
自分を動かしていく心得
つらい状況から抜け出したいと思いながらも、なかなか抜け出せずにいるとき、私たちは心のどこかで、その現実となんとか折り合いをつけるために希望を持ち続けていることがあります。
「あの人がきっと変わってくれる」「いいことがきっと起こる」「いつか状況が良くなる」。
そんな風に、自分以外の誰かや何かが変わってくれることを願っていることがよくあります。
多くの人が、現実が複雑であればあるほど、頭では「そんなに、うまくは変わらない」と分かっていても、心のどこかでそれを期待し続けてしまいます。
そして、つらい現実に自分を合わせながら、一方で、楽しいことや嬉しいこと、意味のあることなど、その人にとって大切なことを大事にすることで、バランスをとりながら毎日を過ごしていきます。
自分から動いてみるという選択
しかし、それとは異なる道もあります。
「自分の言葉や行動を少しずつ変えてみること」「物事との向き合い方を見直してみること」を通じて、自分の努力がちゃんと実を結ぶ体験を増やしていく方法です。
これは、自分が主役になって、現実との関わり方そのものを変えていこうとする実践的な取り組みです。
実践のなかで「自分にもできることがある」「やればちゃんと出来る」という実感を積み重ねていくことで、自信が育まれていきます。心理学でいう自己効力感です。
他の人や周りの環境が変わることへの期待をいったん横に置いて、自分にできることに意識と力を向けてみる。
その実践は簡単ではないかもしれませんが、自分のペースで、できることから少しずつ進めていくことで、つらい状況と距離を取ることができるようになっていきます。
そして、日常の中に「やってよかった」「意味があった」と感じられることを増やしていくことができます。
自分が変わると、周りも変わることがある
このような取り組みによって、それまでとは異なる態度や振る舞い、考え方や言動が身についていきます。
それは、関わりのある人たちにも影響を与えることがあります。
あなたの新しい関わり方に相手が応じてくれると、相手もこれまでとは異なる関わり方になり、関係性が良い方向に変わっていくことがあります。
相手が応じてくれない場合も、お互いの距離感が変わったり、疎遠になっていくなど、その関係自体のあり方が変わっていくことも珍しくありません。
大切にしたい心構え
自分の努力や実践で納得のいく状況や人間関係を築いていく過程では、特に大切にしたい心構えがあります。
それは、「自分も相手も、一人の人間として大切にすること」です。
もし、相手の言動や関わり方、その状況が酷かったとしても、自分の思いや都合ばかりを優先して、相手のことを軽く扱ったり、無理を強いたりするようなやり方は、一時的にうまくいったように見えても、長い目で見ると続きません。
まずは相手の酷い態度や言動、酷い状況から一定の距離を取って保てるようになって、自分の安心・安全を確保できるようになることが大切です。
そのため、相手を尊重しないやり方は、結果として相手の酷い態度や酷い状況を、さらに自分に引き付ける可能性が高くなることは、落ち着いて考えると容易に想像できるのではないでしょうか。
この場合、とても大事なことは、相手に期待していたことを、自分自身に向けて、自分自身を今まで以上に尊重して大切にする態度や言動、行動です。コミュニケーションのスキルとしてはアサーションが役立ちます。
また、何か問題が起きたときに、お互いの責任を曖昧にしたり、表面的な対応だけで済ませようとしたりすると、誰にとっても本当の解決にはなりません。
特に、もし自分が相手を傷つけてしまったことで酷い状況や関係になっている場合、相手が苦痛を感じて反応したことに対して「自分も傷つけられた」「自分こそ大切にされていない」と感じて、きちんとした謝罪や責任ある対応を避けてしまうことがあります。
このような姿勢は、お互いにとってのつらい状況をさらに深刻にしてしまいがちです。
理想的には、相手を傷つけてしまったことに気づいたとき、まずは相手の気持ちを受け止め、素直に謝罪し、自分の言動を振り返って変えていくことが大切です。
しかし実際には、こころからの謝罪をすることが難しい人が多いのも実情です。
多くの場合、傷つけた側は「相手が敏感すぎる」「相手が大げさに反応している」「相手が変わるべきだ」と考えて、被害を受けた人の方を変えようとする関わりを続けてしまいがちです。
このような、傷つけた側の対応は、それ自体がさらなる傷つけ行為となり、傷ついた側の傷つきはより深刻になっていきます。
さらに、傷つけた側が、自分が得することや特権を温存するために、被害を受けた人の方を変えようとする関わりは、より一層、被害者の傷つきを深くしていることも少なくありません。さらに、それに周囲を巻き込んでいくと、被害者を孤立させていくことになり、さらに深刻な状況に陥ることが少なくありません。
そして、周囲も傷つけた側と同じような対応をすると、それ自体が傷ついた人をさらに傷つける行為となります。トラウマ臨床でいう二次被害です。
また、傷つけた側が、自分の行動を変えるよりも、相手に「もっと理解してほしい」「もっと受け入れてほしい」と求め、問題が入れかわっていくことも実情としてあります。
これも傷ついた側に心理的にも現実的にも大きな負担をかけることが多く、傷つけた側が関係回復を望んでいる場合、そのプロセスを複雑にする要因の一つになっていることもよくあります。
お伝えできることは、このような関わり方は、結果的にお互いの関係をさらに悪化させ、つらい状況が長引いてしまうことになることが多いということです。
そして、誰も本当の意味で満足することはできず、かえってより深い問題を生み出してしまうことさえあります。
「変わる」ってどういうこと?
「自分が変わる」とよく言いますが、実際には「できることが増える」「分かることが増える」ことで、それによって今までの考え方や物事の捉え方、使っていたやり方を使わなくなる、というのが本当のところです。
そうした新しい言動を取り入れているあなたを見て、周りの人から「変わったね」と言われることがあります。
そのとき、その人にとっての現実が変わっていることもよくあります。
お互いに良い影響を与え合いながら、より良い関係や状況を築いていくことも可能です。
最後に
毎日がつらいと感じているあなたも、自分のタイミングで、小さな一歩から始めてみることも可能です。
自分にできることに目を向けて、少しずつで良いので変えられることを変えていく。
簡単でないことも多いと思いかもしれませんが、そうした小さな積み重ねの中で、今とは違う景色が見えてくることもあります。
完璧である必要はありません。
ただ、自分も相手も一人の人間であることを大切にしながら、できることから始めてみる。
それだけでも、何かが変わり始めるかもしれないので。
プロカウンセラー池内秀行
2022.10.30公開,2025.07.18バージョンアップ版公開
Wrote this articleこの記事を書いた人
プロカウンセラー池内秀行
個人・カップル・夫婦・家族・友人同士など、幅広い人間関係やライフステージの悩みに対応する心理カウンセリング・セラピーを提供しています。人間関係の悩み、家庭内の問題、恋愛や夫婦関係に関する悩み、職場でのストレス、自己理解や自己肯定感の向上、不安・抑うつ・トラウマの癒し、生きづらさの解消など、多様なテーマに丁寧に対応いたします。クライアント一人ひとりの背景や課題に応じたオーダーメイドのカウンセリングを大切にし、初めての方でも安心してお話しいただける環境を整えています。海外在住の方や法人のご相談にも対応しています。Zoomなどを用いたオンラインカウンセリングにも対応しており、海外在住の方で日本語によるカウンセリングを必要としている方にも多くご利用いただいています。時差や言語の壁に悩むことなく、安心してご相談いただけます。東京を拠点に、全国および海外からのご相談にも対応しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
















