界を「見えないライン」として意識し、自分の言動を少し立ち止まって振り返ってみましょう。

そして、誤解が生まれたときは、対話によって確認していく――それが、境界を尊重しながらも人とつながる、健康的な関わり方です。

最後に

カウンセリングでクライエントの皆さんに教えていることの中から、日常生活でも活かせるヒントを少しご紹介したいと思います。

どなたかの役に立てば幸いです。

日常に活かせるヒント

セルフチェックリスト:知らずに境界を越えていない?

□ 相手が戸惑った表情をしたのに、ちゃんと確認せず聞かずに流したことがある

□ 「これくらい普通」「自分だったら平気」と思って行動したことがある

□ 相手が断りにくい状況で、提案や助けを押しつけていないか

□ 相手の気持ちや状況を、確認せずに想像だけで判断していないか

□ 自分の正しさや正論を、相手に理解させようと強く思っていないか

▶ 1つでも当てはまったら、心の境界線について一度立ち止まって確認してみましょう。

対話で使えるフレーズ:誤解を防ぎ、信頼を築くために

● 相手との距離感を確認したいとき

「ちょっと確認したいんだけど、今この話しても大丈夫かな?」

● 境界を尊重したいと伝えるとき

「もし嫌だったら言いにくくても言ってくれると助かります。嫌なことや無理なことは頼みたくないと思っているから」

● 境界を越えてしまったかもしれないと感じたとき

「私の言っていることが、もし言い過ぎていたら教えてほしいです」

● 境界を守りたいとき(自分側)

「ごめんね、今はちょっと余裕がなくて話を聞けそうにないんだ」

「それは私の限界を超えているのでごめんなさい」

「私にはできません」

「一度考える時間が欲しい」

「ありがとう。でも大丈夫だから」

2009年03月12日作成,2020年02月24日一部改訂,2022年11月23日一部修正,2025.06.13バージョンアップ版公開

文責 カウンセラー池内秀行

Wrote this articleこの記事を書いた人

プロカウンセラー池内秀行

個人・カップル・夫婦・家族・友人同士など、幅広い人間関係やライフステージの悩みに対応する心理カウンセリング・セラピーを提供しています。人間関係の悩み、家庭内の問題、恋愛や夫婦関係に関する悩み、職場でのストレス、自己理解や自己肯定感の向上、不安・抑うつ・トラウマの癒し、生きづらさの解消など、多様なテーマに丁寧に対応いたします。クライアント一人ひとりの背景や課題に応じたオーダーメイドのカウンセリングを大切にし、初めての方でも安心してお話しいただける環境を整えています。海外在住の方や法人のご相談にも対応しています。Zoomなどを用いたオンラインカウンセリングにも対応しており、海外在住の方で日本語によるカウンセリングを必要としている方にも多くご利用いただいています。時差や言語の壁に悩むことなく、安心してご相談いただけます。東京を拠点に、全国および海外からのご相談にも対応しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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