傷つきやすさとコミュニケーション

こんにちは。カウンセラーの池内です。

カウンセリングの中で、よくある悩みの一つとして、傷つきやすい相手に必要なことをどのように伝えたらよいか、というコミュニケーションの悩みがあります。

特にこの悩みは、恋愛関係、夫婦関係など親密な関係の相談でよく出てきます。

相手が傷つきやすい領域については、できるだけ傷つけないように気をつかい、自分の必要性を引っ込めて相手に合わせている人が多く、遠慮がちになっていて、それがストレスなのでなんとかしたい。

それがストレスになるのは、誰しも想像がつくのではと思います。

相手のことを気遣い、自分の必要性を引っ込めて相手に合わせていく。

それが続き、その関係性のパターンになっていくと、それは片方または両方のニーズが満たされない状態が慢性化することになります。

それでは、金属疲労のように不満が募っていき、その関係に悪影響を与えていくことも想像できるのではないでしょうか。

ここのところの自己肯定感を高めるブームもあり、こうした傷つきやすさを自己肯定感を高めることで解決できるのではと思う人も多く、傷つきやすい相手に、自己肯定感を高めることを求める人もいらっしゃいます。

功を奏することもあるのでしょうが、相手に自己肯定感を高めることを求めるだけでは、うまくいかず、さらに問題が深刻化しているケースもあります。

こうしたケースの場合、お話を伺っていくと、傷つきやすさの背景に「男らしさ女らしさ」という社会的風潮に基づく基準があることがよくあります。

それぞれの中に「男らしさ、女らしさ」の基準があり、ご本人たちは、それを当然のように思っていることが多く、その基準で相手をみているので、そこから「相手は傷つきやすい」と分析していることがよくあります。

自分の中に「男らしさ、女らしさ」の基準があることに気づいておらず、気づいていても、それが個性や人間性より優先していると、男性の場合は女性からの男らしさについての肯定的フィードバック、女性の場合は男性からの女らしさの肯定的フィどバックがないと、異性から見た自分に自信がもてなくなります。

さらに、お互いの「男らしさ、女ならしさ」の基準そのものが違うと、相手に肯定的なフィードバックをしても、それが相手の基準からズレていると、褒めているのに機嫌が悪くなったり怒られたりということも起こります。

また、相手から肯定的なフィードバックをもらおうとして、相手の「男らしさ、女らしさ」の基準に合わせて頑張っていると、疲弊して自分が何者かわからなくなるという体験をしている人もいらっしゃいます。

相手が依存的だ、承認欲求が強いという悩みをもっているケースの場合、その人自身が相手の個性や人間性を尊重しているつもりでいても、実は「男らしさ、女らしさ」の基準で相手と関わっており、その関わりが相手を苦しめていることに気づいておらず、その結果として相手が依存的に感じたり、承認欲求が強いと解釈していることもあります。

「男らしさ、女らしさ」という社会的風潮は、文化的なものでもあるので、それがあることそのものを否定する必要はないと思いますが、恋愛関係や夫婦関係において、それが相手の価値や人間性を決める基準になっており、それ以外の個性や本来の一人の人間としての人間性をディスカウントしたり、否定したり無視していると、それはパートナーの生きづらさの原因になってしまいます。

「男らしさ、女らしさ」の基準でみている人からは、自分の関わりでパートナーが生きずらさを感じていることに気づいていないと、それが「傷つきやすさ」として見えていることがよくあります。

特に、恋愛関係、夫婦関係において、「男らしさ、女らしさ」の基準で関わる代償は大きく、「男らしさ、女らしさ」が壁となり、お互い人間としての率直なコミュニケーションをとることを阻み、常に何らかのフラストレーションを感じるコミュニケーションになってしまい、必然的に関係性の満足度も低下していきます。

これが一方的になればなるほど、モラハラやDVなどになっていきます。

相手を尊重して相手のことを心から思って関わっているのにうまくいかないと思うときは、自分自身が気づいていないところで「男らしさ、女らしさ」の基準でそういう関わりをしていないか、その可能性を疑ってみることが大切です。

それはそれで、相手を尊重していることにはなりますが、基準が異なると、「男らしさ、女らしさ」を尊重しているのであって、目の前の相手の個性や人間性を尊重していることにはなりません。

「男性、女性として尊重する」と「男らしさ、女らしさを尊重する」は異なります。

親密な関係では、日々、人間として、お互い優しさと尊敬をもって正直な気持ちやニーズを伝えるコミュニケーションをしていくことが大切です。

それが「男らしさ、女らしさ」で傷ついていたり疲弊している心を癒していくことにもなっていきます。

2022/03/02 文責 池内秀行