不安を克服する7ステップ|プロカウンセラー池内秀行が教える心の整え方

不安を克服する7ステップ|プロカウンセラー池内秀行が教える心の整え方
目次 Outline

はじめに

こんにちは。カウンセラーの池内秀行です。

私たちが日々を生きる中で、「不安」を感じることはごく自然なことです。

仕事や人間関係、将来への心配など、状況の変化や何気ない言葉、出来事といった外側からの刺激を受けて、多くの人が何らかの形で不安を感じながら生活しています。

特に、将来が見通しにくい「不確実性の時代」とも言われる今、不安は特別なことではなく、誰の心にもふとよぎる感情として身近なものになっているように感じます。

そうした不安は、自分でも気づかないうちに心や身体、そして行動にまで影響を与えることがあります。

本記事では、このような「不安」という感情の仕組みを理解し、それとどのように向き合い、どのように味方につけていくかを、一緒に考えていきたいと思います。

不安を否定するのではなく、それを人生の豊かな体験の一部として活かしていく――それが本記事の目的です。

そのために、「不安を味方にするための基本知識と7つのステップ」を、丁寧にご紹介していきます。

将来への不安を感じるのは自然なこと──心と体が伝えているサイン

最近では少なくなってきた印象もありますが、かつては不安を「弱さの象徴」や「性格の問題」として捉えるのが一般的な時代もありました。

今もそう考える人は少なくないかもしれませんが、近年では徐々に、こうした見方にも変化が見られるようになってきたと感じることが増えてきました。

不安を感じることは、人間としてごく自然な反応です。

不安は、自分の安心や安全を守るために備わった、大切な感情であり、危機を予測して対応しようとする”レーダー”のような役割を果たしており、心理的な側面と生理的側面の両方が関係しています。

心理的な側面

心理的には、私たちは過去の経験や記憶、未来を思い描く想像力を通じて、「これから起こるかもしれない危険」や「避けたい結果」を予測し、それに備えようとする気持ちが不安として現れます。

また、記憶や想像に加えて、日々接するニュースやSNS、さらには社会的影響力のある人物や、個人的に関心を寄せる有名人・キャラクター等からのメッセージなど、外部からの刺激も不安を形成する要因になります。

中でも、一方的で偏った情報や、社会的・個人的な不安や恐怖を強める内容、あるいは「こうあるべき」「これが良い生き方だ」「この容姿・ファッションが理想」といった、幸福・ライフスタイル・外見を理想化するような強い価値判断を含むメッセージについては、それがどのような価値観を前提としているのかを意識して受け取ることが大切です。

その理由としては、幸福・ライフスタイル・容姿の理想化が、共感を超えて信奉や迎合へとつながると、一時的に安心感を得ることができる一方で、そのメッセージを無自覚に受け入れすぎると、「自分はできている/できていない」といった自己評価の基準として内面化され、不安が過剰に強まり、気づかないうちに健全な認知がゆがめられてしまう可能性があるからです。

このような現象は、心理学の分野では「認知バイアス」や「情報過多」の影響として知られており、近年の実験研究や調査研究でも、私たちが自覚しないうちに思考や感情に影響を受けていることが確認されています。

生理的側面

一方で、生理的な側面から見ると、脳の扁桃体が「危険かもしれない」と判断した情報を受け取ると、自律神経系が反応し、心拍数や呼吸の増加、筋肉の緊張などの身体的変化が起こります。

これは、「闘争・逃走・迎合・凍りつき(fight, flight, fawn, freeze)」※と呼ばれる、もともと私たちの体に備わっている本能的な防御反応で、自分の意志でコントロールできるものではありません。

※注:「闘争・逃走・凍りつき」は従来から知られる基本的な生理反応で、「迎合(fawn)」は近年注目されるようになった反応パターンです。

こうした反応は、命の危険に直面したときに即座に対応するために、長い進化の過程で私たちに備わってきた、生物としての生存を支える非常に重要な機能です。

現代社会では、そうした危険に直面することは少なくなったかもしれませんが、この仕組みは今もなお、私たちの中に自然なものとして存在しています。

進化が続いているからといって、こうした本能的な反応がすぐに消えるわけではなく、むしろ誰にとっても当たり前に起こる、正常な身体と心の働きなのです。

したがって、これらの反応は性格や人間性に関係なく、誰にでも起こりうる自然な生理的現象なのです。

「この先が不安…」と感じるあなたへ──未来の心配が止まらない先取り不安のしくみと心の反応

「先取り不安」とは、まだ起きていない未来の出来事について、現実的な不確定要素をもとに、必要以上に先の展開を予測してしまい、不安が強まってしまう心理状態を指します。

起こりうる問題だけでなく、その先にある行き詰まりや、無限に広がる選択肢まで想像し、「どう展開しても良い結果にはならない」「望む結果には至らない」と思い込んでしまう——そうした思考が現実を超えてループし、完結しないまま不安が増幅していくことで、心や身体が緊張し、必要な行動がとれなくなってしまうこともあります。

これまであまり不安を感じなかった人でも、情報過多や環境の変化といった要因によって、気づかぬうちにこの状態に陥ることがあります。

新しい環境や初めての出来事など良いことでも感じる不安

特に、新しい環境や初めての出来事に直面したときには、普段なら問題なく対処できることでも困難に感じ、「大丈夫だろうか」「何かまずいことが起きるかもしれない」といった予感が強まることがあります。これも、先取り不安の一種です。

こうした不安を、自分の性格や能力のせいだと誤解してしまうと、先取り不安はさらに強くなっていきます。

すると、日常の些細な出来事や順調な状況に対してさえ強い危機感を抱き、心身が緊張して、思うように行動できなくなっていきます。

こうして、不安がさらに不安を呼ぶ”スパイラル”に陥ってしまうこともあるのです。

先取り不安では、2歩先、3歩先、さらには10歩先の未来まで、思考が数珠つなぎのように次々と展開していきます。

その予測は不確実性を増幅し、生理的なストレス反応も強まることで、心身は常に警戒態勢に置かれます。

そして、増幅した不安とそれにともなう身体の緊張が重なることで、不安はやがて「怖れ」や「恐怖」へと変化していきます。

「不安=問題」ではありません

このように聞くと、「不安=問題」と感じるかもしれません。

しかし、不安を感じるということは、それだけ未来に備えようとする「生きようとする力」があるということでもあります。

不安は、本来、あなたの身を守るために備わった、大切な感情なのです。

不安を「味方」にし、うまく付き合っていけるようになると、「不安で動けない」という状態さえも、過程のひとつとして受け止められるようになります。

そしてその先には、不安そのものを、人生の豊かな体験の一部として活かしていくこともできるようになります。

感情はあなたの味方──不安に押しつぶされそうなときに知っておきたいこと

感情の性質

最初に、感情の性質と、それにどう関わっていくかという基本を確認しておきましょう。

感情は、本来、常に移り変わっていくものです。

私たちが日々感じている「不安」「怒り」「悲しみ」などの感情は、出来事からの刺激と、それに対する認知や認識によって生じる、心と身体の反応です。

そして、それらは永遠に続くものではありません。

感情は、出来事の受け取り方や考え方に基づく認識や判断、そして刺激に対するストレス反応によって生じます。

そのため、認識が変わっていけば、それにともなって感情も移り変わっていきます。

さらに、生理的な面では、私たちの体にはホメオスタシス(生体の恒常性維持機能)が備わっています。

この働きによって、高まったストレス反応は時間の経過とともに落ち着き、それに応じて感情も和らいでいきます。

たとえば、天気が変わるように、感情も時間の経過とともに移り変わっていくものです。不安もその例外ではありません。

感情そのものをコントロールしようとすると・・・

しかし私たちは、ときに出来事や状況に対応するよりも、「この不安をなくしたい」と感情そのものをコントロールしようとすることがあります。

そして、不安をなくすことを目的に、自分本位に出来事や状況を無理に変えようとすると、その努力がかえって不安を強めてしまうことも少なくありません。

なぜなら、一時的に不安が軽減しても、もとにある問題や状況がそのまま残っていれば、不安はまた繰り返し湧き上がってくるからです。

そのため、不安を「なくすこと」ではなく、「不安」と「問題」を分けて捉え、それぞれに応じた対応を考えていくことが大切になります。

不安も、感情の一つです。関わり方の基本

不安そのものをなくそうとすることによって、感情が自然に移り変わっていくプロセスが遅れたり、止まってしまったりすることがあります。

そうしたプロセスを再び動かしていく第一歩として、「いま、私は不安を感じているんだな」と、感じている感情に気づき、確認することが役立ちます。

不安を観察していく中で、他にもさまざまな感情が心に浮かんでくることに気づくかもしれません。

それらも否定したり、変えようとしたりせず、一つひとつの感情に名前をつけて、静かに確認していきます。

たとえば、「いま、私は不安を感じている」「いま、私は悲しみを感じている」「いま、私は怒りを感じている」といったように、自分の中にある感情に名前をつけて、確認していきます。

この時、そっと言葉にして確認するのも役立ちます。

そして、大切なのは、自分自身への評価や批判は横において、ただ感情だけを見守るような姿勢で観察することです。

こうした観察を続けていくことで、不安が少しずつ落ち着き、やがて別の感情へと移り変わっていくこともあります。

そして、このような観察を重ねることで、感情が”長引いている”のではなく、自分の中の思考や認識の働きによって、繰り返し同じ感情が湧き上がっていることに気づくこともあるかもしれません。

また、感情は「行動」によっても変化します。

たとえ不安や悲しみ、怒りといった感情を抱えていたとしても、私たちはその感情にただ従ったり、振り回されるのではなく、意志の力を働かせながら、その時の自分にできる範囲で行動に移せることに意識を向け、自分のペースで行動に移していくことができます。

そして、その行動を通じて得られる体験が、感情に変化をもたらしていきます。

感情はたしかにあなたの一部ですが、それがあなた自身の全てではなく、あなたそのものではありません。

このように「感情は本来、常に移り変わっていくもの」という性質を出発点に、不安とよりよく付き合っていくための方法のひとつを、次にご紹介していきます。

子育て・仕事・恋愛・結婚・将来…不安を感じやすい16の状況

不安は、自分が想定していないことが起こったり、想定を超えていたり、コントロールを超えたことが起きると感じやすい感情です。

そして、「分からない・予測できない・コントロールできない」という条件がそろったときに特に強く感じやすいものです。

人は以下のような状況で、個人差はありますが多くの人は不安を感じるものです。

将来が見えないとき

将来が見えない不安は、多くの人が一度は経験するものです。

たとえば、「就職先がまだ決まっていない」「転職活動が思うように進まない」といった状況では、先の生活がイメージできずに強い不安を感じることがあります。

また、「結婚したいと思っているけど相手が見つからない」「このまま一人で生きていくのだろうか」といった人生設計に関する悩みや、「フリーランスとして働いているけれど収入が不安定で将来が心配」といった経済的な見通しの不安も該当します。

このように、将来の見通しが立たないときには、「このままで大丈夫なのか」「どうなるかわからない」という思いが積み重なり、不安の連鎖が起こりやすくなります。

初めてのことに挑戦するとき

初めての体験は誰にとっても緊張や不安を伴うものです。

例えば、「人前でスピーチをする」「転職して新しい職場で働き始める」「新入生として新しい学校に通う」「初めての起業にチャレンジする」「海外への留学をスタートさせる」「外国での生活を始める」といった経験は、未知への一歩として多くの人にとって不安の原因になります。

こうした状況では、「うまくやれるだろうか」「失敗したらどうしよう」といった先の見えない心配が頭をよぎりやすくなります。

しかし、こうした不安は、私たちが環境に適応しようとする自然な反応でもあります。

初めての挑戦だからこそ感じる不安には意味があり、それを認識することが、次のステップへ進むための土台になります。

人間関係のトラブルや不確実性

たとえば、仲の良かった友人から突然連絡が来なくなったり、LINEの既読スルーが続いたりすると、「何か気に障ることを言ってしまったのかも」「嫌われたのかもしれない」と不安になることがあります。

また、恋人とのやりとりでいつもと違う反応を感じたとき、「冷めたのでは」「別れ話が近いのでは」などと先回りして心配してしまうこともあります。

こうした人間関係の変化や相手の気持ちが見えづらい状況は、私たちにとって強い不安の引き金になりやすく、特に敏感な時期やストレスが多い時期には、その不安が頭の中で大きくふくらんでしまうことがあります。

健康や病気に関する心配があるとき

たとえば、「最近ずっと体調が優れないけれど、原因がわからない」「病院で受けた検査の結果が出るまで不安でたまらない」といった状況では、頭の中で最悪のシナリオばかりが浮かび、「もしかして重大な病気なのでは?」といった健康不安が強まることがあります。

また、「家族が体調を崩して入院した」「子どもの熱がなかなか下がらない」など、自分ではどうにもできない状況が続くときも、不安が膨らみやすくなります。

こうした“病気の心配”や“検査結果を待つ不安”は、誰もが経験しうることであり、不安が強まるのは決して特別なことではありません。

経済的な不安があるとき

たとえば、「今月の家賃が払えるか不安」「ボーナスがカットされて生活が苦しい」「副業を始めたけれど収入が安定しない」「貯金が少なくて将来が心配」といった状況は、経済的な不安の典型です。

こうした不安は、日々の生活の中でじわじわと心身に影響を及ぼすことがあります。収入が不安定だったり、支出が増えて貯蓄が追いつかないといった状況が続くと、「このままで大丈夫だろうか」という先の見えない不安に悩まされることもあります。

失敗や評価を気にするとき

「うまくやらなければ」「失敗したらどうしよう」といった不安は、多くの人が経験するものです。

特に以下のような場面では、不安が強まりやすくなります。

  • 就職活動の面接で緊張してしまい、言いたいことが言えなかった
  • 会議でのプレゼンに向けて、前日から「評価されなかったらどうしよう」と眠れなくなった
  • 学校の試験前に、「点数が悪かったら将来が終わる」と感じてしまう
  • SNSやブログでの発信後、「変に思われていないか」「否定的なコメントが来るかもしれない」と心配になる

このように、「失敗への不安」や「他人の評価が怖い」という感情は、自分の価値を外部の評価に結びつけてしまうときに強まりやすくなります。

孤独や孤立を感じるとき

たとえば、新しい環境に飛び込んだばかりで、まだ親しい人がいないときや、SNSなどでは繋がりがあるはずなのに、誰にも本音を話せないと感じるとき。

「こんなことで悩んでいるなんて言えない」「話しても分かってもらえないかもしれない」と思うと、さらに自分を閉じ込めてしまい、深い孤独感や疎外感に包まれてしまうことがあります。

特に、在宅ワークや引っ越しなど、日常の中で人との接点が減ったタイミングでは、このような「つながりのなさ」からくる不安が強まることもあります。

大切な決断を迫られたとき

人生の転機にあたるような大きな決断を迫られたとき、人は強い不安を感じやすくなります。

たとえば、「この人と本当に結婚していいのだろうか?」「離婚して本当に後悔しないだろうか?」といった結婚や離婚にまつわる決断では、自分だけでなく相手や家族の人生にも関わることから、責任の重さを感じて不安が増幅しやすくなります。

また、「今の仕事を辞めて転職するのは正解なのか」「引っ越し先で本当にうまくやっていけるのか」といった転職や引っ越しも、不確実な未来への不安を大きく感じるものです。

このような選択の場面では、「失敗したらどうしよう」「後戻りできないかもしれない」といった“先取り不安”に陥ることがあり、思考が堂々巡りになってしまうこともあります。

こうした不安は、ごく自然な感情反応であり、それだけ真剣に自分の人生と向き合っている証でもあります。

期待やプレッシャーが強いとき

たとえば、受験や就職活動、昇進試験の前などに「失敗できない」「結果を出さなければならない」と強く思う状況です。

親や上司からの「あなたならできる」「期待しているよ」という励ましの言葉も、時にプレッシャーとして重くのしかかることがあります。

また、SNSなどで同年代の成功体験が頻繁に目に入ると、「自分も何か結果を出さなければ」と焦りが強まり、不安につながりやすくなります。

このような状況では、「期待に応えられなかったらどうしよう」「失敗したら見捨てられるかもしれない」といった思考が膨らみ、心や身体が緊張して眠れなくなる、胃が痛くなるなどのストレス反応が表れることもあります。

プレッシャーが続くと、心の余裕が失われ、結果として本来の力を発揮できなくなる悪循環に陥ることもあります。

社会的な評価や立場が脅かされるとき

たとえば、SNSでの投稿が思わぬ形で拡散し、「炎上」状態になってしまったり、何気ない発言が誤解されて拡大解釈されてしまったりすることがあります。

また、仕事やプライベートに関わる場面での小さなミスが、「信用を失うのではないか」「評価が下がるのではないか」という不安に直結することもあります。

こうした状況では、「自分はどう見られているか」「どんなふうに思われているか」が頭から離れず、不安や緊張が強まっていきます。

これは、現代ならではの“評価されることへの恐れ”が引き金となる、非常に身近な不安のひとつです。

他人と比較してしまったとき

例えば、SNSで同年代の友人が昇進したり、結婚・出産などのライフイベントを報告しているのを見て、「自分は何も成し遂げていない」と感じることがあります。

また、同じ仕事をしている同僚が評価されたり、活躍している姿を見ると、「自分には価値がないのでは」と落ち込んでしまうこともあります。

こうした比較は、自分のペースや状況を見失わせ、焦りや自己否定感、不安を強める原因になります。

慣れた環境から離れるとき

例えば、「長年勤めた会社を退職するとき」「親しんだ学校を卒業して新しい生活が始まるとき」「慣れ親しんだ街を離れて引っ越すとき」など、私たちは安心できる場所や人間関係から離れるときに、大きな不安を感じやすくなります。

このような場面では、「ちゃんとやっていけるだろうか」「新しい環境になじめるだろうか」といった未来への不安が自然にわき上がります。

特に、転職・進学・単身赴任・海外移住といった生活の変化が大きい場合、不安の程度も強くなることがあります。

情報が多すぎて判断できないとき

現代はインターネットやSNSの発達によって、いつでも簡単に情報にアクセスできる時代です。

その一方で、「どの情報が正しいのか」「どれを信じていいのか」が分からなくなり、不安が強まることもあります。

例えば、健康について調べているとき、「この症状は病気かもしれない」と思って検索を始めたものの、検索結果には異なる意見や専門家の見解があふれており、「もっと重い病気かもしれない」「放置すると危険かも」といった不安を煽るような情報にたどり着いてしまうことがあります。

気づけば、安心するどころか、ますます不安になり、さらに情報を探し続けるというループに陥ってしまうこともあります。

また、キャリアや進路選択の場面でも、「正解のない選択肢」が多すぎて、口コミサイトやSNSの体験談を調べるうちに、「自分には無理かもしれない」「失敗したらどうしよう」といった不安が強くなり、結局何も決断できなくなるということも少なくありません。

このような「情報過多」による混乱や不安は、現代ならではの先取り不安の典型的なパターンの一つです。

過去のつらい経験がよみがえってしまうとき

たとえば、子どもの頃に孤立を感じた人間関係の記憶や、家庭内で強い緊張を抱えていた経験、交通事故などの強い衝撃体験、大切な人との別れなど――過去に心が大きく揺さぶられた出来事は、ふとした日常の中で思いがけずよみがえり、不安や緊張、寂しさを引き起こすことがあります。

大人になってからの会議や集まりの場面で、理由のわからない緊張感に包まれたり、相手の何気ない言葉や態度に心がざわついたりするのは、そうした記憶が現在の体験と結びついているからかもしれません。

災害や事故など突発的な出来事

例えば、突然の地震により電車が止まり、帰宅困難になる。

あるいは、交通事故を目撃したり、自分や家族が巻き込まれた場合。

さらに、街中でのひったくりや、深夜に不審者とすれ違うような場面など、予測できない突発的なリスクに直面すると、人は強い不安や恐怖を感じやすくなります。

こうした経験は、災害後の「余震がまた起こるかもしれない」「また同じことが起きたらどうしよう」といった、持続的な不安(予期不安)につながることもあります。

特に、被災経験のある人にとっては、小さな刺激でも過去の記憶がフラッシュバックし、不安が強まることがあります。

これらの反応は、決して弱さではなく、心と身体がその出来事をしっかり記憶し、身を守ろうとする自然な働きのひとつです。

正体不明の違和感や体調不良があるとき

たとえば、「なんとなく胃がムカムカする」「ずっと疲労感が抜けない」「息がしづらい感じがする」など、はっきりとした病名や異常が見つからないにもかかわらず、身体に違和感や不調を感じることがあります。

病院で検査をしても「異常なし」と言われると、「この不調の原因は何だろう」とますます不安になる方も少なくありません。

こうした不安は、ストレスや緊張が身体に影響を及ぼしているサインかもしれません。

自律神経の乱れや、心理的なストレスが身体症状として現れることもあるため、「体の不調=重大な病気」とすぐに結びつけず、心と体の両面から状態を見つめ直すことが大切です。

「何が不安か分からない」状態から抜け出すために──心のループに気づく

不安を感じたとき、「この気持ちをすぐに消したい」「感じたくない」と思う人が大半で、それはごく自然な反応です。

しかし、不安そのものを「なくそう」とする気持ちが強くなるほど、かえって不安が大きくなっていくことがあります。

それは、不安がもともと「これから起こるかもしれない危険」や「避けたい結果」を予測し、私たちを守ろうとする”レーダー”のような感情だからです。

このとき、気持ちが「不安をなくすこと」ばかりに向かってしまうと、不安が知らせている現実への対応が後回しになってしまいます。

現実に向き合えないまま思考が空回りし、まだ起きていない未来の出来事まで予測してしまう「先取り不安」の状態に陥っていきます。

さらにその状態が続くと、身体もストレスを感じ、動けなくなったり、頭が真っ白になるなどの”凍りつき反応”が起きることもあります。

結果として、必要な行動が取れずに、思考だけが繰り返され、不安がさらに強まる——そんな悪循環が生まれてしまいます。

このようなときに起きているのは、「感情が長引いている」のではなく、不安が何度も再生され、強化されているという心のプロセスです。

次に、こうした先取り不安の背景にある、よくある思考や行動のパターンをいくつかご紹介します。

小さな出来事から、否定的なストーリーをふくらませてしまうとき

たとえば、相手の何気ない表情や言葉、反応を見て、「自分は否定されたのかもしれない」「嫌われたのではないか」と感じてしまうことがあります。

そうした解釈をきっかけに、心の中で否定的なストーリーが少しずつ展開されていき、不安や落ち込みといった感情が連鎖的に生まれてきます。

そして、その感情を前提にさらに思考が深まり、いつの間にか、そうしたストーリーの中から抜け出せない心のループに入り込んでしまうことがあります。

事実を確認しないまま、「きっとこうだ」と主観的な推測で物事を決めつけてしまう

実際にはまだ何も起きていないのに、「どうせ失敗する」「うまくいくはずがない」と、これまでの経験や思い込みをもとに早まった結論を下してしまうことがあります。

こうした主観的な推測は、不安や落ち込みといった感情を引き起こし、それらの感情を土台にさらに否定的な思考が展開され、気づかないうちに思考と感情のループにはまり込んでしまうことがあります。

他人の評価ばかりが気になって、自分の気持ちやニーズに気づけなくなってしまう

「どう思われているか」「どう見られているか」といった他人の評価が気になりすぎると、自分の本当の気持ちや、今何を必要としているのかという内面的なニーズに気づきにくくなります。

すると、他人の何気ない言葉や態度に過敏に反応し、「否定された」「認められていない」といった自己否定的な感覚が強まってしまいます。

こうした自己否定の感覚は、不安や落ち込みを引き起こし、それを前提とした否定的な思考が繰り返されることで、感情と考えのループから抜け出せなくなることがあります。

他人を優先して、その問題に巻き込まれてしまっているとき

誰かを思いやり、助けたいという気持ちはとても大切なものです。

しかし、その気持ちが強くなりすぎると、自分の心や時間、エネルギーを必要以上に相手のために使ってしまうことがあります。

そのような状態が続くと、自分と相手との間の心理的な境界が曖昧になり、本来は自分の課題ではない問題や感情にまで巻き込まれてしまうことがあります。

その結果、相手が抱える不安や葛藤を、自分自身のもののように感じるようになり、他者に関する先取り不安が、まるで自分の不安のように膨らんでいってしまうことがあります。

こうして、不安や混乱、自己消耗が積み重なり、気づけば感情や思考のループから抜け出せなくなってしまうのです。

「失敗=すべてが終わった」と考えてしまうとき

過去に経験した大きな失敗や挫折が心の深い部分にトラウマとして残っており、その体験が十分にケアされ癒されないままになっていると、その後の人生で起こる些細なミスや失敗であっても、それが当時の記憶や感情と強く結びつき、「もうすべてが終わった」「すべてを失ってしまった」と感じてしまうことがあります。

このようにして、失敗の経験が「自分の存在価値そのものの否定」として受け取られると、心は強い恐怖に包まれ、不安や落ち込みといった感情が連鎖的に生まれてきます。

その感情に引きずられるように思考も深まり、やがてその感情と思考のループから抜け出せなくなってしまうのです。

不安が教えようとしていることに触れることを避けてしまうとき

不安という感情を感じることそのものがつらく、「こんなふうに不安を感じる自分はダメなのではないか」と自己否定の気持ちが湧いてくることがあります。

そのようなとき、不安が本来伝えようとしている危機や喪失といった現実へのまなざしが持てなくなり、不安という感情だけが際立って強化されていくことがあります。

不安を感じること、あるいはその感情を認めることが苦しいという反応は、本人の心身のコンディションや、置かれた状況を考えれば、ごく自然なものです。

しかし、そうした中で他者に頼れず、ひとりで抱え込んでしまうと、「向き合えない自分」や「誰にも話せない自分」に対する否定的な思いが強まっていきます。

その結果、不安や自己否定感が連鎖的に生じ、それに伴う思考も深まり、気づかぬうちにその感情と思考のループから抜け出せなくなってしまうことがあります。

「間違っている」わけではありません

こうした思考や行動のパターンは、「間違っている」わけではありません。

むしろ、それぞれは私たちが自分自身を守ろうとする中で、ごく自然に生まれてくる、人間らしい心の働きです。

そして、その背景には、その人なりの意味や理由があるものです。

だからこそ、不安を感じているときに「こんな自分はダメだ」と責めるのではなく、「どこで心が立ち止まっているのか」「自分の中でいま、何が起きているのか」に優しく目を向けていくことが大切です。

そうした丁寧な確認を重ねていくことが、不安や先取り不安のループから抜け出して味方にしていくための第一歩になります。

自分らしく生きるために──不安を味方にする7つの実践ステップ|今日から始められる具体的方法

(1)身体の緊張に気づく、そして緩めていく

緊張に気づいていく

まずは、思考や感情にアプローチする前に、自分の身体に意識を向けてみましょう。

不安を感じている時、私たちの身体は自覚なく生理的ストレス反応により、緊張しています。

肩が上がっていたり、喉が詰まる感じがしたり、手に力が入っていたり、背中が重かったり、胸がぎゅっとなっていたり——そうした身体の状態に「気づきを向ける」ことから始めます。

緩めていく

そして、緊張に気づけたら、「水で手を洗う」「お水を一口飲む」「クッションを抱く」など、優しい刺激で五感を刺激し、副交感神経系に働きかけてゆったりモードを活性化させて、優位になっている警戒モードの交感神経系を落ち着かせていきます。

そうしていくと、ため息が出てきたり、大きく息をすいたくなったりといった、生理的な反応が自然に湧き起こってきます。

その生理現象を意識的にコントロールしようとせず、そのまま受け入れて、身体が反応するままにさせてあげてください。

そうしているうちに、徐々に呼吸が深まり、手先があたたかくなるなど、身体全体が緩んでいきます。

最初は、これを繰り返し行なっていくだけでも、思考や感情のループが緩んでいくことがよくあります。

深呼吸やマインドフルネスを試す方もいますが、緊張が高いときは、多くの場合、最初は「ゆっくり長く息を吐く」ことに意識を向ける方法が有効です。

マインドフルネスについて

マインドフルネスは目を閉じると緊張が高まることもあるので、最初は目を閉じずに取り入れることをお勧めします。

また、カウンセリングで思うことなのですが、マインドフルネスは集中することや、不安をなくすために行うものと理解している人が多いようです。

お話を伺っていくと、それを目的にした応用版のマインドフルネスもあるようですが、本来のマインドフルネスの基本は、良し悪しの判断を横において、ただ浮かんでくることを観察することです。ただ観察することに意識を向けて集中しましょうというのが基本です。

したがって、ここでいうマインドフルネスは、呼吸とともに、うかんでくる不安やその他の様々な感情、浮かんでくる思考、そして、さらに身体感覚にも気づいて確認して観察していくというものです。

(2)「今、不安を感じている」と優しく確認する

身体が少し落ち着いてきたら、自分の状態を静かに確かめてみましょう。

そして、自分の中に不安という感情があることを確認します。

そして、「いま、不安を感じているんだな」と、ゆっくり言葉にしてみることも役立ちます。

この確認作業は、ゆっくり自分のペースでOKです。

この時、自分にも不安にも優しく寄り添い、そっと触れるような感覚で観察することが大切です。

人によっては、この確認だけで、期待している以上に不安が軽減する方もいます。

(3)不安が何を教えてくれようとしているか見極めていく

身体の緊張が緩み、不安という感情を確認して受け入れられるようになると、不安が何を教えてくれているのか、少しずつわかってくるようになります。

不安が教えてくれたことを客観的に観察し、自分が何を必要とし、何を望んでいるのかを見極める

不安という感情は、私たちにとって「危険や変化の兆しを知らせるサイン」であると同時に、「大切な何かを守りたい」という願いの現れでもあります。

たとえば、「このままで大丈夫だろうか」と不安になるとき、その背景には「安心して暮らしたい」「人とのつながりを大切にしたい」といった、切実な望みやニーズが隠れていることがよくあります。

不安に振り回されているときには、そのメッセージを直接受け取ることが難しいものです。

しかし、身体と心が少し落ち着いたときに、あらためてその不安の根底にあった思いや願いに目を向けてみることが大切です。

たとえば、「仕事で失敗したらどうしよう」という不安の裏には、「自分を認めてもらいたい」「信頼されたい」「安心して働きたい」「責任転嫁されたくない」といった気持ちがあるかもしれません。

このように、不安を“ただの敵”とせず、「自分の大切なニーズや望みに気づかせてくれる存在」として客観的に見つめていくことで、自分が本当に必要としているものに気づくことができます。

そして、その気づきが、次の行動への手がかりとなっていきます。

うまくいかない時は

それでも難しいと感じるとき、ここまでのプロセスがうまくいかないと感じる人は、ここでまた一人で頑張ると、これまでと同じループに入っていく可能性が高くなります。

一人で抱え込まず、あなたのプライバシーと状態を尊重してくれる信頼できる人に協力を求めましょう。

それが、自分を大切にすることそのものであり、セルフケアにもなります。

カウンセラーなど心理の専門家に協力を求めるのも一つの方法です。

理由は、どんな人でも不安が強くなっていくと、物事をみる視野が狭くなっているからです。

そのため、カウンセラーなど心理の専門家のサポートを受けると、「いま感じていること」を整理しながら見つめることで、視野がひろがり、不安が何を教えようとしてくれているのか見極めることができるようになっていきます。

(4)不安が教えてくれたことに対処する

不安が教えてくれたことがわかったら、次はそのわかった事について行動で対処していきます。

行動の前に、自分のリソース(資源)を確認する

ここで言うリソース(資源)とは、人がストレスに適応し、健康を維持するために活用できる多様な手段や支えです。

これらのリソースを多く持っていたり、持っているリソースを最大限活用できる人ほど、より健康的な生活を送ることができるとされます。

リソースには次のようなものがあります。

お金や物に関する支え|収入の安定と生活基盤が心の安心を支えてくれる

私たちが日々の暮らしの中で安心感を持てるかどうかには、「お金」や「モノ」といった物質的なリソースが大きく関わっています。

中でも、経済的な安心は、心の土台を支える大切な要素です。

たとえば、「毎月の給料が安定して入ってくる」「安心して暮らせる住まいがある」「冷蔵庫に食料がある」「季節に合った服を着られる」「体調が悪くなったときにすぐ病院に行ける」など、基本的な生活が保障されているだけで、人は現実的な不安から解放され、精神的にも落ち着いた状態を保ちやすくなります。

また、自分が管理しているある程度まとまった財産、困ったときに利用できる支援制度や自治体のサポート、生活困窮者支援などの社会的なリソースを事前に調べておいたり、災害時の備蓄を用意しておいたりすることも、将来への備えとして心の安定に大きく貢献します。

こうした「備え」があることで、「何かあっても大丈夫」という感覚を持つことができ、不安を感じる場面でも冷静に対応する力を育てることができます。

人とのつながり・支え合い|こころある関わりは全てリソース

私たちの生活において、「人とのつながり」や「支え合い」は、心の安定を保つうえで欠かせない重要なリソースです。

たとえば、仕事のミスで落ち込んでいるとき、同僚から「大丈夫、誰にでもあるよ」と声をかけられるだけで、胸のつかえが少し軽くなることがあります。

それは、ただの励ましではなく、「この職場には自分の味方がいる」という安心感につながります。

家庭では、パートナーや子どもに「今日はなんだか疲れちゃった」と素直に打ち明けたとき、「分かるよ」「ゆっくり休んでね」と返してもらえるだけで、孤独感が和らぎ、気持ちがふっと落ち着くことがあります。

共感的なやりとりは、日常の中で小さな癒しとなり、心のエネルギーになります。

また、地域の清掃活動や夏祭りなど、ささやかな地域行事に参加して、「こんにちは」と挨拶を交わすだけでも、自分が地域社会の一員であるという感覚が生まれ、安心感につながります。

子どもの学校で保護者同士の何気ない会話から、「うちも同じように悩んでますよ」と言われることで、安心と共感が生まれ、「自分だけじゃないんだ」と感じられることもあるでしょう。

このように、人とのつながりは、ストレスを抱えたときの緩衝材として、私たちの心を守る重要な役割を果たします。

誰かに相談できる、支えてもらえるという感覚は、不安や孤独感を和らげ、精神的な健康を保つ基盤になります。

専門家とのつながり|安心感と行動への架け橋

何かあった時に、「専門家に相談できる」という感覚は、私たちの心の安定を支える重要なリソースになります。

たとえば、職場の人間関係や労働環境に不安がある場合、弁護士など法律の専門家に相談することで、状況が客観的に整理され、問題解決に向けた現実的な選択肢が見えてきます。それによって、「何ができるのか」が明確になり、不安が少しずつ和らいでいきます。

また、家庭の問題や人間関係の悩み、気持ちの整理がつかないときには、カウンセラーなど心理の専門家に相談することで、自分の内面を安全な場で言語化し、専門的な視点から受け止めてもらうことで、「感情の整理」と「思考の整理」が進み、次の一歩への力が湧いてくることも少なくありません。

子育てや学校生活に関する悩みを抱える保護者や子どもにとっては、安心できるサポートが得られるスクールカウンセラーや学校の相談員に相談することでことで、「支えがある」という感覚が心の安定につながります。

睡眠の質や体調不良が不安の背景にある場合には、医師の診察を受けることで、医学的な視点からサポートを得ることは、心身のバランスを整えるための一歩となります。

経済的な不安や介護の負担が大きいときには、地域の福祉相談員や行政の窓口に相談することが、具体的な支援策や制度の情報につながります。「ひとりで抱えなくていい」と実感できることが、安心感を育ててくれます。

このように、「専門家とのつながり」は、「この状況を乗り越えられるかもしれない」と感じさせてくれる心の支えです。

学びや知識|意味や理解もリソース

ストレスの多い現代社会において、「学び」や「知識」は、ストレス対処力(レジリエンス)を高める大切なリソースです。

たとえば、職場で突発的なトラブルが起きたとき、過去に似たような状況に対処した経験があれば、動揺することなく「この状況は前にも経験した」「こう対応すれば乗り越えられる」と考えることができます。

また、仕事や資格試験で得た専門知識があれば、「問題の構造が理解できる」「具体的な対応策が浮かぶ」といった形で冷静に対応できる土台となります。

さらに、本やドキュメンタリー、セミナーなどを通じて社会の課題や人間関係の多様性に触れておくことは、悩みや不安を抱えたときに「自分だけが苦しいわけではない」「視点を変えれば別の意味が見えてくる」と捉え直す力になります。

これにより、心の余白が生まれ、不安や混乱の渦中でも自分を見失わなくてすんだりします。

「知識は力」と言われるように、学びの蓄積は、自分の人生に意味を与え、変化や困難に対する「理解しうる」「乗り越えられる」「意味がある」と感じる力を育んでくれる大切なリソースです。

心の力・気持ちの強さ|こころのリソース

「心の力・気持ちの強さ」は、ストレスや不安に対する重要なリソースです。

「自分ならきっと大丈夫」「必ずなんとかなる」といった前向きな気持ちや、自分自身を信じられる自己効力感や、「どんな結果になっても自分には価値がある」という自己肯定感や自尊心のことを指します。

たとえば、試験やプレゼンを控えて緊張しているときでも、「過去にも乗り越えられたし、今回もできる」と自分を信じることができれば、気持ちは次第に落ち着き、実力を発揮しやすくなります。

また、困難な状況にあっても「あきらめずにやってみよう」と思える気持ちがあることで、不安を感じながらも、前に進む力が湧いてきます。

信じていること・大切にしている考え方|耐性となるリソース

困難な状況に直面したとき、自分の中に「信じていること」や「大切にしている考え方」があるかどうかは、不安に飲み込まれないための大きな力になります。

たとえば、「どんなときも誠実に向き合う」「家族を大切にする」「自分なりにできることを積み重ねる」などの価値観や、「毎朝5分だけでも瞑想をする」「週末は自然に触れる」といった日々の習慣があると、自分の軸を保ちやすくなります。

また、「自分の行動が誰かの役に立つ」「人生を通して子どもたちに希望をつなぎたい」といった人生の目的があると、どんな不安にも向き合う意味を感じやすくなり、前を向く力になります。

家族や地域に伝わる考え方や文化、信仰なども大きな支えになります。「困ったときは助け合うのが当たり前」といった文化の中で育った人は、孤独を感じる場面でも「きっと誰かが見守ってくれている」と思えることで、心が安定することもあります。

このように、「何を信じているのか」「何を大切にしているのか」といった個人の価値観や信念は、重要なリソースです。

「自分は何のために、なぜこれをしているのか」という問いに答えられることは、不安が強まる中でも、自分自身の行動に意味を見出し、前へ進むためのエネルギーになるのです。

体の健康や体力|こころを支えたり、こころのエネルギーを高めるリソース

心と身体は密接につながっており、身体の状態が心の安定に大きく影響することがあります。

たとえば、「夜しっかり眠れて朝すっきり起きられる」「一日中、疲れにくく元気に過ごせる」「気候の変化や季節の移り変わりにも負けず、体調を安定して保てる」といった身体の健康や体力の充実は、私たちの毎日の生活に安心感と自信をもたらします。

こうした身体的な安定は、不安やストレスに直面したときにも、心にゆとりをもって冷静に対処するための土台になります。

逆に、睡眠不足や体調不良、慢性的な疲労があると、ほんの小さな出来事でさえ過剰に不安を感じたり、ネガティブな思考のループにはまりやすくなってしまいます。

不安をやわらげ、日常生活をより穏やかに過ごすためには、「体の調子を整えること」そのものが重要なメンタルケアの一部になります。

たとえば、毎日決まった時間に寝起きする、バランスの取れた食事を心がける、適度な運動を取り入れるといった基本的なセルフケアが、心の健康を支える大切なリソースになります。

その他、「助けになるもの」全般 | 日常の中にあるリソースを見つける

ここでいうリソースとは、上記以外にも、困ったときやストレスを感じたときに、自分を支えてくれるすべての存在や要素のことを指します。

上記以外でも、それは人間関係に限らず、日々の生活の中にある「好きな音楽」「お気に入りの本」「香りのよいアロマ」「大切にしているぬいぐるみ」「お気に入りのマグカップ」など、感情的な支えになる物や習慣、場所も含まれます。

また、「推しの存在」や「尊敬する先輩」「話すと元気になれる友人」など、感情のよりどころとなる人との関係性も、重要なリソースの一つです。

たとえば、「気分が落ち込んだときは必ずこの曲を聴くと少し楽になる」「困ったときはこの人に相談すれば安心できる」「この場所に行くと心が落ち着く」といったように、私たちは自然と自分を支えてくれるものを頼りにしているのです。

こうした自分のリソースをあらためて確認し、今足りていないものがあれば少しずつ増やしていくことが、ストレスへの対処力を高める大切な一歩になります。

(5)これまでうまくできたことや、自分なりに頑張ったことを思い出し、自分の力を再確認する

不安が強まっているときは、自分のことを否定的に捉えがちになり、「どうせ自分にはできない」「また失敗する」といった思考にとらわれやすくなります。

そうしたとき、自分のリソースを確認していくうちに、自分がこれまで経験してきたことの中から、「うまくできたこと」や「自分なりに頑張れたこと」を思い出していくことが大切です。

たとえば、「以前も初めてのことに不安を感じたけれど、なんとか乗り越えられた」「あのときは時間がかかっても、自分のペースでやり遂げられた」など、小さなことでも十分です。

自分が不安を抱えながらも対応してきた経験に目を向けることで、「自分には乗り越える力がある」という自己効力感の感覚を取り戻すことが大切です。

また、「完璧にできたかどうか」ではなく、「あのとき、自分なりにどう向き合ったか」「どんな工夫をしたか」といった視点から振り返ることで、より多くの前向きな記憶や自分らしい努力が思い出されることがよくあります。

自分が歩んできた過去の体験の中には、困難に向き合った姿や、小さな成功の積み重ねがきっとあるはずです。

その記憶が、自分自身への信頼感を取り戻し、不安が教えてくれたことを実現するやめの力の一部になります。

(6)課題・問題・チャレンジを小分けにして、リソースをフル活用して対処していく

不安を感じているとき、私たちの思考は「すべての課題・問題を一度に解決しなければならない」と考えてしまいがちです。

しかし、大きな課題・問題をそのまま抱えたままだと、何から手をつけてよいか分からず、さらに不安が強まってしまいます。また、それは大きなチャレンジも場合も同じです。

こうしたときは、課題・問題・チャレンジをいくつかの小さな要素に分けて整理してみることが役立ちます。

「自分が今できること」「誰かに相談・依頼できること」「今はどうしようもないけれど後から対応できること」などに分類してみると、漠然としていた問題に具体性が出てきて、行動につながりやすくなります。

また、課題・問題・大きなチャレンジに向き合う際は、自分がすでに持っているリソース(=資源)にも必ず目を向けましょう。

これまでの経験、知識、関係性、利用できるサービスや制度など、自分の中や周囲にあるものを見渡して、必要なサポートを得たり、使えるものを使っていくことが大切です。

「全部ひとりで解決しなければ」と思う必要はありません。

小分けにして、段階的に、必要に応じて周囲の助けを借りながら対応していくことで、少しずつでも現実が動いていくと、不安の強さも和らいでいきます。

(7)ベストを尽くしつつ、変えられないものは手放して、変えられることに集中する

不安を感じているとき、私たちは「すべてをコントロールしなければならない」「完璧に対処しなければならない」と感じてしまうことがあります。

しかし現実には、変えられることと変えられないことがあります。

変えられないこと――たとえば他人の感情や過去の出来事、社会の大きな流れなど――にばかり意識が向いてしまうと、心は自己否定感や無力感や焦燥感でいっぱいになってしまい、不安も増していきます。

そうしたときこそ、「自分にできることは何か?」「いま自分が影響を及ぼせる範囲はどこか?」と問い直してみましょう。

たとえば、「不安だけど、今日はとりあえず仕事に行く」「怖いけれど、信頼できる人に話してみる」「緊張しているけれど、深呼吸だけはしてみる」――そんな“小さな一歩”が、感情と現実をつなぎ直してくれます。

「ベストを尽くす」ということは、「完璧を目指す」ことではなく、自分の現在の状態とできる範囲のなかで、できることを丁寧に選んでいくことです。

そして、「変えられないこと」は、自分を責める材料にするのではなく、「これは自分の責任ではない」と、そっと手放していくことも大切です。

この選択の積み重ねが、不安にとらわれずに自分らしく生きる力を育てていく土台になります。

まとめ:不安を味方にする力を育てる

(1)身体の緊張に気づく、そして緩めていく

(2)「今、不安を感じている」と優しく確認する

(3)不安が何を教えてくれようとしているか見極めていく

(4)不安が教えてくれたことに対処する

(5)これまでうまくできたことや、自分なりに頑張ったことを思い出し、自分の力を再確認する

(6)課題・問題・チャレンジを小分けにして、リソースをフル活用して対処していく

(7)ベストを尽くしつつ、変えられないものは手放して、変えられることに集中する

これらのステップは、不安をなくすのではなく、「不安を味方にする」ためのスキルです。

そして、実践していくことで、不安を味方にする力が育まれていきます。

ぜひ、ご自身のペースで試してみてください。

文責 プロカウンセラー池内秀行

参考図書

  • 日本感情心理学会(2019)「感情心理学ハンドブック」北大路書房
  • 乾 敏郎(2018)「感情とはそもそも何なのか」ミネルヴァ書房
  • 杉 晴夫(2008)「ストレスとはなんだろう」講談社
  • マーク・ジャクソン(2024)「ストレスの歴史」創元社
  • 有田秀穂(2012)「脳からストレスを消す技術」サンマーク文庫
  • 鈴木郁子(2023)「自律神経の科学」講談社
  • 鈴木宏昭 (2020)「認知バイアス」講談社
  • アーロン・アントノフスキー (2001)「健康の謎を解く」有信社

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プロカウンセラー池内秀行

個人・カップル・家族・友人同士など、幅広い人間関係やライフステージの悩みに対応する心理カウンセリング・セラピーを提供しています。人間関係の悩み、家庭内の悩み、恋愛・夫婦関係の改善、職場での悩み、自己理解や自己肯定感の向上、不安・抑うつ・トラウマの癒し、生きづらさの解消など、多様なテーマに寄り添います。 クライアント一人ひとりの背景や課題に応じたオーダーメイドのカウンセリングを大切にし、安心してお話できる環境を整えています。初めての方でも不安なくご利用いただける丁寧なサポートを心がけています。 オンラインカウンセリングで海外在住の方にも対応 Zoomなどを用いたオンラインカウンセリングにも対応しており、海外在住の方、日本語での心理サポートを必要としている方にも多くご利用いただいています。時差や言語の壁に悩むことなく、安心してご相談いただけます。 東京から全国・全世界へ対応可能です。お気軽にお問い合わせください。

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