なぜ感情を大切にすることが理性的なのか

なぜ感情を大切にすることが理性的なのか

はじめに:感情は心のセンサー

こんにちは。カウンセラーの池内秀行です。

人は、日々、さまざまな感情(気持ち)を体験して生きています。

うれしい、楽しい、辛い、しあわせ、さびしい、ありがたい、ムカつく・・・など。

感情は人の心の状態を教えてくれる大切なセンサーの役割もあります。

そして、行動の方向性を教えてくれたり、行動のエネルギーでもあります。

感情と理性は別物?神経科学が示す真実

古くから感情と理性は別ものと考えられてきました。

しかし、実は、研究によって感情は理性に影響を与えていて、感情は思考や意思決定に大きな影響を与えていることがわかってきています。

近年の神経科学の研究によると、感情を司る情動中枢と思考や理性をつかさどる認知中枢に関する脳の部位は、双方向に神経接続していて、お互い作用しあっていることがわかってきています。

そして、興味深いことに、情動中枢から認知中枢の方に向かう神経接続の方が情報伝達の密度が濃くて、認知中枢からの情動中枢への情報伝達は比較的限定的であり、情動システムからの情報は、注意、知覚、記憶などの認知機能や高次の思考プロセスに優位に影響を与えていることがわかってきています。

理性優位の考え方の再考

とはいえ、人間は機械ではないし、実際の生活の営みは、様々な内的・外的要因の影響があり、それは複雑系なので、その相互作用も実際は個人差もあれば複雑であることは容易に想像できます。

それでも、少なくともこうした生物としての脳機能をふまえると、古くからどの文化にもある成熟した人間像の要素の一つである「理性的である」ために、感情的な状態を否定的に評価してきたことを、現在の知見に基づいて再考する必要があると思います。

これまで、理性的な人間であるために考え出され試みられてきた様々な方法や習得・修行方法の多くは、基本的に理性(考え方や思考)で感情を変えられるという理性優位の前提で組み立てられているものが多いので、そこには人間が生物であることを踏まえると無理がありそうです。

生物としての脳内の情動と認知の相互関係を踏まえると、理性を働かせるためには、自分の感情を無視することはできないというのが実態のようです。

要は、理性的に考えたり意思決定するためには、まずは自分が感じている感情に気づいていて、その理解が不可欠と言えそうです。

カウンセリングの実践と神経科学の一致

自分の感情に気づき、良し悪しを判断せず、ただ正直に観察して、自分のニーズに気づき具体的に確認し、お互いを尊重したアサーティブなコミュニケーションを心がけること。

カウンセラーとしての立場では、脳内の情動と認知の相互関係の神経科学的知見は、カウンセリングで身につけてもらうために取り組んでいく人間関係スキルの内容が、生物としての人間の機能にも合致しているという確認になります。

社会が感情表現を抑圧してきた歴史

改めて確認しておきたいのは、これまでの人間の歴史のなかで、社会的に感情を率直に表現することは好まれてきませんでした。その傾向は今でも強くあります。

楽しい、嬉しいなど、ポジティブ感情といわれる感情はOKでも、さびしさ、悲しみ、特に怒りなど、ネガティブ感情と言われる感情は、我慢して表現するものではないとされてきた歴史があります。

この背景にはいろいろな理由があると思います。その一つの理解として、権力支配など構造的な理由があります。他者のネガティブ感情を否定することで得する人が存在するという視点です。

「健全な怒り」と「不健全な怒り」の区別

特に怒りに関しては、権力側の立場の人や相手・状況に対して強い権限を付与されて優位な立場にいる側の人が、相手を怒りでコントロールしたり支配することを戒め、他者を尊重する健全な関わり方・仕組みを求める必要性から、理性的であれと「自分自身の怒りの取り扱い方」を習得してもらうことは大切です。

一方、理不尽な状況に一方的に追いやられたり、安全や権利を一方的に侵害される側が、自らを守り権利を主張するために感じる怒りは、権力側の立場や強い権限を付与されて優位な立場にいる側の人が自分の思い通りにならないフラストレーションから感じる怒りとはその源が異なります。したがって、怒りでも性質が異なります。

自らを守る側の怒りは、一方的な関わりや関係で危機を感じた時に身を守るための反応です。こうした怒りは「健全な怒り」として捉えることができます。

権力側の立場・権限を付与された優位な立場の者が、相手を尊重することなく一方的に自分の思い通りにならないことに対するフラストレーションから感じる怒り、そしてその怒りを使って相手を自分の思い通りにしようとする怒りは、支配のための「不健全な怒り」として捉えることができます。

古くから成熟した人間の要素として推奨されてきた「理性」は、不健全な怒りをどのように制御し調整し、いかに「人の役に立つ・社会の役に立つ人間として生きていくのか」、という哲学的な生き方の姿勢として言われてきたことだと思いますので、こうした怒りの区別は大切だと思います。

感情表現のレッテルと生きづらさ

また、感情を人に語ることは、いけないことであるかのように考えられてきた歴史もあります。

特に、ネガティブ感情は、それを人に話す人は、弱い人間であるというレッテルを貼られてきた歴史が長いです。

感情について正確な知識と理解がないと、こうしたレッテルの影響をまともに受けてしまいがちです。

カウンセリングで実感するのは、どこかにこの感覚があると、いくら生活や人生がうまくいっていて、成功していても、人間としての生きづらさがついてまわっていることがよくあります。

他者に弱い人間というレッテルを貼る側は、弱い人間とレッテルを貼られる側との関係で、なんらかの優位性に基づいて得することや現実的に得られる利益があったりします。

弱い人間というレッテルを貼ることで、貼る側の優位性を確認し、それに基づいて得することや現実的に得られる利益の分配を拒む理由に使われていたりします。本当は理由になっていないにもかかわらず。

感情に「良い・悪い」はない

感情には、快・不快はあっても、良い・悪いはありません。

良い・悪いは、何らかの評価や価値判断に基づくものです。

その評価や価値判断の基準が一方的で相手の権利を尊重していない評価基準や価値観の場合、そこには何らかの解決しようのない人間関係の問題や理不尽・不公平な現実的問題が生じているかもしれません。

どんな感情を抱いても大丈夫です。それが人間なのですから。

大切なのは、その感情が教えてくれていることに気づき、それをアサーティブに表現し、物事や関係性に働きかけていくことです。

感情を大切にすること

理性的であるためには、まず感情を大切にして注意をむけることです。

そして、感情が教えてくれている、自分が大切にしたいことを確認し、同じように相手が大切にしたいことも確認することです。

それをお互い尊重し、理性的に話し合い・協力しあい、その中でまた感じる感情も大切にしていく。

理性的であるためには、逆説的ですが、急がば回れで、自分の感情を大切にする努力が必要。

それは、「自分の考え」とは別に「自分の気持ち」を率直に言葉にして他者に伝えていくことです。

そのためには、考えだけではなく、気持ちを聴いてくれる・理解を示してくれる相手が必要です。

こうした関係を日常で持とうと思えば、自分の感情はもちろん相手の感情も同じように尊重して大切にしていく努力を続けていくことが大切です。

理性的な人とは

神経科学の知見も踏まえると、理性的な人とは、自分と他者の感情を大切にする努力を日々積み重ねている人ということなのではないでしょうか。

そのための考え方とスキルは存在しています。

感情と理性は対立するものではなく、切ってもきれない生まれながらに密接に結びついているものなのす。

感情と理性は、相互に作用しながら、私たちの心の健康と豊かな人間関係を支えているのです。

文責 カウンセラー池内秀行
2025.11.13誤字脱字修正・一部表現改訂

参考文献

1.川村光毅「扁桃体」脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/扁桃体

Barbas, H. (2007). Sequence of information processing for emotions based on the anatomic dialogue between prefrontal cortex and amygdala. NeuroImage, 34(3):905-923.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S105381190600989X

Sun, S. et al. (2023). Functional connectivity between the amygdala and prefrontal cortex underlies processing of emotion ambiguity. Translational Psychiatry, 13:334.
https://www.nature.com/articles/s41398-023-02625-w

Morawetz, C. et al. (2017). Effective amygdala-prefrontal connectivity predicts individual differences in successful emotion regulation. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 12(4):569-585.
https://academic.oup.com/scan/article/12/4/569/2739707

Banks, S.J. et al. (2007). Amygdala–frontal connectivity during emotion regulation. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 2(4):303-312.
https://academic.oup.com/scan/article/2/4/303/1676121

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プロカウンセラー池内秀行

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